AWSは、生成AIによって強化されたコンタクトセンター向けの労働力管理機能および通話の要約機能をリリースした。一方で、Googleは、独自の「Contact Center AI Platform」のプレビュー版を公開した。
GoogleとAWS(Amazon Web Services)は2024年3月25日(現地時間、以下同)の週に、コンタクトセンター向けの生成AI(人工知能)ツールを発表した。コンタクトセンター向けのサービスに生成AI機能を追加する発表が続いている背景と、機能、メリットについて紹介する。
AWSのコンタクトプラットフォームである「Amazon Connect」は、10万人のエージェントが従事する顧客サービス業務で使用されているAWSのソフトウェアに基づいている。今回、Amazon Connectに複数の生成AI機能が追加された。1つ目の機能はサードパーティーアプリケーションのサポート強化で、エージェントが使用する10以上のアプリケーション間でデータをやりとりする。
AWSのパスクアーレ・デマイオ氏(バイスプレジデント兼Amazon Connectのゼネラルマネジャー)は、次のように述べた。
「通話内容の要約機能は、エージェントが書かなければならない転記とキーボードデータに基づいている。この作業でエージェントの生産性は低下するという課題があったが、生成AIはコンタクトセンターの知識をベースにより正確に情報を収集できる。この機能は、時間を節約するだけでなく、AIモデルを人間と仮想エージェントの両方にとって有益だ」
AWSがリリースしたもう一つの機能は、労働力管理(WFM)で、「Amazon Connect Contact Lens」という音声分析ツールセットを使用したエージェントの自動評価だ。このような概念は、Amazonが従業員をbotに置き換えたり、バンや倉庫で従業員をカメラで監視したりしてきたという話を知るエージェントたちを心配させるかもしれない。
デマイオ氏は「エージェントは、Amazon Connectのモニタリング機能を警戒する必要はない」と述べた。過去には、マネジャーがランダムに選んだ特定のエージェントの通話を監視してきた。この方法だと、マネジャーが選んだ通話がたまたまうまくいかなかった場合、そのエージェントが普段は通話業務に対応できているとしても、1度の失敗を基にパフォーマンスが低いスタッフとして不当な評価を受ける恐れがある。
「たまたま成功したコールがあった場合、そのエージェントは今までで最高のエージェントのように評価される。そのエージェントが普段からどのようなパフォーマンスをしているのか、あるいはコンタクトセンターがどのようなパフォーマンスをしているのか、その傾向を本当に把握しているとは言えないだろう」(デマイオ氏)
エージェントの自動評価は、エージェントのパフォーマンス全体を分析する。その結果、トレーニングを更新する機会が明らかとなり、支援が必要なエージェントが特定され、マネジャーは全ての顧客との接触で何が起こっているかをより明確に理解できるようになる。
情報メディアである「TheCube」のシェリー・クレイマー氏(アナリスト)は、次のように述べた。
「AWSがAmazon Connect向けにリリースした生成AI機能は、他の多くのベンダーも提供している。AWSだけがエージェント自動評価機能を提供しているわけではない。Ciscoなどの一部のベンダーも生成AIでエージェントの健康状態をモニタリングしている。全てのコンタクトセンターソフトウェアベンダーが次に焦点を当てるべきユースケースだ」
また、クレイマー氏はコンタクトセンターの離職率についても言及した。
「コンタクトセンターエージェントの仕事はストレスが多い。機嫌の悪い顧客とやりとりしており、賃金が低い傾向になる。高い離職率は業界全体で問題となっており、永遠の課題だ。ストレスレベルや通話のパフォーマンスに基づいてエージェントの『ウェルネス』を監視するための機能を開発することは、マネジャーが喜ぶパフォーマンスの自動評価の開発よりも意義があるだろう」
AWSだけが、コンタクトセンター領域で生成AIによる労働力管理に焦点を当てているわけではない。Googleは、「Contact Center AI Platform」(CCAIP)の新機能をプレビューしている。CCAIPは、Ujetのエージェントデスクトップと連携している。
2024年3月25日の週には、AIによるエージェントのスコアリングツール、顧客とのやりとりをスキャンして新しいトピックを把握し、エージェントのパフォーマンスを測定する機能、コンタクトセンターの指標を視覚化するための新しいダッシュボードのプレビュー版を公開した。これは、AWSのリリースに類似している。
Googleは、地域間の障害復旧システムをコンタクトセンターのインフラストラクチャに追加し、地域で障害が発生した場合にも稼働時間を強化し、ビジネスの継続性と災害復旧を支援できる体制を整えた。
2024年4月8日の週に開催が予定されているカンファレンス「Google Cloud Next」では、CCAIPに関する追加のプレビューやリリースがあるかもしれない。
情報メディア企業であるOpus Communicationsのダン・ミラー氏(創設者)は、 「AmazonやGoogleが提供するようなAIツールは、予算との関係で難しい」と述べた。同氏が話を聞いたコンタクトセンターは、設定やスタッフ配置、トレーニング、選択した生成AIチャットbotから発生する可能性のある大規模言語モデル(LLM)のコストについて検討している。数十年にわたり、コンタクトセンターはエージェントのパフォーマンスと顧客満足度を測定してきたが、生成AIはほとんど未知であり、進化し続けている。
「コンタクトセンターはROI(投資対効果)の指標を求めている。それこそが業界が生成AIに注目する理由だ。なぜならば、通話の平均処理時間を削減する度に、数十億ドルの節約になるためだ。しかし、問題は、これらのコストを把握している人物がいないことである」(ミラー氏)
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