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黒船“ChatGPT”との違いは? FAQシステムの機能や選定ポイントを紹介

よくある質問とその回答を公開することでユーザーの課題解決を支援するFAQシステム。機能や選定ポイントを紹介する。

» 2023年06月05日 07時00分 公開
[酒井洋和てんとまる社]

 FAQシステムは、自社のWebサイトや従業員が利用するイントラネットで、よくある質問とその回答を事前に用意して検索できるシステムのことだ。商品やサービスに対して問い合わせたい顧客や、社内手続きの方法について問い合わせたい従業員に閲覧してもらったり、コンタクトセンターのオペレーターが顧客対応時に活用するナレッジベースとして利用したりといった用途で使われる。アクセスした経験のある人は多いだろう。

 業種や業態を問わず多くの企業に採用されているFAQシステムだが、特に扱っている部品や部材点数の多い製造業や、規約や約款などお金に絡んだ手続きの多い金融業など、顧客への複雑な説明が求められる企業には幅広く活用されている。

 情報収集の手段として「ChatGPT」を始めとする生成AI(人工知能)も注目されているが、そのようなサービスとFAQシステムの違いは何だろうか。本稿では、FAQシステムの機能や効果、導入時のポイントを解説する。

FAQシステム、期待したい最大の効果は?

 FAQシステムを企業が採用する主な目的は、問い合わせ対応の負担軽減だ。社内外問わず、ユーザーからの問い合わせが多く寄せられる場合、対応する人材に負担が集中し、「問い合わせに対応してもらえなかった」「回答までに時間がかかる」といったユーザーの不満にもつながりかねない。

 そこで、多く寄せられる質問に対して事前に回答ページを用意しておくことで、問い合わせずともユーザーが自己解決できるようになる。問い合わせ対応の件数を減らすことで負担が軽減され、かつ迅速に回答が得られることでユーザーの満足度向上にもつながる。導入する企業が効果を検証する場合、問い合わせ件数をいかに減らせたかが評価指標になるケースが多い。

 多くの現場で人材不足が課題となっており、問い合わせに対応する部門も例外ではない。少数精鋭でも対応品質を落とさないよう、FAQシステムを設置してユーザーの自己解決を促す環境づくりに取り組む企業が増えている。もともとはコンタクトセンターをはじめとしたカスタマーサポート部門に展開されるシステムという印象が強かったが、近年では人事や総務、経理といった社内のバックオフィス系の部門で導入され、従業員の問い合わせ対応の負担軽減に利用される機会も多い。

 また、コロナ禍で従業員同士のコミュニケーション機会が減る中で、業務に関連する疑問を自宅で自己解決できるような環境整備の一環としてFAQシステムが選択されるケースも増えている。

ChatGPTの登場でFAQシステムはどうなる?

 ユーザーが知りたい情報にアクセスできることを目指すFAQシステムだが、これはChatGPTやチャットbotなどの自然言語処理技術を用いたサービスも同様だ。では、これらのサービスとFAQシステムはどのように異なるのだろうか。

 FAQシステムを提供するベンダーの多くがChatGPTの適用に向け検証を進めているが、これを組み込んだサービス提供はまだ一般的ではないようだ。特に、社内の問い合わせ対応のためにFAQシステムを利用する場合、ユーザーが知りたいナレッジの多くは社内に存在している。一般に公開されているWebページを中心としたデータを学習したChatGPTでは代替しにくい。

 社内の情報をAIに学習させるソリューションも登場しているようだが、すぐにFAQシステムに組み込めるわけではない。プロンプトエンジニアリングによって検索精度の最適化を図るプロセスが必要とも考えられ、既存のFAQシステムと同じ品質を保てるかは未知数だ。

 ただし、回答内容の作成を支援するツールとしてChatGPTを組み込むFAQシステムは早くも登場している。FAQシステムを運用する側の業務効率化のためにChatGPTが活用されるケースはこれからも増えそうだ。

 そもそもChatGPTを利用する際は、機密情報を含めたコンテンツを学習させることのリスクも考える必要があり、そのリスクと折り合いをつけながらうまく活用できる場面を模索していくことになるだろう。

 ユーザーとのやりとりをチャットbotで代替する場合も、botが回答する内容はFAQシステムに蓄積されたデータに基づく可能性が高い。いずれにせよ、FAQシステムはナレッジベースとして有用だ。

FAQシステムを構成する機能

 FAQシステムが持つ主な機能は、回答を作成する機能や、コンテンツを検索する機能、各種権限の制御などを行う管理機能、データ分析機能などが挙げられる。

 特に重要なのはユーザーの満足度に直結する回答作成機能だ。テキスト情報はもちろん、社内に点在している資料の内容が回答として有用な場合、それらをFAQシステムに認識させることで、質問に対してさまざまな回答を用意できる。

 一例を挙げると、テクマトリックスが提供するFAQシステム「FastAnswer2」では、直感的に操作できるエディター画面でコンテンツを生成する。テキストを入力するだけでなく、動画や表のデータをドラッグ&ドロップで添付することも可能だ。

図1 エディター画面のイメージ(出典:テクマトリックス提供資料)

 情報にアクセスするための検索機能の対象は、FAQシステムで作成した回答だけとは限らない。PDFや「Microsoft Word」「Microsoft Excel」「Microsoft PowerPoint」などのファイルも全文検索可能なシステムもある。そのシステムがどのような検索エンジンを採用しているのかによって変わってくるため、導入前に確認しておきたい。

 検索結果を表示する画面は、用途に応じて作り分けられるサービスもある。FastAnswer2では、FAQシステムに蓄積されたナレッジを公開する際、社内外に出し分けることが可能だ。顧客などの社外に公開する場合、分かりやすさや見やすさ、SEO対策に役立つような形で情報が公開される。一方、社内利用の場合は機能性や情報量、検索のしやすさに重きが置かれ、画面は社外公開ページに比べて簡素になる。

図2 社内外で公開方式を変えることが可能(出典:テクマトリックス提供資料)

 社内の貴重な情報資産を使って回答を作るため、回答作成者とは別に、その回答を公開すべきか判断する承認者を置くのが一般的だ。FAQシステム内で承認フローを作成できるようになっている。回答を役職者だけに公開するなど、公開範囲などの権限を制御する機能も用意されている。

 質問に対する回答精度を高めていくためのデータ分析機能も重要だ。どのような質問が多く寄せられているのか、その回答はユーザーのニーズに応えているのかなどの状況を把握し、改善に生かせる。単なるWebページを用意するだけのCMSとFAQシステムの異なる点だ。

FAQシステム選びの勘所

 最後に、FAQシステムを選定する際に注意しておきたいポイントについて見ておきたい。

自走できる仕組みが必須条件に

 FAQシステムは他のシステムと連携させず、単独で動かすことも多いため、情報システム部門ではなく現場部門が選定するケースが多い。コンタクトセンターを運用するカスタマーサポートの担当部署や、人事、総務、経理といったバックオフィス系の部署などだ。そのため、現場の従業員のみで運用できるかどうかが重要なポイントになる。

 現場主導でFAQシステムが選択されることも多いが、カスタマイズ性が高いサービスだと、実際には現場の従業員だけで運用できず情報システム部門が介入するケースもあるようだ。国内のFAQシステムを中心に、運用者が直感的に操作しやすいシステムもある。現場の従業員だけで日々のメンテナンスを継続できるかどうかが重要だ。

 導入する前には、自部門で運用していけるかどうかを確認しておきたい。特に回答作成の使い勝手はしっかり試しておきたい。

コモディティ化したFAQシステム、アップデート頻度に注目

 FAQシステムのベンダーは数多くあり、機能はコモディティ化してきている。クラウドサービスとして提供される場合は新たな機能が次々と追加されることもあるため、アップデートがきちんと定期的に実施され、基本機能に磨きをかけているかどうかを見ておきたい。きちんとアップデートが実施されているサービスであれば、新たなテクノロジーを活用した機能を使う未来も近づくはずだ。

用途に応じて周辺システムとの連携が可能かどうか

 FAQシステムをカスタマーサポート部門で導入する場合、CRMとの連携が可能かどうかは確認しておきたい。

 コンタクトセンターで管理している問い合わせ状況から、多く寄せられる問い合わせを抽出してFAQを作成したり、コンタクトセンターからFAQシステムを参照して問い合わせに対応したりといった場面では、CRMなどのコンタクトセンターソリューションとの密な連携が応対業務の効率化や品質向上に大きく寄与するだろう。

図3 CRMとの連携イメージ(出典:テクマトリックス提供資料)

ライセンス体系はベンダーによってさまざま

 クラウドサービスで利用できるFAQシステムは、ユーザー数やコンテンツ容量、回答に対するページビュー、売上規模に応じて料金体系が異なるレベニューシェアなど、さまざまな料金プランがある。

 ページビューによって料金が異なる場合、検索結果一覧の画面で表示されたコンテンツの数なのか、検索結果からコンテンツを選択して開いた数なのかなど、課金の方法がベンダーによって微妙に異なる部分もある。自社の利用法を考慮した上で、各ベンダーに詳細を問い合わせてほしい。

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