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なぜミレニアル世代が“強力な履歴書”にすがるのか

あるレポートによれば、ある調査によれば、ミレニアル世代はそれ以前の世代と比べて学歴や職歴が「強力な履歴書」を求められるという。その現状とは。

» 2022年08月29日 10時00分 公開
[Rick SeltzerHR Dive]
HR Dive

 ある調査によれば、ミレニアル世代はそれ以前の世代と比べて学歴や職歴が「強力な履歴書」を求められるという。一体なぜか。

ミレニアル世代の不都合な真実

 労働市場における中等後教育の価値が高まるにつれ、若年層が質の高い仕事に就くまでの道のりがより長く、複雑になっている。その道のりは、さまざまな要因によって平等ではない。

 ジョージタウン大学の教育労働センター(CEW:Center on Education and the Workforce)が2022年の5月19日(木)に発表した2つのレポート(注1)によると、ミレニアル世代の最年長者のほとんどは、30代前半まで良い仕事に就けなかった。一方、ベビーブーマー世代の年長者は、20代半ばまでに良い仕事に就くことがほとんどだった。

 一方、年齢を重ねるにつれて良い仕事に就く割合は、ミレニアル世代がベビーブーマー世代を上回り始めたという。しかし、良い仕事に移行するまでの期間が長くなると、学生ローンの返済や家の購入、新たな夢を追いかけることができなくなる。若い世代にとっては依然として影響が出る問題だ。

 レポートの著者の一人であるキャサリン・ペルティエ・キャンベル氏(ジョージタウン大学CEWの編集方針担当アソシエイトディレクター)は、「若い世代、特に学部に在籍する学生は、前の世代に追い付けたとしても、その遅れが彼らの後の人生に大きな影響を与える」と述べている。

 このレポートは、質の高い仕事を求める若者にとって3つの大きな障壁があると指摘する。「中等教育費用の上昇」「質の高い仕事のベースとなる教育を受けることの難しさ」「カウンセリングやキャリアナビゲーションサービスの不十分さ」だ。これらの障壁は、差別によってさらに悪化しているという。

 レポートは「今日の若者は、前の世代に比べてさまざまな機会を得やすい環境にはあるが、アメリカ経済で成功するチャンスは決して公平ではない」と、人種や性別に基づく偏見によって良い仕事に就けないことを明らかにした。

 ジョージタウン大学CEWは、高等教育が学生のキャリアにどのような影響を与えるかについて長年研究してきた。この8カ月の間に、大学進学者と高校卒業者の収入を比較し(注2)、低所得層の学生に高い投資対効果をもたらす大学を紹介し(注3)、教育レベルが上がると生涯所得が大幅に増加することを示すレポートも発表している(注4)。

 ジョージタウン大学CEWの調べでは、一般的に学歴が高いほど収入が多いことが分かっている。しかし、学生の職業や研究分野、大学の選択、プログラムは重要だ。

 今回のレポートは、家庭環境や学位取得の選択など、相互に関連した要因が人生の結果に影響を及ぼすことを示しているとして衆目を集めた。現在の若い労働者世代は、これらの要素が相互に作用した結果、前の世代とは別の要因で機会を得にくくなっている、とキャンベル氏は言う。

 「人種、階級、性別に基づく若者の機会に対して、さまざまな要因が連鎖的に影響を与えるのだ」(キャンベル氏)

ミレニアル世代は“強力な履歴書”がないと良い仕事に就けない

 レポートの趣旨には「良い仕事に就く可能性に影響を与える教育格差は、大学教育を受けた者と受けなかった者の間の社会経済的な格差を拡大し、上昇志向を制限し、階級間の対立を助長している」とあり、現在の情勢に懸念を示している。

 レポートは経済的な自立を可能にするものを「良い仕事」と定義する。(良い仕事とは、)全国的には、45歳以下の労働者は最低3万5千ドル、それ以上の年齢の労働者は最低4万5千ドルの年収を得られる仕事を意味する。

 これは生活費が異なるため地域によって異なる場合がある。25〜35歳の労働者の「良い仕事」の中央値は5万7000ドルだ。

 今日の良い仕事には、かつてよりも多くの学歴と職歴が必要とされる。つまり、若年層がキャリアをスタートさせるには、より強力な履歴書が必要であり、良い仕事に就くにはより時間がかかる。

 このレポートは、1946〜1950年に生まれたベビーブーマーと、1981〜1985年に生まれたミレニアル世代という2つの出生集団を比較している。ベビーブーマー世代の50%近くは、25歳のときに良い仕事に就いていた。ミレニアル世代の45%以下はそうではない。

 しかし、ミレニアル世代は、30歳前後からベビーブーマー世代よりも平均的に良い業績を上げるようになった。35歳までに、ミレニアル世代の60%以上が良い仕事に就いていたのに対し、ベビーブーマー世代は半数強にとどまっている。

 ミレニアル世代では学歴が大きな分かれ目となった。学士号以上の学位を持つミレニアル世代の約80%が35歳の時点で良い仕事に就いていたのに対し、カレッジか準学士号を持つ者は56%にすぎなかった。一方、高卒は42%、高卒資格を持たない人が良い仕事に就いている割合は26%にすぎなかった。

 レポートの執筆者が世代と学歴を比較した結果、ミレニアル世代の集団で、対応するベビーブーマー世代の集団よりも良い仕事をしている可能性が高いのは、学士号以上の学位を持つ労働者のみであることが分かった。

 異なる人種、民族、性別の間での教育格差がより強調されるようになったわけだ。「ミレニアル世代は現在、最も多様性に富んだ世代である」と報告書は述べている。

親の経済的地位がキャリアに大きく影響

 男女別や人種別、民族別のデータを掘り下げると、集団ごとの大きな違いが見えてくる。

 働く若い女性は、一世代前に比べて良い仕事に就く可能性が高くなったが、若い男性にはまだ及ばない。黒人やアフリカ系アメリカ人、ヒスパニックやラテンアメリカ系の労働者も、白人の労働者に比べて良い仕事に就く確率は著しく低い。

 アジア系アメリカ人男性と白人男性は、10人中6人以上の割合で良い仕事に就いており、調査した人口動態グループの中で最も高い割合だった。一方、ヒスパニック系とラテン系の女性では、良い仕事に就いている人は29%にすぎない。

 「人種、民族と性別は、良い仕事に就くチャンスに影響を与えている。その結果生じる社会階層は、幼少期からキャリアを得るに至るまで、若者の教育や仕事の機会に対するアクセスの違いを反映している」とレポートは述べる。

 社会経済的地位の高い両親を持つ子どもは、若年期に良い仕事に就く確率がかなり高いことが報告されている。10年生(日本における高校1年生)のときから10年後、所得五分位のうち社会経済的に最も高い階級の親を持つ人の34%が良い仕事に就いているのに対し、最も低い階級の親を持つ人はその割合がわずか19%だ。

 「裕福な親は、子どもが社会的、学問的な支援を受けられるようにするために最適な立場にある」とレポートは述べている。裕福な親は、資金力のある公立学校のある地域に住むことを選択できる。裕福でない両親の子どもや大学に進学していない子どもは、重要な社会的、学問的支援を、不平等でしばしば不十分な公教育システムの最も弱い部分に頼らざるを得ない」とレポートは述べている。

若者の格差を埋める5つの提言 企業ができることは?

 レポートによれば、教育だけでは観測された格差を解消することはできない。若い世代に経済的安定を得る機会を平等に与えるため、次のような幅広い政策改革を実施するよう求めている。

  • 文化に対応した教育やカウンセリングなどの投資により、この国の多様性を受け入れる。
  • 政策やプログラムの改革を公平性の観点で捉え、不平等を測定し、その解決に取り組む。
  • 質の高いユニバーサルプリキンダーガーデンや、公立学校への公平な資金提供など、若者を対象とした包括的な支援を提供する。
  • 教育と労働市場を一つのシステムとして扱い、雇用者の関与を含むプログラムに投資する。
  • 特に社会から疎外されている若者を支援するため、中学から大学までキャリアや仕事に関する学習に触れる機会を提供する。
  • 透明性が高く、データに基づいたキャリアナビゲーションシステムを構築する。公平で効果的な結果を出すための説明責任を果たす。高校や高等教育機関が、生徒が教育計画やキャリア計画を立てるための単位取得コースを提供する。
  • 大学をより身近なものにし、大学進学のための資金調達における人種間、民族間の格差を縮小する。これは、大学無償化や段階的な資格認定、コミュニティーカレッジのバカロレアプログラム、大学編入パスの改善などに投資することで実現できる。

 この報告書の著者であるジョージタウン大学CEWのアーテム・グリッシュ氏(シニアポリシーストラテジスト兼研究教授)は、「大学の指導者は、学生が専攻や進路を選ぶ際に将来の機会を考えるのに必要な情報を与えなければならない」と述べている。また、インターンシップや実習など、キャリアを通じた学習が今日の雇用市場で重要であることも忘れてはならないという。

 グリッシュ氏は、学位取得のためにまとまった時間を割くことができない学生にも高等教育を提供できるよう、段階的または積み重ね可能な資格の取得を提案した。また、教育費も重要な検討事項の一つであることを強調した。

 「費用は学生や若者の経済的な幸福に大きな影響を与える。雇用主にとって、公平性の促進は重要なポイントだ。雇用主が依存するソーシャルネットワークやシステムの多くは、本質的に裕福な若者集団に偏っている。すなわち、雇用主はそれに積極的に対抗しなければならない」(グリッシュ氏)

 グリッシュ氏は、雇用主は教育システムに働きかけて、仕事に即した学習機会を提供することで利益を得られると主張する。そうすることで、退職するベビーブーマー世代を部分的に補うために、若い労働者を早期にその分野に取り込めると同氏は言う。

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