「ExcelやPower Pointなどにナレッジが分散化し、情報が不透明」「アプリも情報も属人化している」――こうした課題を抱えるケースは珍しくない。企業はどのような打開策を期待しているのか。
「『Microsoft Excel』(以下、Excel)や『Microsoft Word』(以下、Word)で作成した資料が散在して、情報がサイロ化している」「個人にノウハウが閉じている」「ナレッジを蓄積する習慣がない」――こうした課題は多くの企業が持つものだ。
課題が深刻化する今、個人に蓄積された知識や情報を管理し、組織で活用できるように共有化する「ナレッジ管理」(ナレッジマネジメント)が注目されている。そこでキーマンズネットでは「ナレッジ管理の実施状況(実施期間:2024年2月21日〜3月15日、回答件数:233件)」を実施した。企業において、ナレッジ管理の重要度を理解しつつも、ままならない現状が見えてきた。
2023年11月、Survey Reportsが公開した「ナレッジ管理ソフトウェア市場調査レポート」によると、世界のナレッジマネジメントソフトウェア市場規模は2022年に265億2000万米ドルに達した。2023年から2032年にかけてはCAGR(年平均成長率)8.79%で成長し、2032年には616億1000万米ドルに達すると見込まれる。
その背景として、企業での業務効率化や新規開発において知識共有の重要性が増すことや、クラウドベースのソリューションが増加すること、法規制順守の機運が高まることなどが挙げられる。
日本企業でもその情勢が表れている。
ナレッジ管理の認知度を調査したところ、大多数の88.4%が認知しており、「知っており、ある程度内容も理解している」(45.9%)と「知っており、内容も十分理解している」(26.6%)を合わせると72.5%が言葉だけでなく内容についても理解していると回答した(図1)。
実際に、読者はどのような手法でナレッジを管理しているのだろうか。1位が「コラボレーションプラットフォーム型ツール(例/Google Workspace、Microsoft 365など)での知識共有」で36.9%の回答が集まった。次いで「ドキュメント管理型ツール(例/Microsoft SharePoint、Evernote Businessなど)での知識共有」(32.2%)の回答率が高かった(図2)。
「非公式な対話やメモの交換などによる知識共有」(31.8%)や「定期的なミーティングやワークショップでの知識共有」(31.8%)のようなアナログな方法でナレッジを管理、共有するとした回答も上位を占め、情報の質や粒度にばらつきが出たり、情報の共有範囲が限定されたりするリスクが懸念される(図2)。
ナレッジ管理の効果を前面にうたう「Notion」や「Confluence」といったツールも注目を集めているが、導入率は13.3%で、広く普及しているとは言えないようだ(図2)。
現在の手法に対して、企業はどのような所感を抱いているのだろうか。アンケートでは、全体の73.8%の企業が現在のナレッジ管理の方法に「問題がある」と回答した。その内容をフリーコメントで深堀したところ、2つの理由が見えてきた。1つ目は、適切なツールやルールを導入できていないというものだ。
企業がナレッジを管理、共有する手法としては「Google Workspace」や「Microsoft 365」といったコラボレーションプラットフォームが人気だ。しかし、これらのアプリケーションに情報が散在して、ナレッジとして表出化されないと訴える声が多く寄せられた。
他にも「『Notion』や『Microsoft Loop』など選択肢は多いが、サービス終了が怖い。結局Wordに書き溜めて、それをSharePoint で共有し、情報を検索できるようにしてしまう」というように、決定的なツールが見つからないという悩みが聞かれた。「各部門が情報をExcelで保管し、散財状態」というように、どのように管理するかのルールが全社で統一されていないと訴える声もあった。
2つ目は、そもそもナレッジ管理を重視する意識や文化がないという問題だ。「ユーザーの間でもナレッジ管理に関する理解度に温度差がある」などの指摘が挙がった。
印象的なコメントとして「個人の判断でWordやExcelにフリーフォーマットで残す場合もあるが粒度が揃わず、ある程度の質のものを求めると資料作成の手間と時間を惜しんでナレッジを残すことが敬遠されてしまう」というものもあった。管理の質を求めすぎると、個人が持つ情報が表出化されないという状況に悩む回答者もいるようだ。
ナレッジを適切に管理、共有することは業務を円滑に進め、企業の成長を促すが、それがままならない状況があることを見てきた。回答者からは「本来、皆ができねばならない新業務について、あまり積極的に学んでいるとは思えず、一人しか把握していない。退職したらどうするのだろう……と思う」という心配の声が上がっている。
さらに「個人に知見が溜まるため業務が属人化している」(59.2%)や「ナレッジ蓄積がされておらず退職後の引継ぎや新人育成に手間がかかる」(51.1%)、「ベテラン社員のノウハウが継承されない」(41.6%)「複数ツールで知見がサイロ化しており業務効率が悪い」(32.2%)などの項目に回答が集まり、業務に支障を来たしていることが感じられた(図3)。
この状況を打破するためには、ソフトの施策であるルール整備や周知、社内文化の醸成と、ハードの施策である適切なツールの活用という2つのアプローチが必要になる。後者については多くのサービスが登場しているが、どのような点が選定のポイントになるのか。
上位には「操作性の良さ」(64.8%)や「運用コスト」(55.4%)、「分かりやすいUI設計」(54.5%)、「検索機能の強力さ」(48.1%)が並び、ユーザーの使いやすさに焦点がおかれていることが分かる(図4)。ノウハウや知識、情報をナレッジとしてまとめ、共有する習慣をつくるためには、その工数やハードルをなるべく下げることが重要だという企業の認識がうかがえる。
以上、前編では企業のナレッジ管理における課題について考察した。後編では「ナレッジ管理ツール」の導入目的や満足度などから企業のニーズを深堀する。
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