情報収集にメンバーの状況把握、クレーム対応、商談などを“超ミニマル”な方法でこなし、かつ成果も上げるある営業マネジャーの活動を例に、生産性を高める仕事の回し方を説明する。
クラウドサービスや自動化ツールなどを駆使しながら業務を進めていると、それだけでDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んだと満足しがちだ。いわゆる“なんちゃってDX”だ。
セールスフォース・ジャパン執行役員の小暮剛史氏は「(デジタルツールを使うことで)一つ一つの業務はデジタル化できているが、1日の業務フロー全体を見ると、実は従来と変わっていないことに気付くことは多い。起点を変えることが重要だ」と指摘する。
同氏は「Slack」を起点にすることで1日の業務がどう変わるのかをデモンストレーションを通した指し示した。
自動車業界を担当する営業マネジャーの1日を例にスマートフォンとSlackだけで仕事を回す様子を見せながら、小暮氏は生産性を上げるコツを語った。1日のスケジュールは図1の通りだ。朝、出勤してメンバーの状況を把握しながらクレーム対応もこなし、顧客先で商談を済ませて帰宅するまでの1日の仕事の進め方を見ていく。
自動車メーカーを担当する営業マネジャーのA氏。朝、通勤中にSlackを開いてA氏が所属する営業一部のチャンネルを確認する。営業部のチャンネルでは昨日の部会の動画がクリップ機能で共有されていた。部会を欠席していたため、動画を見て議論の内容を確認し、関係者に確認したことを絵文字で伝えた。
自動車業界の情報収集のために、A氏は毎朝日経新聞のチェックを日課としている。Slackと日経新聞アプリを連携させることでSlackに記事の一覧が表示される。共有すべき内容があれば、3タップほどでチームメンバーと共有できる。インターネット上にある情報をわざわざ探しにいかなくても、Slackを使ってプッシュ型の情報収集に変えることで時間を節約できると小暮氏はコメントする。
Slackのホーム画面を見るとグローバルチームからドイツ語で書かれた連絡が届いていた。A氏はドイツ語が分からないため、翻訳サービス「DeepL」との連携機能を使って翻訳した。連絡内容は諾否を求めるものだったが、ドイツ語で返事を返せないので「OK」を意味する絵文字によって返信した。
顧客であるオメガ自動車(架空の企業)への訪問に際して、移動時間を使って専用チャンネルで情報を確認する。チェックしていると、「Saleseforce」から「クレームが登録されました」とある。これから訪問するオメガ自動車からクレームが届いたようだ。そのスレッドには既にメンバーから多くのコメントが寄せられていた。一つ一つのコメントに目を通すのは時間がかかるので、「ChatGPT」に「このスレッドの内容を100文字程度で要約して」とリクエストした。ChatGPTでSlackのスレッドに書かれたクレーム内容と対応の進捗(しんちょく)をまとめることで、内容を時間を掛けずに把握できた。
顧客のチャンネルには、Saleseforceの「CRM Analytics」から呼び出された分析情報がピン止めされていた。オメガ自動社の商品ごとの取引情報が表示されている。CRM AnalyticsのAIが顧客ニーズを推定し、過去の類似ケースから追加購入が見込める商品などを表示されている。CRM Analyticsのインサイトを基に商談につなげることも可能になる。
顧客先への訪問直前に、Slackの情報共有スペース「Canvas」にストックされた顧客情報を確認する。顧客の担当者やひも付く案件、タスクなどが表示されている。この中には顧客のキーパーソンの情報や打ち合わせのアジェンダが含まれていて、「Microsoft PowerPoint」の資料が添付されている。資料は「Googleドライブ」に格納されていたが、ファイルアイコンをタップすることでSlackからでも閲覧可能だ。
トップ画面を見ると「入金管理-営業第一部」のチャンネルから通知が来ていた。そこには「入金が確認できません」とある。基幹システムから未入金情報の通知が届いていたようだ。画面には「出荷差し止め依頼」「生産一時停止依頼」「状況確認中」の選択項目がある。この顧客は以前も入金を遅延したことがあったため、「出荷差し止め依頼」をタップして、担当部署に依頼した。
小暮氏は「営業の仕事は売るための活動だけではなく、社内の調整ごとも多い。それらもSlackを起点に処理することで、業務生産性の向上につながる」と語った。
顧客との打ち合わせで先方から値引きの相談があり、社内メンバーとの調整が必要になった。何とか商談を成立させるために、すぐにハドルミーティングで社内のメンバーに相談した。社内の関係者に事情を説明したところ、特別対応として値引きが可能とのことで、すぐに顧客に知らせた。こうして、商談を1つ前に進めることができた。
小暮氏は、こうして営業活動をSlackとスマートフォンで完結できることをデモンストレーションでやって見せた。その場にいないチームメンバーの力も借りることができ、顧客の要望にも迅速に対応できた。この他、「SAP Concur」と連携した経費申請の承認や、ERPの「Workday」と連携させることで休暇申請や勤怠情報入力もSlackで実行可能だ。
小暮氏は「Slackによって提案から合意までの時間を短縮でき、情報を内部に蓄積して共有し、それを基に行動につなげることで成約率を上げることも可能だ。商談プロセスを効率化することで商談数を1.1倍に、成約率を1.08倍にまで上げることも可能だという調査結果(Forrester)もある。その結果、顧客満足度も上がり、リピートオーダーにもつながるだろう」とまとめた。
Slack主催のイベント「Slack Sales Innovation -生産性を最大化し「勝ち抜く」営業組織へ-」における、「事例から学ぶ!営業DXを成功に導く業務プラットフォームとしてのSlack活用」の講演内容を編集部で再構成した。
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