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自動化施策に効果はあるのに「認知度が低い」 iPaaSって知ってる?【実態調査】iPaaSの利用状況(2023)/後編

今や多くの企業が業務自動化に取り組んでいる。効果を実感しやすい半面、自動化には多くの課題もある。調査で浮かび上がった業務自動化に取り組む企業の課題とは。また、業務自動化の範囲拡大に資するiPaaSについて寄せられた懸念も紹介する。

» 2023年12月14日 08時00分 公開
[キーマンズネット]

 企業におけるクラウドサービス利用の増加とともにネックになってきたSaaS(Software as a Service)の運用課題。その解決策としてのiPaaS(Integration Platform as a Service)の導入実態を取り上げる中で、iPaaS導入の目的として複数システムの統合や連携だけでなく、「業務プロセスの自動化」へのニーズが高いことが分かった。そこで本稿では前編に引き続き「iPaaSの利用状況(2023年)に関する調査」(実施期間:2023年11月6日〜27日、回答件数:244件)を基に、企業における業務自動化への取り組み状況や運用課題、さらにiPaaSへの懸念について取り上げる。

58.6%が「業務自動化」を実施中 iPaaSを用いた自動化の実施率は?

 自社における業務自動化の実施状況を尋ねたところ、「全ての業務を自動化している」(2.0%)、「ほとんどの業務を自動化している」(10.7%)、「一部の業務を自動化している」(45.9%)を合わせ、58.6%と過半数の企業が自動化を実施していることが分かった(図1)。

図1 業務自動化の取り組み状況(従業員規模別) 図1 業務自動化の取り組み状況(従業員規模別)

 従業員規模別に見ると、500人以上の企業では実施率が過半数に上る一方、とりわけ100人以下の企業においては「全ての業務を自動化している」「ほとんどの業務を自動化している」の回答はなく、「一部の業務を自動化している」も約3割にとどまるなど大きな差が見られた。

 自動化の手法としては「ワークフローツール」(60.8%)が最多で、次いで「Microsoft Excelマクロ」(45.5%)、「RPA」(Robotic Process Automation)(32.3%)、「iPaaS」(12.6%)と続いた(図2)。

図2 業務自動化の手法(複数回答可) 図2 業務自動化の手法(複数回答可)

 RPAやAI(人工知能)を用いた自動化は1001人以上の企業で多く、スクラッチ開発による自動化は100人以下の企業に多いという傾向がみられた。また、iPaaSを用いた自動化の実施率が最も高かったのは5000人以上の企業(17%)、次点は301〜500人の企業の16.7%だった。

 iPaaSを用いた自動化の実施率が5000人以上の企業で高い背景には、そもそもこの規模の企業におけるiPaaSの導入率が高い(全体の7.4%に対して10.9%)ことが背景にある。また、同じく5000人以上の企業で自動化の手段として採用されている中で他の規模の企業に比べて実施率の高い「RPAを使った自動化」(46.8%)とiPaaSとの親和性の高さも理由の一つである可能性がある。これは301〜500人の企業の「RPAを使った自動化」の実施率が50%と全ての企業規模帯の中で最も高かったことからも裏付けられるかもしれない。

自動化の課題は3位「導入コスト」2位「部分最適でスケールしない」……1位は?

 次に業務自動化における課題をみていこう。調査によると多くの回答が集まった順に「スキルを持った人材がいない」(37.8%)、「一部の業務しか自動化できずスケールしない」(33.6%)、「ツール導入のコストがかかる」(25.9%)、「部門をまたいだ自動化ができていない」(24.5%)、「部分最適のツール導入によって自動化のプロセスがサイロ化している」(19.6%)が挙がった(図3)。

図3 業務自動化における課題(複数回答可) 図3 業務自動化における課題(複数回答可)

 自動化が”部分最適”にとどまってしまう課題はよく聞かれる。前項の自動化手法としてRPAやiPaaSよりもワークフローツールやExcelマクロに多くの回答が集まったことからも、承認や申請、データ集計といった業務プロセスの部分最適化にとどまっている現状が浮かび上がっている。

 部門をまたいだ自動化プロセスの構築にRPAを活用する場合も、自動化の規模が大きくなるほど「自動化のフローがエラーを起こして止まる」(7.7%)といった機能面や、「セキュリティ、内部統制の問題が出てきた」(13.3%)といったコンプライアンス面での懸念が障壁となり、なかなか全社横断でシステムを構築できないケースも多い。

 そうした課題を解決するためには、プロジェクト責任者やRPA開発スキルを持った人材の確保や、iPaaSのようなRPAを補完するツール導入や保守にコストをかけることも必要だ。しかし、人材の配置転換や採用・育成、予算確保などの実行課題を鑑みて最適解をみいだせない企業も多いことは、図3からも明らかだ。

 企業規模別に見ると、特に300人以下の企業でこうした課題感は大きく、「スキルを持った人材がいない」「一部の業務しか自動化できずスケールしない」「ツール導入のコストがかかる」に多くの回答が集まった。

 ただし、一般的に中堅・中小企業に比べて人材確保に関してや予算の面で有利だと考えられがちな大企業も例外ではないようだ。「スキルを持った人材がいない」という回答は回答者全体の37.8%に対し、1001~5000人の企業は36.4%、5000人以上の企業でも34%と課題感が小さいわけではないことが分かった。

 なお、業務自動化の「コスパ」はどうだろうか。「期待したROIが出せない」と回答した人の割合は、全回答者の13.3%に対して、5000人以上の企業では23.4%と大企業で課題感が大きいことが分かった。

 これは5000人以上の企業が抱える課題として挙がった「部分最適のツール導入によって自動化のプロセスがサイロ化している」(23.4%、全体では19.6%)、「部門をまたいだ自動化ができていない」(27.7%、全体では24.5%)「一部の業務しか自動化できずスケールしない」(31.9%、全体では33.6%)といった自動化の範囲が一部の業務からなかなか拡大しないこととの関連性が高いと考えられる。

 自動化ツール導入にかかったコストや自動化シナリオの保守に工数がかかるといった保守運用の手間が、自動化による現場の負担感の軽減を上回っている可能性がある。また早い時期から導入していた企業では自動化しやすい業務は一通り実施済みで、自動化の拡大が頭打ちになっていることも「期待したROIが出せない」との感想につながっているのかもしれない。

全社最適化への道は遠い 単独部門での取り組み目立つ

 部分最適から脱却するためには「主体となる推進部門の選定」も重要ポイントの一つになるだろう。自動化に取り組んでいる企業に主体となる部門を尋ねたところ、「情報システム部門」(35.0%)が最も多かった。「部門ごとに実施しているため分からない」(21.0%)、「ユーザー部門」(20.3%)など部門単独で取り組むケースの多さが目立つ。「ユーザー部門と情報システム部門」(27.3%)と複数の部門が連携するケースは3割にも満たなかった(図4)。

図4 業務自動化プロジェクトで主体となる部門(複数回答可) 図4 業務自動化プロジェクトで主体となる部門(複数回答可)

 全社最適を目指すならば、当然全社横断のプロジェクト体制を組成することが望ましい。部門単独での取り組みだと、推進主体となる部門の業務フローが基軸となったり、部門が担う他の役割との兼ね合いで推進スピードが鈍化したりすることが懸念されるからだ。

 今回の調査では、「自動化プロジェクトの専任部門(CoE)」を設置している企業は4.9%で、「SIerとCoE」の0.7%と合わせても1割に満たない状況だった。これは2022年に実施した前回調査から1.0ポイントしか増加していない。こうした背景には上で明らかになった人材不足やシステム構築費用を捻出する難しさ、さらに費用対効果の測定難易度の高さなどもあるのかもしれない。

 しかし、そもそも企業が業務自動化に取り組む目的の一つには、日本社会が直面する深刻な人手不足を解消するための”組織の生産性向上”があったはずだ。人材不足によってその手段である業務自動化が推進できないというのは本末転倒にも思える。

 生産性向上への取り組みを部門やチームといった単位での最適化にとどまらずに全社単位での自動化にレベルアップさせるためには、経営陣などの上位層を巻き込んだ全社横断で取り組むべき「理由」や「目的」を明確にすることが求められる。自動化によって創出した余力工数や予算を活用して競合他社に対する優位性を高めていくといった中長期的な視野で取り組みの優先度を決定する必要があるのではないだろうか。

「セキュリティ」「導入を主導できる人材がいない」iPaaSへの懸念

 ここまで業務自動化の取り組みにおける実態について、主に課題にフォーカスして紹介してきた。前編でも触れたようにAPI連携による自動化を実現することで、RPAを補完してより広範囲な業務の自動化に資するのがiPaaSだ。前編でも触れたように、、iPaaSは業務自動化を目的として導入されるケースも多い。 今回の調査ではiPaaSの導入目的として約半数の回答者(実際に導入済みの企業だけでなく、「導入を検討中」「興味がある」と回答した企業も含む)が「SaaSとオンプレミスシステムをまたいだ業務プロセスの自動化」を挙げている。

 一方で、iPaaSの導入に懸念を抱く回答者もいるようだ。自由記述で寄せられた回答の中から幾つかのグループに分けて紹介しよう。

 多くの回答が集まったのが、セキュリティを含む管理面における懸念だ。ここで特徴的なのは、一つはAPIやプロセスの「野良化」によって情報ろう洩や不正アクセスのリスクが高まるのではないかという懸念で、もう一つはやはり「野良化」によって対策コストの増加が危惧される点だ。

情報ろう洩や不正アクセスリスク増への懸念

  • APIの間口が多くなることで、セキュリティホールが生まれるリスク
  • APIの管理があいまいとなり、野良のものが発生する懸念がある
  • iPaaS用に現在対策されているセキュリティ設定に例外設定として穴をあける必要がでている
  • 検証を部門、プロジェクトで実施することによる野良APIが増える
  • 野良スキームを生み出すリスクがある
  • 野良プロセスが作成され、保守できないまま使わざるを得なくならないか
  • 野良プロセス,野良APIによる属人化
  • 管理外のプロセスができるのではないか
  • 情報システム部主導で進めるのであれば良いが、各部門で独自のものが作られていくと整理がつかなくなる。

セキュリティ対策コスト増加への懸念

  • セキュリティ対策とその維持に掛かるコストの増大
  • メンテナンスの人件費コスト
  • 複雑・高コストで対応できない
  • 運用工数の増加

スキルを持つ人材不足への懸念

  • 対応できる人材がいない
  • 自社に技術力のある人材がいない
  • 導入を主導できる技術者がいない
  • プロセスの全体像を把握している人がいない
  • iPaaSを含めた業務全体を見通せる人が限られる。管理が属人的になるのではないかという懸念がある
  • 拡張性に向けたAPIを社内の情報システム部門が自力での開発や投入、運用ができるかどうか、そのスキルアップの仕組みがあるかが懸念

 こうしてみると、セキュリティ面や管理体制の不十分さ、人材不足などiPaaSへの懸念は尽きないようだ。ただ、どのツールを選ぶかにもよるが、iPaaSには他の連携手段に比べて導入やメンテナンスにかかる費用が安価になる傾向があること、セキュリティ機能を搭載しているツールやアクセス権限の設定が可能なツールもあること、拡張性があるためSaaSやデータソースの追加に柔軟に対応できるツールもあることなど利用するメリットは多岐にわたる。

 前編で取り上げたように、実際に導入した企業のうち83.3%は「おおむね想定通りの成果を上げている」、16.7%は「想定以上の成果を挙げている」と回答している。今回の調査における導入企業の数が少ない(回答者全体の7.4%)点に留意する必要はあるが、懸念点をクリアする体制を整備し、自社の課題に沿った製品を導入した企業の満足度は高いといえるだろう。

 認知度は低いが、導入した企業の満足度は高いiPaaS。今回の調査で「iPaaSに興味がある」「検討中」と回答した企業は全体の約4割に上った。SaaSの利用拡大とクラウド移行が進む中で、今後iPaaSの導入が進むのかどうか、それによってSaaSの利用拡大や業務自動化における課題は解消されるのかどうか、引き続き注視していきたい。

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