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Teamsユーザーの大成建設はなぜLINE WORKSを導入したのか

働き方改革で人手不足が顕著な建設業界において、コミュニケーション環境のデジタル化と改善が進む。Teamsを使う大成建設はなぜ別のツールを導入したのか。

» 2024年06月21日 08時00分 公開
[平 行男合同会社スクライブ]

 大成建設は、日本建設業連合会で同業他社と一緒に建設業界のデジタル化に取り組んでいる。その柱の一つが「デジタルコミュニケーションでの情報共有」だ。

 同社は、社内で「Microsoft 365」を導入していたが、現場でのコミュニケーションツールとして「LINE WORKS」を導入し、1万以上のアカウントを使いこなしている。既に「Microsoft Teams」(以下、Teams)を使う大成建設はなぜ別のツールを導入したのか。

 ゼネコンに特化したDX支援サービスを展開しているネクストフィールドの科部元浩氏(取締役)が、大成建設の田中吉史氏(建築本部 生産技術イノベーション部 生産技術ソリューション推進室 室長)に建設業におけるDXの現状を聞いた。

大成建設 田中吉史氏

Teamsを利用している大成建設が1万以上のLINE WORKSのアカウントを持つ理由

大成建設では現場のITの課題を解決するために「ICTキャラバン隊」を組織して取り組んできた。ICTキャラバン隊の9割は大成建設の従業員以外の外部メンバーで構成されている。

 最近のITヘルプデスクはリモートで対応することが多いが、大成建設のICTキャラバン隊はあえて直接出向いて現場で対応するスタイルを大事にしてきた。現場を含めて全従業員に生産性の向上を促すための「生産性向上新聞」を毎月配信するなど、積極的に生産性向上やデジタル化に対する啓蒙活動をしている。

 「当社が開発して2020年にグッドデザイン賞を受賞した『くるくるメジャー』という小型で最軽量のスチールメジャーがあります。『一人の従業員が業界全体の生産性向上を考える。いつしか皆は一人のために協力の輪を作り始める。そしてチームが生まれ、プロジェクトが動き出す。開始から2年。生産性向上を目標とした小型最軽量メジャーは完成した』――。この言葉はその時のPR動画のコピー文です。さまざまな『人』が働く建設現場の生産性の向上を図るために、当社はくるくるメジャーなどのアナログ施策はもちろん、ICTツールを活用して生産性の向上のための活動を行っています」(田中氏)

 大成建設は、日本建設業連合会で同業他社と一緒に建設業界のデジタル化に取り組んでいる。2016年に開催された「未来投資会議」で建設業界のデジタル化についての言及があったことをきっかけに、「建設業界デジタル化の進化の道程」を作成した。

 それによると、建設業界のデジタル化は、「デジタルコミュニケーションでの情報共有」に始まり、「デジタル検査データを記録」「物流をデジタル化」「測量をデジタル化」と、全自動施工に向けて長い道のりを歩き始めた。大成建設はこの数年間、「iPhone」や「iPad」を建設現場に持ち出して、モバイル技術を活用した情報共有に取り組んでいる。

 「私が現場に出た30年ほど前は、建設現場にはまだ携帯電話がなく、広い現場内での呼び出しや業務連絡は、場内放送やトランシーバーを使うことが普通でした。その後、ガラケーで業務連絡をするようになりましたが、当時はまだ写真や図面を送ることはできません。画像が送れるようになったのはiPhoneが現場に出回るようになってからです。その後の変化は速く、情報共有のスピードが求められるようになりました。現在では建設現場と言えどもリアルタイムでの対応が要求されます」(田中氏)

 大規模な建設現場では、大小さまざまな規模の数百社の協力会社が連携して仕事をする。そこでは多様な業種の人々が働く。数千人が入れ替わる環境の中で情報を統制し、漏れなく伝達することは現場監督の重要な仕事だ。

 「iPhoneが普及してからは、さまざまなSNSツールが出回るようになりました。当初は特にツールの指定などはせず、現場の裁量に任せていました。しかし、情報企画部門ではセキュリティに対する懸念を持っており、現場監督としても公私混同になりがちな点が大きな課題でした。その頃、現場では情報共有をLINEでする機会が増えていました」(田中氏)

 ICTキャラバン隊がLINEに代わるツールを検討した結果、インタフェースがLINEと同様で移行しやすいことからLINE WORKSを導入した。田中氏は、LINE WORKSを導入した効果として「現場のデジタル化に対するマインドが一気に進んだ」と語る。

 一方、大成建設は「Microsoft 365」を導入しており、現場以外の部門では「Microsoft Teams」(以下、Teams)を主なコミュニケーションツールとして使っている。社内に2つのツールが混在することになるが、現場でストレスなくコミュニケーションが取れることがLINE WORKS導入の重要なポイントになった。

 Teamsはあくまで大成建設グループの中で閉じられているので、数千社という協力会社が共存する環境で使う現場のツールとしては、LINEから移行しやすく教育コストが全くかからないLINE WORKSは非常に理にかなった選択だった。

現場の情報共有スピードが飛躍的に向上

 大規模な現場では、LINE WORKSのアカウント数が500〜800になる現場もある。現場でどのような意図でLINE WORKSが使われているかは、登録されたグループの名称などを見れば分かる。

 「現場では“安全”“健康相談室”“朝礼時作業周知内容”など目的別にグループを作り、参加メンバーで業務のコミュニケーションを取っています。作業に必要なことは、昔のようにホワイトボードに書いたり、紙で渡したりするのではなく、指示を含めてLINE WORKSで伝えています。図面や工程表などもそこに添付します。LINE WORKSを導入したことで指示が明確になり、情報伝達にもスピーディーになります」(田中氏)

 現場の作業員は決してITが得意な人ばかりではないため、誰でも使いやすくスムーズに導入できる点は大きなメリットだと田中氏は強調した。紙で実行することが当たり前だった業務が画面上で終わるスピード感は高く評価できるという。

 大成建設の従業員数は約8600人だが、LINE WORKSの利用アカウント数は協力会社に貸与しているものも含めて1万を超えている。全国で常時300カ所以上ある作業所のうち、190を超える作業所でLINE WORKSが稼働している。全体の3分の2近くの現場にLINE WORKSが浸透していることになる。

 「最近では、細かい機能をうまく使い始めています。タスク機能を使って、作業依頼が終了したら消し込む運用をしたり、ToDoリストを活用したりと職人さんたちもかなり慣れてきたと感じています。LINE WORKSは現場での評価も高い。ピリピリした雰囲気の中でも、顔マークでリアクションを取るのを見ると和やかになります。

 もう一つ、現場で喜ばれるのが落とし物探しだ。現場では落とし物がよくあり、探したり、問い合わせをしたりするだけでとても手間がかかります。現場事務所の担当者がLINE WORKSで『届いています!』と通知することで、その手間をだいぶ省けます。LINE WORKSが多くの人が働く現場の生産性を上げることにつながっています」(田中氏)

 田中氏は最後にLINE WORKSを使ったドローン会社との連携について紹介した。大成建設はドローン会社と防災協定を結び、BCP訓練(事業継続計画に基づく訓練)の中でドローンを飛ばし、リアルタイムで映像を本社や支店で確認するプロセスを設定している。2024年1月に起こった能登半島地震においてもドローンは活躍した。

 また、建物の維持管理をするメンテナンスチームは、建物の破損状況などを確認する際にもドローンを使用するが、ドローン会社とのコミュニケーションにもLINE WORKSを活用している。同社はこのようにLINE WORKSを介して協力会社と連携する取り組みを「仕組み化」して採り入れる活動を推進している。

 これに対してネクストフィールドの科部氏は、「非日常的な災害が起こった時にだけアプリを使おうとしても、使いこなせないことが多い。平時から使っているツールを有事にも使うというのは、非常に有効な手段といえます」と評価した。

 「情報共有は大切ですが、確認するチャットが増えてうっとうしい側面もある。それでもせざるを得ないのが現実です。どうせ情報共有するなら誰もが使いやすい環境を整えるのが一番です。LINE WORKSは、情報共有のスピードと質を向上させるために効果があります。それが業務の時短につながり、効率化につながって、さらに社内と社外をつないでいく。それがシナジーを生み、イノベーションを生み出していくのではないかと感じています」(田中氏)

ネクストフィールド 科部元浩氏

本記事は、LINE WORKS株式会社が2024年5月28日に開催した「LINE WORKS DAY 24」の内容を編集部で再構成した。

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