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ChatGPTの新機能 「記憶」を自在に扱う(第10回)

OpenAIはChatGPTとの会話を改善するために、新たに「記憶」機能を追加した。記憶機能はどのように役立つのだろうか。

» 2024年02月20日 07時00分 公開
[畑陽一郎キーマンズネット]

 OpenAIは2024年2月13日(現地時間、以下同)、生成AI(人工知能)「ChatGPT」の動作を変える機能を公開した。今回はプロンプトから離れて、この機能について紹介しよう。

ChatGPTに何を記憶させ、何をさせないのかを設定できる

 OpenAIはChatGPTに「記憶」(メモリ)を持たせる機能を追加した。OpenAIがあらかじめ学習させた内容に加えて、ユーザーがプロンプトで指示した内容とその回答を長期間にわたって覚える、または忘れる機能だ。

 これまではChatGPTを使う際にトークン(単語、または単語をさらに分割した単位)の制限を意識しなければならなかった。例えばGPT-3.5では会話(チャット)の際に、1024トークンまでしか保持できないため、ユーザーが工夫しないとChatGPTは以前の会話の内容を覚えられなかった

 新機能はトークンの制限とは別の記憶だ。何かを長期的に記憶するようにユーザーがChatGPTに指示したり、何を記憶したのかを確認したり、記憶内容を聞いたり、特定のやりとりを記憶しないように指示できる。何も記憶しないように設定することも可能だ(図1)。

図1 ChatGPTの記憶を管理するダイアログ(提供:OpenAI)

 OpenAIは2024年2月12日の週から一部の無料ユーザー(GPT-3.5)と「ChatGPT Plus」のユーザー(GPT-4)にこの機能を導入済みだ。近日中に提供範囲を拡大する予定だという。

ChatGPTの記憶は何に役立つのか

 ChatGPTと会話する際に、掘り下げたり、何を覚えるのかを細かく指定したりしていくと、ChatGPTの記憶がユーザーごとにカスタマイズされて、ChatGPTの応答が改善されていく。ある会話の内容を別の会話の際にChatGPTが利用するからだ。

 OpenAIによれば次のようなシーンで役立つ。

(1)会議メモの見だしや箇条書き、会議や討論の中で決まった行動やタスクアクションアイテムを最後にまとめるように指示したとしよう。記憶がオンになっていれば、ChatGPTはこれを覚えていて、次の機会に会議について情報を与えると、特に指示しなくても会議の要約を作るようになる
(2)「私は近所のコーヒーショップの経営者だ」とChatGPTに伝えたとしよう。開店記念を祝うSNSの文章を作るようChatGPTとやりとりするとき、ChatGPTはこの前提知識を利用した文面を作る
(3)「自分の子供はクラゲが好きだ」とChatGPTに伝えたとしよう。子供の誕生日カードの作成をChatGPTに依頼すると、パーティー用の帽子をかぶったクラゲの絵を提案してくる
(4)「自分は幼稚園の先生で25人の園児がいて、50分でレッスンとフォローアップ活動をしたい」と伝えておくと、レッスンプランを作成するよう指示したときにこの情報を利用する

ChatGPTの記憶機能を操作するには

 ChatGPTの記憶機能はいつでもオフにできる(図2)。設定画面を使って、次のようにオフにする。このように設定するとChatGPTはプロンプトの内容などを記録しなくなる。

図2 ChatGPTの記憶を管理するダイアログの使い方(クリックで再生、提供:OpenAI)

 何かを忘れてほしい場合は、プロンプトでそのように伝えればよい(図3)。[設定]―[個人設定]―[メモリ]で、特定の記憶を表示したり、削除したり、全ての記憶を消去したりできる。

図3 ChatGPTの記憶を削除する方法(クリックで再生、提供:OpenAI)

 ChatGPTの記憶は、ユーザーとのやりとりによって刻々と変化し、特定の会話と結び付いてはいない。会話の履歴と記憶は別々に保存されている。つまり、会話を削除しても記憶は消えない。それを消したい場合は記憶自体を削除する必要がある。

セキュリティとプライバシーを改善する

 ChatGPTは会話内容を学習に利用するため、セキュリティやプライバシーに課題が生じる場合があった。新機能を使うと、ユーザーの会話履歴や記憶を、ChatGPTのトレーニング(機能の改善)に利用させることもできるし、記憶をオフにすることで利用させないようにすることもできる。なお、「ChatGPT Team」と「ChatGPT Enterprise」のユーザーが入力した情報はもともとトレーニングには使われていない。

 記憶機能を使わずにChatGPTと会話をしたい場合は、「一時的チャット」を利用できる(図4)。一時的チャットは履歴に表示されない。記憶はもちろん使わない。ChatGPTのトレーニングにも使用されない。

図4 一時的チャットの使い方(クリックで再生、提供:OpenAI)

 さらに今回の記憶機能では、どのような情報を記憶し、どのように使用するかといった、プライバシーと安全に関する新たな指針が反映されている。OpenAIによれば、バイアスを評価して軽減するための措置が講じられており、ユーザーが明示的に要求しない限り、ChatGPTは、ユーザーの健康情報のような機密情報を積極的に記憶しないように設計されている。

ChatGPT TeamとChatGPT Enterpriseのユーザーは何ができるのか

 ChatGPT TeamとChatGPT Enterpriseのユーザーにとって、記憶機能は仕事に役立つという。ユーザーのスタイルや好みを学習し、過去のやりとりを基に回答を作り出せるからだ。ユーザーが指示する手間が減り、より適切で洞察力のある回答を得られるようになる。OpenAIによれば次のように役立つという。

(1)ChatGPTはユーザーのトーンやフォーマットの好みを記憶し、ユーザーが繰り返し指示することなく、自動的にブログの下書きを作成できる
(2)コーディングの際、ChatGPTに利用するプログラミング言語とフレームワークを伝えておけば、その後の作業を効率化できる
(3)毎月のビジネスレビューにChatGPTを使う際、データを安全にChatGPTにアップロードできる。その上で例えば3つのポイントからなる好みのグラフを毎回作成してくれる

 ChatGPTのどの機能にもあてはまることだが、企業や組織の独自データを制御するのはユーザーの責任だ。もちろん、ワークスペース上の記憶やその他の情報は、ChatGPTのトレーニングから除外されている。その前提で、ChatGPTに与えた記憶がその後の会話でいつ、どのように使われるかをユーザーがコントロールできる。さらに、ChatGPT Enterpriseのオーナーであれば、いつでも組織の記憶をオフにできる。

GPT自体にも記憶が加わった

 企業ごとに自社向けのGPTを作り出して使うシーンが増えてきた。この際、GPTにも記憶を利用できる。GPTのビルダーにはGPTの記憶を有効にするオプションが加わった。会話と同様、記憶はビルダー自体とは共有されない。なお、記憶を有効にしたGPTとやりとりするには、記憶をユーザー側の設定でオンにしておく必要がある。OpenAIによれば次のような利用シーンが考えられるという。

(1)次に読む本を探すのに役立つ「Books GPT」を作ったとしよう。記憶を有効にすると、好きなジャンルや人気の本など、ユーザーの好みを記憶し、何度も入力することなく、ユーザーに応じてお薦めの本を選んでくれる
(2)お祝いカードを作る際に役立つ「Artful Greeting Card GPT」を作ったとしよう。この場合、記憶機能を注意深く利用する必要がある。各GPTは独自のメモリを持っているので、以前にChatGPTと共有した詳細情報があったとしても、再度、指示する必要があるかもしれない。娘の誕生日カードを作る場合、GPTは娘の年齢やクラゲが好きだということを知らない。関連する詳細を伝える必要がある

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