日本特殊陶業は、ノーコード/ローコードアプリ開発ツール「AppSheet」を使って業務プロセスの変革や人材育成を効果的に進めている。AppSheetの全社展開の軌跡、人材育成施策を紹介した。
日本特殊陶業は、ノーコード/ローコードアプリ開発ツール「AppSheet」を使って業務プロセスの変革や人材育成を効果的に進めている。同社では、現場の従業員を中心にアプリ開発リーダーを育成しており、その人材の中には1年で350以上ものアプリを開発した人もいるという。
2024年8月1〜2日に開催された「Google Cloud Next Tokyo '24」のに日本特殊陶業(Niterra)の上村正一氏(グローバル戦略本部 DX戦略室)、河尻史和氏(HRCC人材開発部)、黒木義博氏(ITSC統括管理部)が登壇。日本特殊陶業のデジタル戦略の方向性、AppSheetの全社展開の軌跡、人材育成施策を紹介した。
日本特殊陶業は1936年の設立以降セラミック関連商品をグローバルに展開し、現在はスパークプラグや酸素センサーにおいて世界で高いシェアを誇っている。2023年4月からはNiterraグループを発足させた。
上村正一氏は、同社のデジタル施策について次のように説明する。
「『延長線上にない変化の実現』を掲げて活動しています。ITインフラの整備と人材育成に取り組み、オペレーションと事業の変革をしています。それらを早期に実現するために、Googleのソリューションを活用しています」(上村氏)
同社では電子メールやチャット、文書作成などで「Google Workspace」を、各種業務システムで「Google Cloud」を採用する他、ゼロトラストセキュリティのための各種セキュリティツールや認証ツールもGoogle製品で統一している。その中で、業務プロセスの変革や人材育成で効果を発揮しているのがノーコード開発プラットフォームの「AppSheet」だ。
上村氏は、AppSheetを採用した背景をこう説明する。
「業務の現場にはたくさんのアイデアや困り事があります。システム開発のためのリソースには限りがあるので、これまでは開発の順番待ちや費用が理由で対応を諦めてしまうケースもありました。そこで現場が自らアイデアの実現や困りごとの解決をして、機動力を向上させようと考えました。一方、システム開発側では、優先課題にリソースを集中することを目指しました」(上村氏)
市民開発者としては、普段から表計算ソフトで関数の操作に慣れているユーザーを選定した。さらに、市民開発の目的を「間接業務の生産性向上」に据えて、より付加価値の高い作業の比率を上げることを目指した。
「“顧客からお金をもらえない業務”を徹底的に排除することとし、その情報を共有するための環境を整備しました。推進体制としては、運営事務局の設置やグループポリシーの設定、社給スマホでの利用設定などを実施しました」(上村氏)
このようにプロジェクトを徐々に軌道に乗せ、2023年4月から教育プログラムを始動し、2023年12月には共通業務アプリの利用を開始した。活動の展開に伴って利用者も増加したという。
人材教育のための「教育プログラム」については河尻史和氏が説明した。社内の教育体制は、DX戦略室と人材開発部で部門横断のプロジェクトを組み、会社のDX戦略と現場のニーズを融合できるようにしたという。
「DX推進ビジョンでは、オペレーション変革と事業変革を支える人材を育成することが重点施策の一つです。『構築したITインフラを活用するのも変革を起こすのも人材』。そのような考えの下、全社ITリテラシーの底上げとコア人材の育成を目指しました」(河尻氏)
コア人材は、DXのDを担うデジタル人材と、Xを担うトランスフォーメーション人材と定めた。人材像を2つにわけることで効率的に育成する狙いがある。
「これらの人材育成にあたっては、As-Is、To-Beのフレームワークを使ってギャップを把握し、的確な育成施策を打つという方針があります。まず短期戦略として、全社のITリテラシー向上のための基礎教育を実施してきました。現在は、デジタルでの業務改善の担い手となる、デジタル人材の育成に注力しています」(河尻氏)
デジタル人材の育成にあたっては、現場のヒアリングを徹底した。部門内に業務のムダがたくさんあること、ITツールを使った業務改善事例を増やしたい声が多いことが分かった。
デジタル人材育成の一角を担うAppSheetのスキル習得教育については、現在「アプリ開発リーダー研修」「ハンズオン、ハッカソン」「開発事例共有イベント」の3つのプログラムを運営している。
「主軸となるのは実践編として設置しているアプリ開発リーダー研修です。受講生を各部門から選抜して、約4カ月をかけてアプリ開発を通してAppSheetの基礎知識や応用スキルを身に付けてもらいます。研修は、各部署にアプリ開発リーダーを均等に配置するために繰り返し開講しています。現在3サイクルを実施して、修了生は50人を超えました」(河尻氏)
教育プログラムは“自前、自走”にこだわっており、「柔軟な企画」「説得力」「サポートの充実」「コスト削減」が可能になるという。
「社内ニーズや社内事情、受講生の反応をすぐにプログラムに反映しやすく、当社にフィットした教育プログラムを企画できます。また、非IT部門の人事部門が率先してAppSheetを活用する姿を見せることで、現場でも使いこなせるという説得力が増します。受講生にとっては、講師が同じ会社の人間であるため質問しやすく、社内事情を理解した上でサポートできます。社外講師に依頼することと比べて、企画費用や実施までのリードタイムも短いのが特徴です」(河尻氏)
アプリ開発リーダー研修を通して、全社展開が見込めるアプリや高い費用対効果が見込めるアプリが開発された。受講生の上司や職場からも反響が大きく、開講するたびに参加希望が増えているという。修了したリーダーは後進育成や開発支援に積極的な姿勢を見せている。入門レベルのハンズオンでも、満足度アンケートで10点中8点以上が74%と好評だ。
アプリ開発リーダー研修に参加した黒木氏は「自部門によるデジタル化の推進を図れた」と振り返る。
「管理業務フローの改善や効率化を自分たちでできるという自身がつきました。まずは、業務改善の企画を提案し、アプリをアジャイル開発して、メンバーからフィードバックをもらい、アプリの改修、最適化を経て完成度を上げました」(黒木氏)
黒木氏は、AppSheetを利用し始めて1年半で約350のアプリを作成した。その1つが「業務工数報告アプリ」だ。AppSheetや「Looker Studio」を組み合わせて、従業員の業務内容と実績工数を可視化するもので、メンバーや上司が業務負荷などを管理報告できるようにした。各種業務のアプリ化を推進することで、管理業務時間を年間400時間削減したという。
他部門でもさまざまアプリが開発されている。製造部門での「棚卸し管理アプリ」、研究部門での「固定資産棚卸し作業効率化アプリ」、試作部門での「生産履歴書アプリ」などがある。
「自部門によるデジタル化の推進が起爆剤となって、Nittera全体のデジタル化の推進につながりつつあります」(黒木氏)
今後の取り組みとしては「過去の呪縛からの解放」を目指し、紙の時代に設定されたプロセスや業務のやり方を見直すという。
「クラウドサービスやモバイル端末の利用など、新しいテクノロジーを使った業務スタイルが広まっています。今こそプロセスごと見直すチャンスと捉え、これからどんな変化が起きるかワクワクしながら活動を進めています。周知・共創領域拡大のきっかけをつくるために『Niterra DX社内コンテスト』も開催しています」(上村氏)
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