Power AppsとPower Automate、Power Automate Desktop、Power BIで構成されるPower Platform。ノーコード/ローコード開発ツールやBI、自動化ツールなど、業務効率化に寄与するツール群だが、中堅・中小企業で利用が進まない原因はどこにあるのか。
中堅・中小企業が導入する業務システムにはERPや会計、販売、人事給与など企業単位で利用するものもあれば、スプレッドシートや文書作成など個人単位で利用するものもある。中堅・中小企業で生産性向上を図るには、両者の中間に位置する業務システムの活用を進めることが重要だ。
Microsoftが提供する「Microsoft Power Platform」(以下、Power Platform)はその役割を果たすツールの一つだ。Power Platformに含まれる4つのツールを対象に、ノークリサーチは中堅・中小企業における活用状況を分析し、今後の展望を考察した。
ノークリサーチは「Microsoft Power Apps」と「Microsoft Power Automate」「Microsoft Power Automate Desktop」「Microsoft Power BI」における導入および導入予定の割合を調査した。図1は、年商500億円未満の中堅・中小企業に絞った各アプリケーションの導入割合を示したグラフだ。
ノーコード/ローコード開発ツールやRPA、BIツールの分野では中堅・中小企業で広く導入されている製品やサービスは幾つかあり、Power Platformを構成する4ツールの導入割合は1割未満にとどまる。
導入済みと導入予定の値を比較すると、今後の伸びが期待されるツールも見られる。また、コラボレーション(グループウェア、ビジネスチャット、Web会議)の分野では、「Microsoft 365」が中堅・中小企業においても高いシェアを占めている。
中堅・中小企業がノーコード/ローコード開発ツールを必要とするシーンや活用用途は何か。図2は、選択肢の中から「簡易な業務ツールの作成」「クラウドサービス間の連携」を選択した割合と、Power AppsとPower Automateの導入割合をクロス集計した結果だ。
「簡易な業務ツールの作成」を選択した割合は、Power AppsとPowerAutomateのいずれの導入企業においても高い値を示している。既存パッケージではカバーしづらい隙間業務を埋める役割を果たしていることが分かる。一方、「クラウドサービス間の連携」を選択した割合は、Power Appsと比較してPower Automate導入企業の方が低い。双方の特性を考えると反対の結果となった。中堅・中小企業では適材適所のツール活用がまだ浸透していないと推察できる。
図3はノーコード/ローコード開発ツールの活用方針を問う選択肢のうち「まずは既存システム自体の改善を検討する」「IT企業の支援を受けてツールを活用する」と選択した割合とPower Appsの導入割合をクロス集計して比較したものだ。ユーザー企業は無計画にPower Appsを適用しているのではなく、まずは既存システムの改善で対応できるかどうかを検討した後にIT企業の支援を生かす姿勢を示していることが分かる。
中堅・中小企業がPower AppsとPower Automateを適材適所で活用できるかどうかはSIerなどのIT企業の支援がカギを握っている。こうしたツールの活用は既存パッケージやIT企業の存在を脅かすものではなく、それらを活性化する役割も果たしていると考えられる。
次に、RPAを適用する場面や用途についてだ。図4は選択肢のうち「データの転記や照合に関する項目」を選択した割合をPower Automate Desktopの導入割合とクロス集計して比較したものだ。
Power Automate Desktopの導入企業では「書式が定まった紙面の転記/照合」の値が高い。つまり、RPAによる自動化の対象となる業務は多岐にわたるが、Power Automate Desktopはその中でも定型的や初歩的な用途での活用が多いことが分かる。
Power Automate Desktopの適用範囲を拡大したいと考えた場合に、IT企業はどのような点に留意すべきだろうか。そのヒントの一つが右記の一覧と以下のグラフだ。RPA活用の課題は何か尋ね、その中から「他システムとの連携が困難または複雑だ」「ツールの機能が豊富であるため使いこなせない」を選択した割合とPower Automate Desktopの導入割合をクロス集計し、比較したものだ。Power Automate Desktopでは「他システムとの連携」や「機能の使いこなし」が課題であることが分かる。
Power Platformがクラウドに軸足を置いたツールということもあり、他のRPAツールと比べるとPower Automate Desktopにおける既存システム(特にオンプレミス)との連携機能は特段充実しているわけではない。一方、自動化のアクションは400以上であり、逆にそれが使いこなすハードルとなっていると考えられる。
Power AppsとPower Automate、Power Automate Desktopは開発ツールとしての認識が強く、Power BIはPower Platformの中でもユーザー企業が自力で使いこなしやすいツールと言える。
BIツール導入企業に対して導入済みのBI製品やサービスに関する評価を尋ねた。以下のグラフは選択肢の中から「既存の業務システムに組み込んだ形で利用できる」「従業員のPC内のデータも分析対象に含められる」の回答割合とPower BIの導入割合をクロス集計して比較したものだ。
Power BIでは分析結果を「Power BI Service」経由で「Microsoft Sharepoint」や「Microsoft Teams」の中で参照できる。さらに「Power BI Embedded」を使えばさらに広範な業務システムに分析結果を組み込むことも可能だ。また「Power BI Desktop」はPCのローカルで動作するため、PC内に保存されたデータの分析もしやすい。このような特徴が上記の評価となって現れたと推察できる。
一方で、課題もある。調査レポートではBI活用における課題についても20項目超の選択肢を列挙して、詳細に集計、分析した。以下のグラフは、選択肢の中から「どのような分析手法を用いれば良いか判断できない」「多種多様な帳票やグラフが乱立して統一性がない」を選択した割合とPower BIの導入割合をクロス集計して比較したものだ。
ITスキルに悩む中堅・中小企業にとっては、データに応じた分析手法の選択がツール活用の障壁となりやすい。また、個人が手軽に利用できることは大きな利点だが、副作用として分析のアウトプットに統一性が損なわれるという弊害もある。こうした課題は中堅・中小向けBI市場全体に共通している。Power BI導入企業では比較的顕著であることがグラフから確認できる。
IT企業は「Power BI導入を訴求したい場合」と「Power BIと競合関係にあるBIツールを訴求したい場合」のいずれにおいても、これらの課題の解決に注力することが重要となる。
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