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RPAが個別最適に陥る本当の理由

RPAによって一部の業務自動化に成功した後、適用範囲を広げようとすると課題が噴出するという話はよく聞く。業務自動化が個別最適で終わってしまう理由を幾つかの側面から考察した。

» 2022年11月15日 09時00分 公開
[キーマンズネット]

 2022年8月にガートナーが発表した「クラウドプラットフォームサービスのハイプサイクル2022」によると、ツールやサービス間連携を自動化する「iPaaS」(Integration Platform as a Service)が安定期に入り、ピークを迎える日も近いという。iPaaSをはじめ、さまざまな自動化ツールがトレンドになる中、業務自動化ブームを生んだRPA(Robotic Process Automation)は社会にどれほど根付き、どこまで利用が浸透したのだろうか。

 RPA活用の現在地を探るために、キーマンズネットは「業務自動化に関する意識調査2022年」と題してアンケート調査を実施した(期間:2022年9月14日〜10月17日、有効回答数:518件)。本連載は、全7回にわたってアンケート調査から得られた結果を基に活用状況と課題、発生したトラブルなどを紹介する。なお、グラフで使用している数値は、丸め誤差によって合計が100%にならない場合があるため、ご了承いただきたい。

RPAが個別最適に陥る本当の理由

 第2回のテーマは「スケールの障壁」だ。普及期に入ったRPAの話題としてよく取り上げられる課題だ。一部の業務を自動化に成功した後、適用範囲を広げようとすると課題が噴出するという話はよく聞く。業務自動化が個別最適に陥ってしまう理由を幾つかの側面から考察した。

 RPAの導入有無と進捗(しんちょく)状況について尋ねた項目では、「トライアル実施中」「トライアル完了」「本格展開中」「本格展開完了」と答えたのは39.7%だった。企業はどのような目的でRPAを導入するのだろうか。RPA導入時に最も重視することを聞いたところ、「業務時間の削減」(43.0%)が1位に上がり、「DXを見据えた全社的な業務プロセス改革の実現」(23.0%)、「人的ミスの削減」(13.0%)と続いた(図1)。

 近年は、RPAを全社的なプロセス改革を目指して導入する企業も増えたと言われているが、今回の調査では20%近くが全体最適化のための手段としてRPAを認識していることが分かる。一方で、これに20ポイントの差をつけて「業務時間の削減」がトップに上がったことを見ると、RPAブームの当初から言われてきた労務環境の改善に期待する企業が依然として多いことがうかがえた。

 なお、RPAによる自動化の対象となるアプリケーションは、「Microsoft Excel」(50.6%)、「メールシステム」(29.2%)といった個人がPCで作業するようなアプリケーションがトップを占め、RPAの適用範囲が限定的であることが推察できる(図2)

図1 RPAの導入目的
図2 RPAによる自動化対象のアプリケーション

 これと関連してRPAで自動化する業務を選定する際に重視するポイントについては、「削減できる業務時間や人件費」(48.1%)、「現場からの要望」(22.8%)の回答率が高く、「全社的なプロセスのリードタイムや効率性」(21.4%)よりも高い数値を示した(図3)。

 従来、RPAは大量多頻度の定型業務を自動化することで、システム化より大きな費用対効果を得られることで人気を博してきた。こうしたことからRPAによる自動化の対象業務は「より多くの時間を要している大量ルーティン作業」が選ばれ、自動化の効果も「削減時間の創出」や「人件費の削減」などがフォーカスされる傾向にあった。しかし、業界や業種によってはRPA化に適しているとされる「大量多頻度の業務」を継続的に見つけ出すことは難しいと言われてきた。

 また現場がプロジェクトに深く関わりながら、自ら業務を効率化できるという特性もRPAが愛されてきた理由の一つだ。一方でRPAプロジェクトに事業部門が深く関わり、現場の「足元の課題をどうにかしたい」という声が強く反映されることで、個別最適に陥りやすく、全体最適の視点がおろそかになるという問題も発生する。

 RPAを導入したものの期待した効果を得られなかった企業の中には、「RPA化に適した業務がなく効果が頭打ちになった」「削減時間を積み上げると大きな数字に見えるものの、結局は業務の一部しか自動化できず、プロセスが大きく改善した気がしないばかりか、ロボットの数が増えたことで保守費用がかさみ費用対効果(ROI)が出せない」といった声も聞こえてくる。

 RPAは適用範囲を広げることで効果を最大化できるとされているが、ただ目の前の課題を解決するロボットを増やすだけでは効果は限定的になりがちで、管理保守の問題が発生する場合もあると分かる。

 自動化の取り組みを局所的なものに終わらせず、全社的な改革につなげるためには、現場の視点に偏らないアプローチで「(部門をまたぐような)広範囲な業務プロセスの改善やスピードの向上につながるかどうか」「業務の先の顧客価値につながるかどうか」といった視点も取り入れながら、目的やKPI、業務選定基準をチューニングする必要があると言える。

図3 RPA化する業務を選定する際に重視すること

人手不足、機能的な制限もスケールの障壁に

 ここまで、RPAプロジェクトの目的設定や自動化対象業務の選定といった視点で、適用が拡大しない要因を考察してきたが、その他にどのような障壁があるのだろうか。「RPAの拡大、展開時」にどのような壁があったかという質問においては、「RPAロボットのスキルを持った人がいない」(45.6%)、「業務の一部しか自動化できない」(35.4%)、「ロボットの管理が煩雑」(34.0%)、「ロボットが停止する」(28.2%)などが挙がった。

図4 RPA本格展開時の課題

 RPAは利用部門の従業員でもロボットの開発や運用が可能だと言われるが、操作方法の習得には時間がかかる上に、全社的な効果を狙うためにはKPIや評価指標などを取りまとめるプロジェクトリーダーの存在が必要だ。人材確保や社内体制の整備については、各ベンダーやSIerがさまざまなノウハウを発信しているので参考になるかもしれない。

 一方、「業務の一部しか自動化できない」「ロボットの管理が煩雑」「ロボットが停止する」という問題はRPAの機能的な特性が一因だと考えられる。これについても、近年は「ハイパーオートメーション」という概念の下に、RPAだけでなくAI(人工知能)やiPaaS(Integration Platform as a Service)、ローコードアプリケーション開発ツールなどの技術を組み合わせて、RPAの弱点を補い、より広範囲な自動化を実現するアプローチが推奨されている。実際に、大手のRPAベンダーはこれらの技術を自動化機能のポートフォリオとして取り込んだり、他社サービスとの連携機能を強化したりすることで、総合的なオートメーション機能を実現するとしてアピールしている。

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