RPAとローコード開発ツールを活用することで業務全体が最適化され、保守や維持のためのコストが減少し、費用対効果が増す可能性がある。
RPA(Robotic Process Automation)をAI(人工知能)などのソリューションと組み合わせて一連の業務を自動化する「ハイパーオートメーション」が注目されている。一方で小規模な業務を自動化するにとどまり、「コストがかさむ一方で効果を実感できない」「活用が進むにつれて効果が運用コストを下回る」といった課題に悩む企業は少なくない。
ユーザー企業でRPAの大型スケールを指揮した経験がある日本RPA協会 スケール化Evangelistの成田裕一氏は、その理由を「RPAが個別最適化のためのツールだから」としてRPAとローコード開発ツールを組み合わせた業務の全体最適化を提案した。
同氏が解説した内容を前編と後編に分けて紹介する。前編では、RPAが個別最適に陥る課題について掘り下げたが、後編では「Microsoft Power Apps」(以下、Power Apps)や「OutSystems」などのローコード開発ツールを使った業務“全自動”の方法について取り上げる。
RPAによる業務の個別最適化には、「コストがかさむ一方で効果を実感できない」「活用が進むにつれて効果がコストを下回る」といった課題が付きまとう。こうした課題を解決するための方法として考えられるのが、RPAを適用する業務範囲の拡大だ。業務全体の20%を自動化しただけでは個別最適化だが、90%を自動化できれば全体最適化に近づく(図1)。
「派遣契約の延長の確認と契約の締結を行う業務」のうち、前半の(1)人事部の担当者が契約者の一覧を人事システムから抽出する、(2)部門別に契約者の一覧を作成する、(3)部門長に一覧をメールで送付する業務をそれぞれRPAで自動化し、後半の業務を人力で行っていたとする。
この場合、これまで人力で行っていた後半の部分(4)メールを受け取った部門長が契約の締結を行う人をチェックして、人事部にメールを返送する、(5)人事部の担当者がチェックリスト受け取る、(6)チェックリストを基にして派遣契約書を作成し、メールで送付する、(7)戻って来た契約書を保管する業務のうち(4)のみを人力で行い、(5)から(7)をRPAと電子契約ツールによって自動化すると、RPAの適用範囲が広がり全体最適化に近づく。一方でロボット数が増えるために停止するリスクが上がり、保守運用のためのコストが余分にかかってしまう。
こうした課題を解決する方法として成田氏が提案するのが、「RPAとローコード開発を組み合わせたハイパーオートメーション」だ。
「先ほどの派遣契約業務のうち、(1)から(5)の業務をローコード開発ツールで自動化し、(6)と(7)の業務はRPAと電子契約ツールで自動化します。RPAはローコード開発ツールと電子契約ツールをつなぐハブとして利用します。これによって業務を一気通貫で自動化できます」(成田氏)
RPAとローコード開発ツールにはさまざまな違いがある(図3)。RPAが今あるアプリケーションの操作手順を自動化するのに対し、ローコード開発ツールは必要なアプリケーションをゼロから開発するツールだ。また、RPAは非ITエンジニアでも比較的容易に開発ができるとされているが、ローコード開発ツールによる開発にはデータ設計などの専門的な知識が不可欠だ。
一方、RPAのロボットは停止や意図しない動作のリスクが大きいが、ローコード開発ツールは比較的安定した動作が保証されている。保守や維持のためのコストについても違いがあり、RPAは予想外のコストがかかる場合があるが、ローコード開発ツールはコストの計画が立てやすい。
成田氏は、「RPAとローコード開発ツールが持つそれぞれの長所を組み合わせて業務全体を自動化することが、私が考えるハイパーオートメーションです」と語る。
RPAとローコード開発ツールを活用することで業務全体が最適化され、保守や維持のためのコストが減少し、費用対効果が増す可能性がある。成田氏は、「RPAのロボットが停止するリスクを抑制し保守費用を削減する手段の一つとして、ローコード開発ツールの活用をお勧めします」と語る。
成田氏が特に推奨しているローコード開発ツールが、自身も利用しているPower AppsとOutSystemsだ。
「私見ですが、この2つはワールドワイドな製品の二大巨頭で、庶民派はPower Apps、貴族派はOutSystemsだと感じています」(成田氏)
Power Appsは直感的な操作でアプリケーションを開発でき、「Microsoft Excel」のような関数を使って操作できる。開発環境や実行環境の構築が不要で、「Microsoft Azure」「Microsoft 365」「Microsoft Intune」のアカウントがあればすぐに利用を開始できる。Microsoft製品をはじめとするさまざまなシステムやクラウドサービスとの連携機能が充実している点もポイントだという。
「Power Appsは比較的アプリケーションを開発しやすい初心者向けのツールなのでDX人材の育成に適しています。一方で、IT部門がガバナンスを効かせることも可能です。IT部門である程度ガバナンスを効かせつつ、自由度を維持しながら現場に解放するのがよいでしょう」(成田氏)
一方で、デメリットとしては開発や実行環境がクラウドに限られる、複数人での同時開発ができない、共通処理を部品化することが苦手だったり、自動デブロイ機能がなかったりなど開発環境の機能が物足りない、バージョン管理機能がない、大量データの扱いに向いていないことなどを挙げた。
一方、OutSystemsは、デバッグやリリース、リソース管理のための運用管理機能の他、パフォーマンス管理や監視の機能が充実していることが特徴だという。その他にも、各種データベースやクラウドサービスと連携させやすいこと、クラウドとオンプレミスの両方で利用できること、多言語ツールでありオフショア開発がしやすいこと、モバイルアプリケーションの開発がしやすいことを成田氏は評価する。
「OutSystemsは開発だけでなく運用や維持を兼ね備えたツールです。モデルという設計書を入力するとアプリケーションが自動で生成され、モデルを修正するだけでアプリケーションを変更できるので、業務フローの変更に強く、保守運用コストを大幅に削減できる可能性があります」(成田氏)
一方で、デメリットとしては、利用者が増えるとライセンス料が高いこと、一部の機能で日本語での対応が進んでいないこと、データベース設計の素養が必要なので初心者向けではないことなどを挙げた。
本稿は、アイティメディアが主催したオンラインイベント「ITmedia DX Summit vol.14 DIGITAL World 2022」(2022年11月7日〜10日)のセッション「RPAによる個別最適の反省から生み出した“全自動”を叶えるローコードツールの生かし方」を編集部で再構成した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。