Excelで勤務実態や業務負荷を確認していたJPデジタルは、あるツールを導入して従業員の活動ログを可視化し、業務効率化を実現した。
JPデジタルは日本郵政グループのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を担う企業として2021年7月に設立された。同社にはグループ内外から専門的なスキルを持つ人材が集まっている。担当プロジェクトや役職によって多様な働き方をしており、勤務状況や業務内容の把握が課題だった。
従来の「Microsoft Excel」(以下、Excel)による管理はマネジャーや労務担当者の負担が大きく、勤怠・工数管理ツールを導入したが、Excelへの入力に慣れている従業員からは反発の声もあったようだ。
JPデジタルはどのような工夫で現場の理解を得て、ツールの全社展開を進めたのだろうか。その道のりを同社の鶴巻 仁氏(DX部門 シニアマネジャー)と市橋知樹氏(DX部門)に聞いた。
JPデジタルは当初、Excelで従業員の勤怠や工数を管理していたが、ファイルを1つずつ開いて確認しなければならない上、従業員によってExcelに入力するタイミングが異なり、マネジャーにかなりの負荷がかかっていた。また、Excelではプロジェクトごとの工数や従業員の負荷を一目で確認することができず、工数と原価の厳密な管理が困難だった。
同社はこうした課題を解決するために、2021年12月から勤怠・工数管理ツールの導入を検討し始め、「TeamSpirit」の導入を決めた。市橋氏によると、工数管理機能があらかじめ備わっている点や自社環境との相性の良さが選定の決め手になったという。
「勤怠と工数を同時に管理できるツールを探していました。また、当社はゼロトラストネットワークを採用しており、認証は全て『Azure Active Directory』(Azure AD)で行っているため、Azure ADと連携しやすいツールである必要がありました」(市橋氏)
市橋氏は、導入までのスケジュールを次のように振り返る。
「最初の1カ月で要件定義から製品の比較、選定までを行い、次の1カ月で導入要件に合わせた設計を行いました。さらに次の1カ月で一部の従業員に製品を展開し、実際に利用してもらいながら、必要に応じて改修しました」(市橋氏)
JPデジタルは従業員ごとに勤務時間が異なるため、勤怠管理システムの設計には複雑な対応が求められる。市橋氏はTeamSpiritの管理者専用ポータルサイトを利用して、設計に関する疑問点を一つ一つ解決していったという。
「多様な働き方に合わせてシステムを設計するのは容易ではありませんでしたが、管理者専用ポータルサイトを利用して質問すると、丁寧に回答してもらえるので助かりました。ポータルサイトでは、質問ごとに『対応中』『回答待ち』といったステータスが表示されるので見通しが立てやすく、作業が中断することもありませんでした」(市橋氏)
こうして同社は、2021年2月頃からTeamSpiritの全社展開に着手する。しかしExcelへの入力に慣れていた従業員からは、「なぜここまで管理しなければならないのか」といった反発の声もあった。
「それまでのやり方を廃止し、新しいツールを全社規模で導入することに対して、一部の従業員から反発もありました。そこで社内説明会を開催し、役員から『開発会社として、工数管理と原価管理は重要だ』という導入理由を丁寧に説明してもらいました。また、ツールの使い方を従業員にレクチャーし、便利さを実感してもらいました」(市橋氏)
導入後は工数を全社規模で管理するようになり、管理部門がプロジェクトごとの工数を集計して経営層に報告しているという。
TeamSpiritを含め多くの勤怠管理システムでは、Webブラウザやスマートフォンのアプリケーションから勤怠と工数を入力できるため、打刻の場所を選ばない。データは1カ所に集約されるため、労務担当者やマネジャーにとってはチーム全体の勤怠と工数の確認も楽になる。未入力の部下がいるマネジャーにアラートを発することも可能になった。
TeamSpiritでは、従業員の勤務状況をまとめたワークログ(出勤から退勤までの活動ログ)と呼ばれるダッシュボードを参照できる。
JPデジタルでは毎月の1on1ミーティングにこれを役立てている。市橋氏のマネジャーである鶴巻氏によれば、ワークログの可視化によって従業員への気遣いやプロジェクトごとの適切な人員配置が可能になったという。
「1on1では、ワークログを確認しながらどの業務が大変なのかを聞き、超過勤務をしそうなメンバーがいるプロジェクトには別のメンバーをアサインします。普段からワークログを確認し、必要に応じてメンバーにチャットで声をかけ、超過勤務が基準値を超える前に対応するようにしています。その結果、前年度比で8%ほどの労働時間を削減することができました」(鶴巻氏)
部下の市橋氏も、ワークログの可視化にメリットを感じたようだ。
「以前の1on1は、部下がマネジャーに話したいテーマを投げかけ、それについて自由にディスカッションする形式でした。話すことをその場で考えなければならず、思うように意見を伝えられないこともありました。現在の1on1はワークログを前提にして進むため、状況をどのように伝えたらよいか迷うことがありません。業務に関するコミュニケーションのハードルが下がり、仕事を進めやすくなりました」(市橋氏)
勤怠・工数管理の効率化を目的としたツール導入が「コミュニケーションの活性化」という副次的な効果も生み出した。鶴巻氏は次のように語る。
「ワークログを可視化することは、業務の効率化や生産性の向上だけでなく、人材育成にもつながると感じています。業務に関するコミュニケーションがさらに活発になり、部下が成長していく姿を見るのが楽しみです」(鶴巻氏)
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