Oracleの2023会計年度におけるグローバルの通期売上高は、前期比22%増の約7兆1906億円と好調だ。そんな中、日本オラクルは2024会計年度の事業戦略説明会を実施した。本稿では、代表が語った「日本のためのクラウド」の内容を中心に届ける。
Oracleの2023会計年度におけるグローバルの通期売上高は、前期比22%増の約500億ドル(約7兆1906億円)と好調だ。そんな中、日本オラクルは2023年7月6日、2024会計年度の事業戦略説明会を実施した。
同社の三澤智光氏(取締役 執行役社長)が登壇し、日本オラクルの今後の事業戦略を語った。三澤氏は、日本企業はミッションクリティカル・システムのモダナイゼーションを必須とし、「日本のためのクラウドを提供」「顧客のためのAIを推進」に注力するとした。
本稿では、三澤氏が語る「日本のためのクラウド」にフォーカスし、日本企業が抱えるレガシーシステムのモダナイゼーションが必要な理由や、クラウド事業における競合他社との差別化、日本のERP業界が抱えるコスト問題への挑戦についてを届ける。
まず三澤氏は、「Oracleは売上高が年間で7兆円程の会社になりました。4兆円ほどの売上の会社だったのですが、ここ短期間で非常に大きな売り上げになりました」と、近年のOracleグローバルの活動を振り返った。
同氏は、データベースを中心とするライセンス事業の売上が前年度から順調に推移したことや、クラウド事業を大幅に伸長できたことを好調の理由として挙げた。内訳として、IaaS/PaaSで77%増、SaaSで47%増という結果になっている。
日本国内に目を向けると、2022年度の決算発表で注力領域として掲げた5つの注力領域「ミッションクリティカル・システムの近代化」「ビジネスピロセス全体のデジタル化」「安全、安心で、豊かな暮らしを支える社会公共基盤の実現」「社会・企業活動のサステナビリティーを加速」「ビジネスパートナーとのエコシステムを強化」を着実に達成できたとする(図1)。
導入実績は豊富で、NTT西日本や敷島製パン、野村総合研究所(NRI)、オリエントコーポレーションなど、多くの企業が抱えていたレガシーシステムのモダナイゼーションを支援した。
日本オラクルが日本企業が抱えるレガシーシステムのモダナイゼーションに注力するのには理由がある。
「日本の競争力は、新しいビジネスモデルや環境へ追随していかないとより劣ってくると思います。Web3.0の時代がくるのか定かではありませんが新しい変化が起こります。新しい時代になったとしても、ヒト・モノ・カネの正確で重要なデータを利活用できないと、あまり意味はないです」(三澤氏)
そんな中、多くの日本企業のミッションクリティカル・システムは、定期的にパッチを当てられず、アップグレードもされずに運用されており、最新の技術を享受できる環境からは程遠い。
また同氏は、「コンシューマー向けのITは大きく進化したが、エンタープライズのITはそこまでの進化がなかった」と続ける。
「今後5〜10年は、いよいよエンタープライズITの進化が始まります。そのドライバーはやはりAIです。(中略)日本のお客さまは従来、5〜7年でミッションクリティカル・システムをアップグレードするサイクルで、これまでは大きな技術的負債はなかったかもしれません。しかし、今後の5〜7年は、圧倒的な技術的負債が溜まる年になるでしょう。ですので、AIのような便利な機能が追加される、進化していくシステム、その進化を享受できるシステムをお客さまに提供します」(三澤氏)
Oracleは競合に比べてクラウド事業に遅れて参入した。そのため、事業コンセプトの一つを「競合のクラウドができなかったことを実現する」こととした。三澤氏が語る「日本のためのクラウド」と合わせて解説する。
Oracleは、クラウドデータセンターを“小さくコンパクト”に提供することで競合他社との差別化を図っている。
東京と大阪のパブリッククラウド用のデータセンターは、クラウドを制御するエンジンをコンパクトにしつつ、高速で動作する技術「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)Dedicated Region」を採用している。ユーザーはデータセンターを小規模に構築してから大規模にすることが可能だ。同じ仕組みをユーザーのデータセンターに構築することもできる。
また、新たな仕組み「Oracl Alloy」では、パートナーが自社サービスとしてプライベートレベルの機能をもったクラウドを提供できるようになる。
「OCI Dedicated RegionとOracl Alloyによって、日本のお客さまとパートナーさまに、企業間でシェアされていない専用のクラウドを提供します」(三澤氏)
NRIは2023年3月、リテール証券企業向けに提供しているバックオフィスシステム「THE STAR」をOCIで稼働した。本システムはOCI Dedicated Regionが採用されている。
「THE STARは日本の証券会社の約50%が使っているサービスです。私が知る限り、これ以上ミッションクリティカルなサービスは、日本には存在していないと思います」(三澤氏)
ミッションクリティカル・システムをクラウド化してモダナイゼーションするには多くの困難が伴う。パブリッククラウドとオンプレミスでは、採用されているテクノロジーや思想が異なるためだ。例えば、オンプレミスに構築された大規模なミッションクリティカル・システムはピーク時の処理を想定した性能をもつ専用のハードウェアや高速ネットワークが用意される傾向にある。
三澤氏は「そういったミッションクリティカル・システムのワークロードを完璧に動かせるのがOracleのクラウド」と語り、具体的なテクノロジーとして図4を示した。
三澤氏は、「オラクルは競合他社のように一部のエリアで図のテクノロジーを使っているわけではなく、データセンター全体を新しいアーキテクチャでデザインしています。“後出しじゃんけん”ではありますけど、そこが大きな差別化ポイントです」と語る。
セキュリティについては「クラウドの根幹にエンベデッドするのがOracleの方針」と語り、他社が有償で提供するような機能を無償で提供しているとする(図5)。
「大きなセキュリティインシデントがクラウドの設定ミスにより起こっていると聞きます。自動化されたセキュリティ管理、例えば『Cloud Guard』や『Security Zones』を導入していれば起こり得ません」(三澤氏)
Oracleは、「クラウドネイティブSaaSである『Fusion Applications』や『NetSuite』でユーザーのトランスフォーメーションを推進する」とメッセージを出している。しかし、ユーザーからは「従来のサービスである『E-Business Suite』や『PeopleSoft』『JD Edwards EnterpriseOne』などとは何がどのような違うのか判断が難しい」といった声がある。
「今のFusion Applicationsは、全てクラウドネイティブのテクノロジーでつくり変えた新しいSaaSと理解してください。古いERPアーキテクチャ(図5左側)ではお客さまが今後の競争力を失うためです」(三澤氏)
三澤氏は、古いテクノロジーのERPはバラバラのインフラストラクチャーと個別のインスタンスで構成されるため、バージョンアップでは個別対応の負荷が高いと語る。また、アップグレードは5〜7年周期のため、技術的負債が溜まることや、アップグレードで膨大なアドオンの移行対応が必要になることが問題になると言う。
「今後エンタープライズのアプリケーションでは、AIを使った大きな変化が起きます。この変化を享受できないアーキテクチャが今のERPだと思ってます。Fusion Applicationsは、個別のインスタンスがOCIに集約されたアーキテクチャです。4半期に一回の自動アップデートで常に最新の状態になり、追加コストは必要ありません」(三澤氏)
三澤氏は、同社の提供するクラウドネイティブSaaSが日本のERP業界のコスト構造に対するチャレンジになると続ける。
「ハードウェアやハードウェア保守ライセンス、ソフトウェアライセンス、セキュリティや非機能要件の他、ディザスタリカバリーやハイアベイラビリティーなどを整えたERPの導入。今までここに初期コストがかかり、それを運用するコスト、そして5〜7年後に発生する初期コストとほぼ同額のバージョンアップコストがかかりました。5年、10年のライフサイクルで考えた時に、ERPは本当に金食い虫だと思います」
そこで同社は、クラウドネイティブSaaSによるFit to Standardでベストプラクティスを提供することが、従来のコスト構造を変えることにつながると考える。「こういう変革を本気でやらないといけない」と三澤氏は語った。
事業戦略説明会では、激化するAI競争に対するOracleの取り組みについても語られたが、本稿では「日本のためのクラウドを提供」に絞って紹介した。Oracleの詳しいAIの動向については、「Oracle CloudWorld 2023」でさらに詳細が公開される予定だ。
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