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SAPユーザー全体の約1割が回答した「SAP移行の現在地」 直面する課題が明らかに

電通国際情報サービスは2018年からSAPユーザーに意識調査を実施している。2022年は、SAPユーザー全体の約1割に当たる、232社のユーザーから回答を得た。調査の結果から、SAP S/4HANAへの移行を検討する企業や移行済みの企業が直面する、さまざまな課題が明らかになる。

» 2023年04月27日 07時00分 公開
[大島広嵩キーマンズネット]

 多くの日本企業が導入している「SAP ERP」(ECC6.0)は、2025年に標準サポートが終了し、エンハンストパッケージ(EHP)6以降を適用した場合でも2027年12月で延長サポートが終了する。移行を検討する企業は、移行先や費用、移行時期などに関するさまざまな不安を抱えている。

 そこで、アシストと電通国際情報サービスは2023年4月19日、「SAPユーザ232社を取材してわかったSAP S/4HANA移行課題と解決策」と題してウェビナーを開催した。電通国際情報サービスは2018年からSAPユーザーの意識調査を実施しており、今回はSAPユーザー全体の約1割、232社のユーザーから回答を得た。

 電通国際情報サービスの豊崎達也氏は、SAP S/4HANA(以下、S/4HANA)への移行に向けた課題について考察した。S/4HANAへの移行を検討する企業や移行済みの企業が直面する、さまざまな課題が明らかになる。

調査で分かる、SAP移行の現在地

 同調査に回答した、移行を検討しているSAPのユーザーの企業は、売り上げ規模から分かるように幅広い層になっている(図1)。売上規模が3000億円以下企業の回答が中心であった。

図1 回答した企業の売り上げ規模(出典:豊崎氏の講演資料)

 まず、S/4HANAへの移行方針と対応方法を聞いたところ、「コンバージョン(現行アドオンを引き継ぐ方式)」が24.9%を占めた。また、「すでにS/4HANAへ移行済み」と回答した企業は2021年の8.2%に比べて2022年は16.3%と大幅に増加した。「移行方法を未定」とした企業は、2021年の42.8%から2022年の27.5%へと大幅に減った。

図2 S/4HANAへの移行開始時期(出典:豊崎氏の講演資料)

 次に、S/4HANAの移行時期を聞いたところ、2020〜2022年を通して大きな変動はなく、約半数のSAPユーザーは「移行時期は未定」と回答した(図3)。豊崎氏は以下のように考察する。

 「2023年に移行を開始するお客さま(12.1%)は、2022年開始(6.6%)の倍になっています。また、移行中のお客さまも増えています。お客さまが移行に動き出し、その分だけ未定のお客様が減っているというのが、今の状況だと考えられます」(豊崎氏)

図3 S/4HANAの移行時期(出典:豊崎氏の講演資料)

 S/4HANAの稼働予定の環境について聞いたところ、従来のオンプレミスを選択するユーザーは、2020年は36.7%であったが2023年は9.7%と大きく減っている。また、半数近くのユーザーはパブリッククラウドおよび「RISE with SAP」への移行を予定している。豊崎氏は「オンプレミスを予定していたユーザーはクラウドを検討しているが、何らかの理由があり、決めきれていない状況」だと言う。

 「お客さまの声を聞いて想定してるのは、SAPと連携するシステムはまだオンプレミスにあるっていうことが1つ。あと、お客さまはクラウドの運用や保守の経験がなく、ノウハウもないので決めきれない。そもそも、企業データをクラウドに置くことに対しての不安もあります」(豊崎氏)

図4 S/4HANAの稼働予定の環境(出典:豊崎氏の講演資料)

 S/4HANAへの移行費用については、「1億円以下」とする回答が2020年は29.4%であったが2022年は13.2%と大幅に減り、不明と回答するユーザー(46.6%)が増えた。その点について、豊崎氏は以下のように考察する。

 「移行の検討が進み始めてる証拠だと思います。想定移行費用っていうのは、かなり現実的になったのではないでしょうか。ただ、出てきた移行費用が本当に妥当性のあるものなのかどうか、腹落ちしてないお客さまが大幅に増えていると考察してます」

図5 S/4HANAへの移行費用(出典:豊崎氏の講演資料)

 S/4HANA移行におけるコスト以外の課題については、「現用のSAP ECC6.0で十分満足しており、移行する必要性を感じない」との回答が32.3%、「S/4HANAのメリットを感じられない」が62.1%と高い割合を占めた。

 「(移行に伴う)ダウンタイムを長く取れないといった業務上の制約が、検討を進めるうちに表面化しています。検討が進むにつれ、S/4HANAのメリットが分からなくなってきたお客さまが増えています。そこで、少しでもECC6.0を長く現状維持できる方法を考え始めています」(豊崎氏)

図6 S/4HANA移行におけるコスト以外の課題(出典:豊崎氏の講演資料)

 豊崎氏は、S/4HANAへの移行を難しくするポイントが、上記の結果(図6)の影に隠れていると続ける。

 「約3分の1のお客さまが『SAP Business Warehouse』(SAP BW)を使っており、このSAP BWがEOSで使えなくなくなることに気付くお客さまが増えていると考察しています(※)。なので、検討が進むにつれS/4HANA移行の大義名分の創出に苦慮してるのではないでしょうか」

※SAP BW7.5より前のバージョンは2020年12月末で保守期間が終了し、SAP BW7.5は2027年12月31日に保守期間が終了する

 最後に豊崎氏は、企業がS/4HANAに移行した時に直面した課題について触れた。

 「実際にS/4HANAに移行したユーザーが直面した一番の課題は『移行の必要性の説明』です。また、実際のプロジェクト時は『スケジュールの遅延が起こせない』や『予算内にお収めなきゃいけない』『プロジェクト自体の品質』です。他にも、『BI基盤』や『データ活用』の再構築、こういった点が直面した課題と考察しています」

図7 S/4HANA移行におけるコスト以外の課題のフリーコメント(出典:豊崎氏の講演資料)

 本稿は調査結果の一部を豊崎氏がまとめたものであり、詳細な調査資料はこちらから入手できる。

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