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「弊社のドメイン名が売りに出てる」? ドメイン名の歴史とトラブル事例、手放し時

サービス終了したドメイン名をいつまで維持するのか悩んでいる方は多いでしょう。今回は、ドメイン名の歴史や私自身が遭遇したトラブルを振り返りつつ、ドメイン名を維持すべきか判断するためのポイントをお話しします。

» 2023年11月17日 07時00分 公開
[久松 剛エンジニアリングマネージメント]

情シス百物語

「IT百物語蒐集家」としてITかいわいについてnoteを更新する久松氏が、情シス部長を2社で担当した経験を基に、情シスに関する由無し事を言語化します。

 先立って2021年に終了したNTTドコモの「ドコモ口座」のドメイン「docomokouza.jp」が、「お名前ドットコム」の「.jpドメインオークション」で売りに出されるという事案がありました。現在はNTTドコモが取り戻している状態ですが、落札という形式を取ったのかどうかは明らかになっていません。

 昨今は中古ドメイン市場が存在しており、同様の事象が見られます。中には、価値の高いドメインを購入し、購入希望者に販売して利益を得るドメイン転売がされており、私自身、ドメイン名を巡るトラブルに遭遇したことがあります。

 サービス終了したドメインをいつまで維持するのかという悩みをお持ちの情シスも多いでしょう。今回はドメイン名の歴史や私自身が遭遇したトラブルを振り返りつつ、情シスが経営層を巻き込んでドメイン名を維持すべきか判断するためのポイントをお話しします。

ドメイン名の歴史、価値を持つようになった理由

 まず、ドメイン名の歴史や価値観の変遷についてをお話します。

人が認知しやすい文字記号としてのドメイン

 IPアドレスはインターネットにおける住所です。IPv4にせよIPv6にせよ、十進数や十六進数によって表現されるため、人が分かりやすいように文字列化したものが始まりです。インターネット黎明期に関わった研究者の人たちに話を聞くと「何でもよかった」という認識だったそうです。

jal.com裁判と、文字記号への価値の付与、サイバースクワッティング

 当初は「ただの記号」だったドメイン名ですが、インターネットの拡大に伴い意味を持つようになりました。

 IT革命によってインターネットがより身近な存在になると、各社、各サービスがこぞってドメイン名を買い求めるようになります。まだQRコードのようなものがなかったこともあり、ユーザーが直接URL入力をすることが多かったため、分かりやすいドメイン名を取ることがマーケティング施策でもありました。

 そして、スポットのイベントやコンサートのためにドメイン名を買い求めるケースが増え、その後は更新されずに他の人の手に渡るというサイクルが生まれました。

 そういった中、1999年に「business.com」が750万ドルで取引されました。それまで記号だった文字列に価値が生まれた瞬間と言えます。その後「business.com」は、2007年に3億4500万ドルで取引されます。

 日本で大きく話題になったのは2000年の「jal.com」でしょう。日本航空は第三者に取得されたドメインを取り戻すために紛争処理機関に申し立てましたが、姓名の頭文字が「J.A.L.」という個人が取得していたため、問題なしと判断され敗訴となりました。その後、取引があったようで現在は日本航空が所有しています。

 このようにドメインを巡る金銭のやり取りやトラブルは定期的に発生しています。JPNICがドメイン名紛争リストをまとめていますのでご参照ください。

意味合いの変化とSEO

 その後、検索エンジンやSNSの台頭、携帯電話のようなモバイル端末の普及、QRコードの普及に伴い「ドメイン名を直接入力する」ことに対する意味合いが減ったように見えました。

 以前は主要なccTLD(country code top-level Domain:国別コードトップレベルドメイン)で自社と自社サービスのドメイン名は一通り抑えるという大手企業もありましたが、ccTLDが増え過ぎ、困難になりました。

 再びドメイン名について価値が生まれ始めた理由がSEO対策におけるドメイン名の効力です。

 Webサイトが検索エンジンにおいてどの程度評価されているのかを表す「ドメインオーソリティー」は、GoogleにおけるPageRankを指し、0〜100で評価されます。絶対的な数字として評価に利用するというよりは、同業他社との比較する際に重要と言われています。

 外部リンク数は、外部のサイトからリンクされている数で、昔はPageRankが上がりやすくなる要素として重宝されていました。

 2010年代初頭はリンク数アップを目的に有象無象の「リンクをするためだけに存在するサイト」が溢れていました。現在は、有益ではないリンクをカウントしないため一概には言えませんが、中古ドメイン市場で外部リンクは「あったほうが望ましい」というニュアンスで取り上げられています。

 お名前.comを例に挙げると、ドメインオーソリティーや外部リンク数とともに、以前は何に使われていたのかということが、当時のtitleタグを引用する形で言及されています。他のサイトでは主要アンカーテキストを引用していたり、ご丁寧に人による解説がされていたりするものもあります。うっかりドメインを手放してしまうと自社のブランディングも含めて中古ドメイン業者にありがたく接収されてしまうと言えます。

 細かいことではありますが、「Internet Archive」などでその変遷や没落が確認できてしまうということも頭の片隅においておくとよいでしょう。

中古市場で気軽にドメインを購入できる(出典:筆者撮影)

筆者が巻き込まれた中古ドメイントラブル

 私自身、こうしたドメイン名を巡るトラブルに遭遇したことがあります。私は大学院で動画転送を題材にした研究開発をしていました。コンソーシアムを立ち上げることになり、事務局の設置に合わせてjpドメインを取得しました。

 しかしその後、時代の変遷に伴いコンソーシアムが解散となりました。期の節目ということで関係していた教員も事務員も散り散りになったのですが、関係者がいなくなったタイミングでドメイン名が宙に浮き、契約期間満了と共に中古ドメイン市場へと流れて行きました。

 そしてその後しばらくは、ヒゲ脱毛クリニックがコンソーシアムのドメイン名を保有しました。数年ぶりに思い出してアクセスしてみると一面がヒゲだったのは衝撃的でした。

 やがてヒゲ脱毛クリニックは自組織に準拠したドメインに引っ越したため、再度放流されました。一度中古ドメインで売られているのを見かけた時は、私たちが運営していたコンソーシアムについて言及されており、外部リンクなども学術系のものが多いことをご丁寧に解説されていました。

ドメイン名の更新間隔をどうするか

 ドメインの更新期間は1年だけでなく、複数年の契約ができるようになっています。ドメイン更新が迫っていて焦った経験がおありの方は、勢いよく「複数年契約で行くか!」という議論になりがちですが、次回更新の際に失念するリスクがあるため、カレンダーからチャットサービスに至るまでさまざまなリマインドを仕掛けることになります。

 また、ベンチャー界隈では人材の流動化が進んでいるため、10年更新などとしてしまうと「次回の更新の際に今のメンバーは誰か残っているんだろうか?」という懸念が生じます。こうなると、どれだけリマインダーを仕掛けても管理が厳しい状態となります。

 さらに、先のコンソーシアムの話もそうですが、予算の制約上1年以上先のサービス維持ができないようだと、ドメイン更新との相性が非常に悪いです。ドメイン消失などのリスクを考えると、既に長年使っている自組織のサブドメインで運用した方がよいという判断もあるでしょう。

ドメイン名の手放し時

 いつまでもドメイン名を手放さないとなると、喜ぶのはレジストラばかりとなります。サービスの廃止やリブランディングなどもある中、全ての未利用ドメインを保持し続けるのも限界があります。では、具体的な手放し時としてはどのような状態が想定されるでしょうか。

 判断軸の一つとして、サービスの知名度が上がらず、既存自社ブランドとの印象的な接続がなされていない場合であれば「知る人ぞ知る」状態であるため大きな問題にはなりにくいです。

 端的に言うと、当該ドメインと自社の主力ブランドイメージが遠く、仮にアダルトサイトに中古ドメインとして買われてもダメージが無いと経営判断されれば、更新しなくてもよいでしょう。

著者プロフィール:久松 剛(エンジニアリングマネージメント 社長)

 エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経て、ネットマーケティングで情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。

 2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナーなども開催する。

Twitter : @makaibito


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