ERPベンダーのセールストークやマーケティングメッセージは、多くの重要な問題が曖昧にされている可能性がある。誇大広告に惑わされず、賢くベンダーを選ぶためのポイントを専門家に聞いた。
アジリティー(機敏性)を求めて新しいERPを検討する企業が増えている。ここで重要なのが、ERPに何ができるかを正しく見極めることだ。
最高情報責任者(CIO)や最高技術責任者(CTO)をはじめとするテクノロジー部門のリーダーには無数のERPの選択肢がある。クラウドにまつわる誇大広告や誤解を招きかねない宣伝文句に惑わされずに、自らの組織にとって何が最善かを判断する必要に迫られている。ERPに関する意思決定を正しい方向へと導く情報を知っておくことは重要だ。
専門家の回答には、「ERPの調査を効率化するためにできること」「クラウドERPの成熟度を実態以上にアピールするベンダーの手法」「ソフトウェアのデモからより多くの情報を得る方法」など、ERP導入前の調査に役立つ情報が満載だ。
まず、Third Stage Consulting Groupの創設者で最高経営責任者(CEO)を務めるエリック・キンバーリング氏に以下を聞いた。
──CIOをはじめとするテクノロジー部門の責任者が知っておくべき、ERP市場に関する重要な情報にはどのようなものがあるのか。
キンバーリング氏: クラウドへの移行は今に始まったことではないが、ベンダーは今、本腰を入れて移行をプッシュしている。SAPやMicrosoftをはじめとする一部のベンダーは、オンプレミスのレガシーシステムから脱却し、より新しい主力製品に移行してもらおうと、ユーザーに期限を提示しているほどだ。
注意しなければならないのは、(一般論として)クラウドERPは完全には成熟していない点だ。現時点ではクラウドERPへの移行を検討する場合、これまでオンプレミスのレガシーソリューションを使用してきたのであれば、一歩後退することになる。
例えば「NetSuite」のように、当初からSaaSで提供してきたベンダーもあるが、SAPやMicrosoftのように、クラウドへの移行に苦労しているベンダーもある。多くの場合、たとえプライベートクラウドを採用したソリューションであっても、クラウドへの移行にはソフトウェアの完全な書き換えを伴う。
後退を免れる方法としては、オンプレミスシステムを導入し、ベンダーや「Amazon Web Services」「Microsoft Azure」のようなサードパーティーにクラウドでホスティングする方法があるだろう。この場合は、クラウドでホスティングして自前のインスタンスを確保できる。
私が言う「クラウド」とは多くの場合、「Infor Cloud」や「Dynamics 365」のようなシステムを指している。そして一般的には、ソフトウェアの書き換えが必要になるだろう。
──ITリーダーの頭にあるのは、今あなたが言及されたような懸念なのか。それとも、デジタルトランスフォーメーション(DX)ブームや、クラウドに移行すべきだという他部門のリーダーからの圧力など、他の問題が絡んでいるのか。
キンバーリング氏: 同じ懸念や疑いを抱いているリーダーもいる。さらにそれ以外にも、なんらかの形で“再実装の痛み”を味わされるのではないかとの懸念もある。
リーダーがベンダーから聞いた話をうのみにしていては、危険な立場に自らを追い込んでしまうだろう。「これは単純なリフト&シフト(オンプレミスのアプリケーションをそのままクラウドに移行すること)であり、既存の機能をクラウドに移すだけだ。デプロイ(配備)がこれまでよりはるかに高機能で速く、簡単にできるようになる」といった話だ。
そのようなセールストークを信じ込むと、誤った意思決定や非現実的な期待、そして、想定外のリスクを招きかねない。ベンダーがこのように主張する理由は分かる。彼らの仕事はソフトウェアを売ることだが、ITリーダーは宣伝文句を疑い、クラウドに移行するリスクを認識しなければならない。
オンプレミスにとどまることにもリスクはある。オンプレミスにとどまるべきではない理由は、私も明確に指摘できる。しかし簡単に答えを出せるものではない。
クラウドERPであれ、オンプレミスERPであれ、どちらに進んでもリスクはある。ITリーダーやCIOは、まずは「自らの組織が何を必要としているのか」「レガシーERPはどのような状況にあるのか」「どのようなセキュリティに関するニーズがあるのか」を真剣に見極めるべきだ。
──ここまではテクノロジー部門のリーダーが調査すべき問題を聞いた。クラウドERPの利点としては何が挙げられるだろうか
キンバーリング氏: クラウドの良い面は、組織がテクノロジーを使ってできることの多様性と柔軟性が大きく広がったことだ。その結果、クラウド技術や優れたデータ分析、モノのインターネット(IoT)などを活用することで、先進的な思考を身につけ、より新しいテクノロジーの恩恵を大いに享受できる。そして、こうした新技術の一部はクラウドERPに組み込まれ始めている。
新しい機能を活用する上で、どれだけ多くのベンダーの選択肢があるのかを理解していない組織は多い。ベンダーを一社に絞り、「御社のアプリケーションを全て購入するので、弊社のためにホスティングしてほしい。不都合があっても我慢しよう」などと言い出しかねないのだ。
しかし実際は、組織が望む機能をピックアップして採用することも可能だ。組織は必ずしも全ての選択肢を把握しているわけでも、考慮に入れているわけでもない。端的に言えば、ベンダーから「全てのアプリケーションを当社から購入してもらえれば、全てホスティングします」という圧力を受けているためだ。
マーケティングやセールストークが現実の状況を越えた夢を描きがちという問題点はあるものの、機械学習(ML)や人工知能(AI)を組み込むクラウドERPが増えているという楽しみは増している。RPAは財務や製品在庫、発注などの業務で基本的なワークフローや大量のトランザクションを自動化できる。
──CIOをはじめとするITリーダーが、セールストークに惑わされず組織に最適なERPを見極めるにはどうすればよいか
キンバーリング氏: ベンダー以外の人と話をすることだ。クラウドソリューションを導入した同業者であれば、「こうすればうまくいく」という方法を教えてくれるだろう。また、どのような点で苦労したか、どの部分はオンプレミスを維持しなければならなかったかを教えてくれるかもしれない。
現時点はオンプレミスに置かれたモジュールをいずれクラウドシステムに追加しなければいけないといった場合もある。こうした部分にアーキテクチャやデータの問題が生じると解決の必要が生じる。致命的な問題ではないがリスクであり、対処が必要で、余分なコストやリソースが必要になる。そのため、それを経験した第三者と話をすることは重要だと思う。
最近クラウドに移行した他の企業や組織の話を聞くことに加え、ベンダーには多くの具体的な質問を投げかけ、デモを依頼する際も具体的に内容を絞ることをお勧めする。どの部分がクラウドソリューションで、どこがクラウドでないかを明確にするため質問するのが大切だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。