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スペック詐欺? 「USB Type-C」をCTスキャンしたらバレちゃった:734th Lap

Appleの「iPhone 15」にも採用された「USB Type-C」。製品によって価格や機能の差がある。ある企業は幾つかの製品をCTスキャナーで分析してみた。

» 2023年11月10日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 「USB Type-C」(USB-C)ケーブルは多くの製品が販売されている。一見してほぼ同じケーブルのように見えても、製品によって価格差や機能差がある。使ってみたら「充電できないし、通信も遅い」という経験をした人もいるだろう。

 ある企業が幾つかのUSB Type-CケーブルをCTスキャナーでスキャンして分析してみたところ、ある事実が分かった。

 USB Type-CはUSB 3.1とほぼ同時に発表され、じわじわと普及してきた24ピンのコネクター規格だ。勘違いしがちだが、USB Type-Cは必ずしもUSB 3.1の規格のためだけのものではない。基本的には、通信規格や給電性能に沿って製造されているケーブルだ。

 もちろん、「USB 3.1 Gen 1」「USB 3.1 Gen 2」「USB 3.2 Gen 1」「USB 3.2 Gen 2」「USB 3.2 Gen 2x2」などの規格には対応する。ただし、高速データ通信を実現する「Gen 2」(最大10Gbps)および「Gen 2x2」(最大20Gbps)については、明確に「対応」と表示されていなければ規格通りに通信できないことがある。今後普及が予想される「USB 4」も同様だ。

 そして、最大240ワットの電力供給を可能にする「USB PD」に対応するケーブルと、対応しないケーブルがある。しかも、USB PD規格には3Aと5Aの2パターンがあるのでややこしい。また、映像の入出力を可能とする「オルタネートモード」に対応し、「Thunderbolt」は本来USB規格ではないのに「Thunderbolt 4 ケーブル」はUSB Type-Cケーブルと同等の性能だ。

 さらに、USB Type-Cケーブルでも「USB 2.0」のみに対応する製品や、データ通信には対応せず充電機能だけを有する製品もある。つまり、USB Type-Cケーブルはケーブル単体を一目見るだけではどんな規格に対応しているかが判断しにくいということだ。

 産業用CTスキャナーを販売するLumafieldは、この複雑なUSB Type-Cケーブルを分析した。産業用CTスキャナーで各種USB Type-Cケーブルを撮影し、その分析結果を同社のブログに公開した。

 分析対象は「Apple Thunderbolt 4(USB-C)Proケーブル」と「Amazonベーシック USB Type-Cケーブル」「NiceTQ USB-Cケーブル」「ATYFUER USB-Cケーブル」の4本だ。ブログでは、それぞれの価格はApple Thunderbolt 4(USB-C)Proケーブルが129ドル、Amazonベーシック USB Type-Cケーブルはその10分の1未満(日本だと900円前後)、NiceTQ USB-Cケーブルが5.59ドル、ATYFUER USB-Cケーブルが3.89ドルとされている。

 Apple Thunderbolt 4(USB-C)Proケーブルは、その名の通りThunderbolt 4に対応し、最大40Gbpsのデータ通信が可能なケーブルだ。ディスプレイ出力と同時に100ワットの給電も可能だ。同社の分析では、プラスチックで覆われたコネクターにはステンレス製のシールドがあり、コネクターの根元を保護する「ストレインリリーフ」が一体化された強靱(きょうじん)な作りになっている。他にもコネクターの24本のピンが独立していて映像信号の処理を含む小型のプリント基板に接続されるなど、繊細に設計、製造されていることが分かった。

 一方、Amazonベーシック USB Type-Cケーブルは、60Wの給電と最大480Mbpsのデータ通信が可能な、USB 2.0にしか対応しないType-Cケーブルだ。外観はしっかりしていて、CTスキャナーで見るとAppleのケーブル同様にシールドがあり、ストレインリリーフと一体化している。ただし、ピンは12本のみでプリント基板も小規模なものであり、Appleのケーブルと比較すると大きく簡略化された仕様だ。

 NiceTQ USB-Cケーブルは、Amazonベーシックのケーブルと同等の価格ながらも最大10Gbpsまでのデータ転送を可能にし、USB 3.1 Gen 2をサポートする。しかし、スキャンしてみると、明らかに中身はスカスカだ。シールドやプリント基板もなく、8本しかないコネクターのピンのうち、ケーブルが直接つながっているのは4本だけだ。USB 3.1規格をサポートできるはずもないと同社は指摘した。するとブログの公開直後に、Amazonで販売中止になってしまったという。安かろう悪かろうの典型のような製品だということが暴かれてしまった。

 最後のATYFUER USB-Cケーブルも劇的な安さで、通信機能のない充電用ケーブルとして販売されている製品だ。これもどうせ……と思われたが、コネクター内部にはAmazonベーシックのケーブルより多く、AppleのThunderboltケーブルと同様の24ピンが存在していた。当然ながら給電にも使われていないが、同社によればピン数が多いことでコネクターを挿したときにポートの中でしっかり固定されるという。ATYFUERが別に製造しているThunderboltケーブルから流用した部品で、コスト削減のための流用ではないかとブログに書かれている。

 こうした具合に、AppleのThunderboltケーブルのように高いのには高い理由がある一方で、今回の分析で低価格なりに信頼できたりできなかったりする製品があることが分かった。すっかり標準化されただけに、しっかりした製品が世に送り出されるのを望むばかりだ。


上司X

上司X: USB Type-Cケーブルを産業用CTスキャナーでスキャンして内部構造を調べてみたら、いろいろ分かっちゃった、という話だよ。


ブラックピット

ブラックピット: USB 3.1、しかも速い方の規格に対応しているって言いながら実質USB 2.0って製品はさすがにひどいですね。


上司X

上司X: そのケーブルを買っちゃった人は悲劇だな。


ブラックピット

ブラックピット: 実際のところ外見で分からないUSB Type-Cケーブルですから、仕様を信じるしかないですよね。


上司X

上司X: メーカーがUSB-IF認証を取得したケーブルだと、コネクター部分にロゴが刻印されていることも多いから、それを見て判断できる場合もあるけどな。


ブラックピット

ブラックピット: 本来はそういう製品を買うのがいいんでしょうけどね。


上司X

上司X: ちなみにUSB 4の登場を機に、ガイドラインが変わってもっと分かりやすく表記できるようになるんだってさ。ロゴも変わったりね。まあ、この話はまたそのうちに。


ブラックピット

ブラックピット: 僕としては、表記がUSB Type-CでもUSB-Cでもいい感じの雰囲気になってきたことがうれしいですよ。


上司X

上司X: そもそも、USB-Cだって大本であるUSB-IFが「USB Type-Cと同じ」って宣言してるし、登録商標にもなってるんだから、もう、どっちでもいいよ。それはともかくだ、今回のこの産業用CTスキャンの試みは面白いものだ。破壊や分解することなく製品の内部をつまびらかにすることで隠していることまで分かってしまうんだからな。ユーザーとしては、今後もこうした分析をやってほしいものだよ。

川柳

ブラックピット(本名非公開)

ブラックピット

年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)

昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。

上司X(本名なぜか非公開)

上司X

年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)

中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。


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