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迫るEDIの2024年問題 トレンドの移行先「クラウドEDI」の基本や選び方、導入のコツ

NTT東日本・NTT西日本が提供しているINSネット(ディジタル通信モード)サービスが2024年初頭に終了する。それに伴い、多くの企業がEDIシステムの移行先としてクラウドEDIを選択している。EDIの基本やディジタル通信モード終了の詳細、クラウドEDIの基本や選び方、導入のコツを解説する。

» 2023年02月13日 07時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 EDI(Electronic Data Interchange/電子データ交換)とは、取引先との間で取引データや書類をデジタルデータで送受信する仕組みを指す。多くの企業は、NTT東日本・NTT西日本の提供しているISDNサービス、INSネット(ディジタル通信モード)サービスでEDIを運用している。しかし同サービスは、2024年1月に予定されている固定電話網からIP網への移行に伴い終了する予定だ。

 終了までに、INSネット(ディジタル通信モード)サービスを利用しているEDIシステムはリプレースが必要な可能性が高い。そこで移行先の有力候補になる「クラウドEDI」の基本や選び方、導入のコツについて解説する。

 なお、INSネット(ディジタル通信モード)サービスは終了するが、INSネットや加入電話サービスの終了はしないため注意が必要だ。

EDIの基本やメリット、デメリット

 取引に際して関連情報をデジタル化し、自社の業務システムから相手先の業務システムへデータを連携させるための、仲立ちをする仕組みがEDIだ。EDIの代表的なメリットには「送達の確認が可能で、確実なデータ交換ができること」が挙げられる。

 EDIは広く普及しており、近年は業務のデジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一助としても注目されている。一方、EDIには次のようなデメリットもある。

  • 発注企業(買い手)の都合に合わせることが頻繁に求められ、相手先別にEDIシステムの構築が必要になることがある
  • 発注企業の取引情報システムが多岐にわたり、受注企業はそれに合わせて複数〜多種のシステムを利用するため、取引拡大に合わせて運用管理負荷が増加していく

 これら問題は、発注企業と受注企業の2社間での独自EDIを進めるときには顕著になる。そこでインターネットを利用してある程度標準的な通信手法を用いる「インターネットEDI」も積極的に採用されるようになった。しかし、インターネットEDIの標準は数種あるものの汎用的に利用できるものではない。結局、多数のインターネットEDIシステムを利用せざるを得ず、根本的な解決には至っていない。

 特に大企業から受注することが多い中小企業は、発注元が開発した取引用の情報システムに自社のシステムを合わせざるを得ず、システム改修や運用上の負担が大きく、問題になっている。

 このような問題を解決するための鍵がデータ交換仕様の統一なのだが、現在のところは各業界の標準が並立し、業種間、あるいはグローバルの標準仕様はない。主な標準通信プロトコルは次の表のように各種存在する。

種別 通信手段 通信プロトコル
レガシーEDI ISDN/固定電話回線 JCA手順・全銀ベーシック・全銀TCP/IP広域IP網・FTP、その他手順
インターネットEDI インターネット回線 JX手順・EDIINT AS2・ebXML MS・SFTP・HTTPS・全銀TLS、その他手順

 また、データフォーマットも固定長、CSV、XMLが利用されており、時には伝票や書類などの関連データをPDF、JPEG、EXCEL、ZIP形式で送受信することもある。EDIでは受発注データだけでなく取引に関連する各種データを扱うためだ。

 メッセージと通信プロトコル、セキュリティの仕様を業界で標準化する動きは古くからあり、標準仕様としては流通BMS(消費財流通業界)、ECALGA(IT/エレクトロニクス業界)、JPCA-BP/CeS(石油化学業界)、鉄鋼EDI(鉄鋼業界)、業界VANとしてはJD-NET(医薬品業界)、FINET(酒類・加工食品業界)などが利用されている。

 また、小売業界では業界内の受発注業務に特化したEDIの一種、EOS(Electronic Ordering System/受発注システム)も採用されている。しかし、発注側と受注側で取り決めた独自仕様のEDIで運用しているケースは少なくない。

INSネット(ディジタル通信モード)サービス終了で何が変わる

 こうした状況の中で、NTT東日本・NTT西日本が2024年初頭にINSネット(ディジタル通信モード)サービスの提供を終了すると発表(2015年)した。インターネットEDIへの移行を済ましていない多くのEDIシステムが同サービスを利用していたため、影響は広範に及ぶ。

 混乱を予防するために、NTT東日本・NTT西日本はメタル回線(IP電話上でのデータ通信)で代替する「補完策」を公表している。この補完策は従来のINS電話回線をそのままにして、通話やデータ通信を継続できる仕組みになっている(図1)。NTT東日本・NTT西日本は「2027年頃をめどに提供を続ける」としているので、しばらくは猶予があるとも考えられる。

図1 INSネット(ディジタル通信モード)サービス終了に伴う「補完策」(右)と従来の同サービス(左)(出典:NTT東日本・NTT西日本「固定電話のIP網への移行後のサービス及び移行スケジュールについて」

 しかし、「補完策」の品質は従来と同一の品質ではなく、すでに通信遅延が生じることが分かっている。2017年にインターネットEDI普及推進協議会(JiEDIA。当時はJISA EDIタスクフォース)が実施した検証では、図2に示すように従来の1.1〜4倍の遅延が認められた。多くの取引に影響することで、データ交換の遅滞(渋滞)、業務の遅延につながりかねない。

図2 JiEDIAが公表している「補完策」の検証結果(出典:インターネットEDI普及推進協議会)

 ISDN利用企業が急いで検討しなければいけないのが「次世代EDI」への移行である。IP網を利用することでISDN網の代替になる。NTT東西が代替案としているのは「ひかり電話データコネクト」への移行だが、同一メーカーの対応製品でなければ利用できず、多くの取引先とのEDIでは利用しにくい。また、IP-VPNを利用する代替案もあるが、そもそもVPN網の利用料金がINSネット(ディジタル通信モード)サービスの利用よりも高額になるところが問題だ。

 つまり、ISDNを利用してEDIを利用してきた企業は次の対応が必要になる。

(1)NTT東日本・NTT西日本の補完策を利用し、従来のままメタル回線で同じEDIシステムを利用し続ける

 特段システム改修をする必要はないが、2027年までには他の方法に移行する必要がある。また、最大4倍といった伝送遅延を織り込んで運用しなければならない。

(2)「ひかり電話データコネクト」または「IP-VPN」を利用する

 ひかり電話データコネクトはm対nのEDIに向かず、IP-VPNは通信コストが高額になる。ただしIP-VPNは、特定相手先との大容量通信が主の場合には好適な選択肢となる可能性がある。

(3)インターネットEDIを構築する

 インターネットを活用し、標準的ないくつかのプロトコルを利用できるが、移行のためには既存システムを大幅に改修するか、新規開発の必要がある。また取引先の合意とシステム対応が必要になる。

 (1)は遅延が問題になる場合には早急に他の方法に移行しなければならない。(2)の場合も取引先数や回線コストの面で難しいかもしれない。将来性を考えればインターネットEDIは最善の方法かもしれないが、システムの見直しが必要になるため初期投資と運用管理コスト面でちゅうちょする可能性もあるだろう。

 そこで、新たな選択肢としてクローズアップされているのが、EDIシステム自体を外部化するクラウドEDIだ。クラウドEDIは通信手段の変更に直接関連するものではないが、通信ネットワークを含めてサービス対象とする業者が多く、INSネット(ディジタル通信モード)サービスによるデータ通信終了の発表をきっかけに、EDIシステムを見直す機運は急激に高まっている。

クラウドEDIの基本と導入のコツ

 クラウドEDIは、EDIシステムそのものを全部、あるいは一部を外部のサービス業者に任せるSaaSである。従来はオンプレミスで構築してきたEDIサーバを社内からなくし、クラウドサービス業者の共用サーバあるいは専用サーバに移行するのが基本的な利用形態になる。

 オンプレミスでインターネットEDIが構築済みで問題なく運用できている場合は、無理にSaaSに移行する必要はない。取引先が増えるなどの際にシステム改修をするのではなく、プロトコル変換・コード変換などの、新しい取引先が求める機能だけをSaaSに任せることも可能だ。社内にEDIサーバを置かない選択も、従来通り使い続ける選択も可能なのがクラウドEDIの特徴一つだ。

 クラウドEDIのメリットは大きく次の6つとなる。

  • 取引先の増加、相手先のデータ要求の変化や追加に際して自社側のシステムを改修する必要がない
  • サーバや通信機器などの新規購入コストやメンテナンスコストが削減できる
  • 社内業務システムからのデータのスケジュール転送、配信が自動化できエラーの発生が防げる
  • 人による管理操作などが必要な場合でもブラウザ上の操作で完結できる
  • 機器障害による業務ダウンタイムが削減できる。社内業務システムの冗長化などの故障対策も最小化できる
  • 通信履歴は一定期間保存され、ブラウザからの閲覧が可能なのでガバナンス強化に役立つ
  • さまざまなインターネットEDIに対応している

 オンプレミスEDI構築とクラウドEDI(SaaS)の双方を提供しているTOKAIコミュニケーションズでは「特にオンプレミスEDIシステムの設定変更などがユーザー企業内でできなくなるケースが見受けられます」と指摘する。

 EDI導入時の技術者が去り、ブラックボックス化したEDIシステムを運用している企業も多いようだ。これに対して「クラウドEDIの場合なら、新しい取引先などに向けた設定変更が必要になり次第、申請書で詳細を送付すればすぐに対応可能です」と言う。

 基本的にクラウドEDI業者は、各業界で普及してる通信プロトコルやメッセージフォーマットに対応可能で、必要に応じて迅速に適用できる。即日の対応は無理でも、自社で設定変更や改修を実行するのに比べて早く対応できる可能性が高い。

 また、クラウドサービス全般に言えることだが、機器障害の心配がほとんどなくなるのは大きな特徴だ。特にEDIシステムは長年継続利用している場合が多く、通信機器などの故障に際してリプレースしたくても同一製品が入手できないことも多い。クラウドサービス業者は信頼性や耐障害性の高いデータセンター内で冗長化したシステムを運用しており、障害監視と対応が常時行われているため、そもそも障害が起こりにくく、たとえ障害が発生しても短時間で復旧可能なところがメリットの一つだ。

 さらに、EDI接続は双方で同じEDIの通信プロトコルに対応した仕組みを持つ必要があるが、対応している通信プロトコルが合わず、接続できないケースがある。クラウドEDIを利用する場合は、既に世の中で普及しているさまざまな通信プロトコルにクラウドサービス側で対応しているため、相手先の仕様に合わせることも容易に実現が可能で、双方の負担を低減できるところもメリットだ。

 なお、オンプレミスEDIのクラウドEDIへの移行や、EDI新規導入でクラウドEDIを採用する場合の注意点として、TOKAIコミュニケーションズの技術者は「相手先との取り決めが十分にできていないと運用開始までの時間が長くなります。オンプレミスシステムの移行の場合だと標準的には3カ月、最短だと1カ月の移行期間が必要ですが、相手先となる企業との移行タイミングの合意や、通信方式の細部の詰めができていないとうまくいきません。取引先との協議も含め、クラウドEDI導入には十分な準備が必要になりますから、ISDNからIP網への移行を機にEDIを見直したい場合は、NTT東日本・NTT西日本の『補完策』により既存システムが延命できる可能性があるとしても、今すぐに取り組みを始める必要があります」と助言した。

 レガシーEDIを運用してきた企業には、遅延が懸念されるINSネット(ディジタル通信モード)サービスの補完策を利用するか、他の方法への移行を検討するかの2択が迫られている。

クラウドEDIの選定ポイント

 クラウドEDIには各種の製品があるが、TOKAIコミュニケーションでは次の3点をよく確認すべきと助言した。

(1)パブリック型かプライベート型か

 クラウド業者側の設備がユーザー企業専用に構築される(プライベート型)か、設備を複数ユーザー企業が共用する(パブリック型)かで、セキュリティ実装の仕組みと性能が異なるケースがある。

 既存システムのセキュリティ運用を変更したくない場合やトラフィック量が多い場合にはプライベート型が向く。一方、比較的トラフィックが少なく通信時間帯が決まっている場合でIPアドレス制限などのセキュリティ実装までは必要ない場合にはパブリック型のほうが有利な場合がある。どちらか一方しか提供していないベンダーもあるので気をつけたい。

(2)サポートサービスの質と範囲

 サービスベンダーのサポートサービスの質と範囲も重要な選定ポイントだ。「接続のテストはどこまで担うのか」や「業務そのもののサポートは提供されるのか」「導入時とアフター両方のサポートの提供範囲」などを確認しておく必要がある。

(3)料金形態

 従量課金、定額料金の違いがあり、従量課金の場合には「手順数」「接続先数」「ファイル/明細数」というように、基準となる数字が異なる場合があることに注意が必要だ。

 基準が異なると実際にひと桁以上の金額差になることもあるので、実情に合わせて最適なプランを選ぶ必要がある。

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