「Microsoft 365 Apps」の新たなアプリとして2022年の「Microsoft Ignite」で発表された「Microsoft Loop」。コラボレーションアプリ「Notion」の対抗馬とも言われる。一体何ができるものなのか。実際に、Microsoft Loopを業務で使った企業に話を聞いた。
2022年11月に開催された「Microsoft Ignite 2022」で、「Microsoft 365 Apps」の新たなキャンバスアプリ「Microsoft Loop」が発表された。ファイルやリンク、アプリケーションデータなど業務に必要なデータを1つのワークスペースに集約し、アプリに縛られずに従業員同士のコミュニケーション品質向上に寄与するものだとMicrosoftは説明する。
2023年3月22日には日本でもMicrosoft Loopのパブリックプレビューが公開されたが、まだ機能や使い方に関する情報が少なく、利用イメージがつかみにくい。本稿ではMicrosoft Loopの基礎解説と競合アプリ「Notion」との違い、そして、パブリックプレビュー版を実際に業務で利用した企業に利用目的や使用感、業務利用上の注意点を聞いた内容をまとめる。
Microsoft Loopはタスク管理やWikiベースのメモなどを参加者間で効率的に共有できるキャンバスアプリだ。アプリの目的に共通点があることからNotion LabsのNotionに対するライバルソリューションともみられている。だが、両者はそもそもの出立点が異なる。
Notionは日本語版公式サイトで「仕事の質とスピードを向上させるコネクテッドワークスペース」と紹介しているが、Microsoft Loopは「Microsoft 365」と密接に連携し、導入直後から業務内容の共有や、進捗(しんちょく)管理を支援するMicrosoft 365の一機能として動作する。
例えばLoopコンポーネントのタスクリストはタスク担当者をメンションで指定できるため、Webブラウザの通知や「Microsoft 」などのアプリ経由で受信すれば、滞りなく次の業務につなげられるだろう。確かに進捗管理は「Microsoft Project」で、タスク管理は「Microsoft To Do」の共有リストで事足りるが、Microsoft LoopはMicrosoft 365と、その背景にある「Microsoft Graph」の能力を引き出し、過去の部分最適を全体最適化につなげるツールだ。
Microsoft Loopは次の3つの要素で構成される。
Microsoft Loopは利用者全員が使用する共有空間「Loopワークスペース」を中心とする。誰もが編集可能なダッシュボードで、プロジェクトの進捗状況や持ち寄った検討材料を格納する。現在公開中のパブリックプレビューではLoopワークスペースのデータはアカウントの種別にかかわらず、5GBの制限がある。
「Loopページ」は名称通りページ単位で作成し、Microsoftはこれを「柔軟なキャンバス」と説明する。テンプレートを用いた複数ページの作成も可能で、分かりやすく言うと「自由度の高いWiki」だ。Loopページはリンクや埋め込み型部品としてMicrosoft 365 Apps間での共有も可能だ。「業務運用を想定したMicrosoft OneNote」をイメージすると分かりやすいだろう。
「Loopコンポーネント」は各機能を部品モジュール化したものだ。現時点では「箇条書き」「チェックリスト」「段落番号」「段落」「表」「投票テーブル」「タスクリスト」の7種類がある。Loopページ本体や、各アプリに埋め込んだLoopページに追加可能だ。
Microsoft Loopは「Microsoft Teams」(以下、Teams)から「Microsoft To Do」や「Microsoft Forms」を呼び出して、チャットやチャネルを利用したコミュニケーションが可能だ。データは「Microsoft SharePoint Online」に格納されるため、コメントや修正指示もオンラインで確認できる。他にもジェネレーティブAI(生成系AI)を利用した「Microsoft Copilot in Loop」のプライベートプレビューも公開されている。ただし、本稿公開時点では利用できる地域は北米に限られ、日本国内向けの公開時期は今のところ未定だ。
※本稿公開時点では、Teamsの他に「Microsoft Outlook」「Microsoft Whiteboard」「Word for the Web」をサポートし、各アプリからLoopページやLoopコンポーネントを呼び出せる。
Microsoft Loopの使い勝手や注意点などについて、実際にパブリックプレビューを業務で利用したJBサービスの担当者に話を聞いた。
Microsoft Loopを使うきっかけとなったのが、チームのタスク管理だった。同社ではセミナーを実施する機会が多く、その都度講演内容の作成や集客など、タスクごとに担当を割り振っていた。だが、期日までに決められたタスクを完了できていないこともしばしばだった。
同社ではTeamsを使ったコミュニケーション文化が定着していたため、Microsoft LoopのコンポーネントをTeamsに組み込み、チームのチャネルにタスクリストを作ることで、関係者全員でタスクの進捗状況を確認できる環境をつくり、チームでの共同作業の効率化を図った。以下の図はタスクリストのイメージだ。
毎日触れるTeamsにLoopコンポーネントを埋め込み、担当者と期日を設定したタスクリストを作成することで、関係者全体でタスク状況の共有が容易になり、メンバーのスケジュールに対する意識が高まったという。
Loopコンポーネントを使う上で工夫が必要な点も見えてきた。同社ではMicrosoft 365をグループ全体で導入し、いつでもMicrosoft Loopアプリのパブリックプレビューを利用できる状態にあった。担当者によると、それだけでは活用は進まないという。まっさらな状態で「アプリを使ってみてください」というだけでは活用は進まず、旗振り役がWikiやタスクリストのテンプレートを準備するなどして、従業員が利用しやすい状況を作ることが重要だという。まずは、飲み会の設定などライトな使い方から始めて、徐々に業務での利用にシフトするとスムーズに運ぶのではないかとJBサービスの担当者はアドバイスを贈る。
パブリックプレビューは誰もが試せるが、有効化にはIT部門の協力が必要だ。Microsoft Loopへのアクセスを許可する「Azure Active Directory」(Azure AD)でセキュリティグループを作成し、「Microsoft 365 Apps admin center」から新たなポリシー構成を作成する。有効化に要する数時間を用いてファイアウォール設定を施せば利用可能となる。
最初の関門はAzure ADのセキュリティグループだ。Microsoft 365の契約プランによって選択肢が異なり、Dynamic Groups(動的セキュリティグループ)は「Azure AD Premium P1」「同P2」の契約が必要だ(P1は「Microsoft 365 E3」、P2は「Microsoft 365 E5」に含まれる)。中小企業向けのMicrosoft 365 Businessは追加契約しなければ無償版のAzure AD Freeを使用する仕組みのようだ。
Microsoft 365の開発チームは約10年前から、多様な角度から有益なコラボレーション環境と、滞りないコミュニケーション環境の構築を目指してきた。その姿勢はMicrosoft 365 Apps各アプリが備える機能や、コミュニケーション基盤のTeamsに現れている。正式なローンチ時期は現時点で不明だが、社内のメール文化が根強ければOutlook、ビジネスチャットが浸透している場合はTeamsと、連携方法を考慮しながらMicrosoft Loopの有用性を引き出すことが理想的だろう。
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