6割以上の企業がデータ活用に積極的な姿勢を示す今、その目的がどれだけ達成できているかを測定することが重要になる。各社はどんな目的を持ち、どのように効果を測っているのか。
環境変化の激しい昨今のビジネス市場において、データドリブン経営やデータ活用組織への転換、デジタルトランスフォーメーション(DX)に積極的に取り組む企業も増えてきた。一方、ガートナージャパンが2024年1月に発表した「日本企業におけるデータ活用に関する調査結果」 によると「データ利活用に対する日本企業の関心は依然として高いものの、全社的に成果を得ている割合は3%程度で、前回の調査(2022年7月実施)時の2.2%から、あまり変化していない」という。
そこでキーマンズネットでは「データ活用の現状とBIツールの利用状況に関するアンケート(実施期間:2024年8月1日〜16日、回答件数:185件)」を実施した。前編となる本稿では、企業におけるデータ活用の現状を紹介する。
はじめに、勤務先におけるデータ活用への意欲を聞いたところ「データ活用にやや積極的」(36.8%)と「データ活用に積極的」(28.1%)で合計64.9%が積極的であると回答した(図1-1)。この結果を企業規模別で見ると、1001人を超える大企業では8割が「積極的」と回答した一方で、100人以下の中小企業では41.2%と半減しており、従業員規模によって温度差がある。
ビジネスと同様にデータ活用も目標設定と、それを果たせたかどうかを図る評価指標が重要だ。データ活用を進める企業は目的をどこに置き、成果をどのような指標で評価しているのだろうか。
データ活用の目的は「商品やサービス品質の向上」(37.3%)、「事業戦略の策定」(36.8%)、「売り上げ分析」(29.7%)、「顧客および市場調査、分析」(28.6%)、「経営の意思決定」(25.9%)が上位に挙がる(図1-2)。データやデジタル技術を活用し、顧客ニーズの変化を適切に捉えること、製品やサービス、事業モデルを変革するために意思決定スピードを高めることを目的に掲げる企業が多い。また「人事配置の最適化」(17.8%)や「コストセンターの可視化」(8.1%)といった、業務プロセスや組織体制、文化・風土の変革にデータ活用を試みるケースも少なくないようだ。
取り組み企業に成果指標を聞いたところ「収益、利益」(38.9%)、「削減できたコスト」(34.1%)、「削減できた時間」(27.0%)と続いた。
比較的測定しやすく“経営状況の可視化”に寄与する指標が上位に続く一方で、サービス品質や顧客満足度といった、顧客のインサイトからサービスに生かしていくための指標はそこまで重視されていない様子だ。「顧客および市場調査、分析」や「顧客分析」を目的に掲げていても、成果指標では「収益、利益」や「削減できたコスト」を上位に挙げている(図1-3)。
もちろん、サービスの品質改善や顧客要望に応えることが企業収益や利益に反映される構造になっているため、データ活用の成果指標を「KGI」(Key Goal Indicator=重要目標達成指標)で見るか、「KPI」(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)で見るか、の違いが表れたとも言える。収益を上げる手立ての一つが品質向上や市場調査であり、データ活用はそれを狙うものだと考えられる。
いずれにせよ、データ活用に取り組むにあたっては成果を定期的に、できればリアルタイムにモニタリングし、常に目的と照らし合わせ改善を実行するための体制構築が重要になるだろう。
次に、企業で活用されているデータの具体例を見ていこう。よく活用されているのは「販売データ」(41.6%)や「受発注データ」(41.1%)で、前項の活用目的で上位に挙がっていた戦略策定や経営の意思決定に生かされているようだ(図2-1)。業種別で見ると、製造業を中心に「業務で利用する画像や動画データ」(29.3%)や「IoT機器などのログデータ」(23.8%)の活用割合が高く、流通・サービス業や放送・出版・インターネットメディア、代理店などB2Cをメイン顧客としている業種においては「顧客行動履歴(オンライン)」(13.5%)や「通話などの音声データ」(6.5%)、「GPSなどの位置データ」(5.4%)の活用割合が他業種と比べて高い傾向にあった。
また、自社業務データを自社用の生成AIの開発や運用に活用しているケースを調査したところ、「検索データベースとして活用している」(16.8%)と「学習データとして活用している」(9.2%)を合わせると26.0%となり、さらに「今は活用していないが、今後活用予定」(26.5%)を合わせると、過半数が活用に前向きであることが分かった。
現状は社内情報の検索機能と生成AIを組み合わせた「RAG」(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)として利用するケースが一般的で、活用データとクロス集計してみると「販売データ」や「受発注データ」「ログデータ」を活用する傾向にあるようだ。反対に学習データとしては「提携先企業の顧客データ」や「顧客行動離席(オンライン)」の活用割合が高く、生成AIへの業務データの活用は全体の3割が「今後活用予定」としているだけに今後の動向にも注目していきたい。
冒頭で全体の7割弱がデータ活用に積極的である現状を紹介したが、全ての企業は順風満帆に進められているわけではない。システム面や人材面で課題が浮き彫りになるケースも少なくないようだ。
まずシステム面では「データの保存、保管」(45.4%)や「システムやツールの活用」(39.5%)を課題とする声が挙がった(図3-1)。特に従業員規模が大きくなると、デジタル化した電子データの保存方法や保管場所をどのように設計するかが課題になるようだ。改正電子帳簿保存法などの法対応も考慮した環境構築が必須となることで、システムやツール選定に頭を抱えるケースも少なくないのだろう。また今後、生成AIなどへデータ活用範囲が広がるにつれて「個人情報の仕組み」(22.2%)や「データガバナンスやコンプライアンス対策の整備」(20.0%)といった課題に直面する企業も増えると予測される。
人材面では「分析ツールを利用するためのスキルが不足している」(58.9%)や「社内のデータ活用ツールを扱える人材がいない」(42.2%)といった、スキルや人材の不足を課題に挙げる企業が多い(図3-2)。DXが推進される昨今においては、即戦力となる高スキル人材の採用に苦戦しているのが実情だろう。しかしながら企業としては諦めるのではなく、今こそデータ活用体制の構築に本腰を入れると覚悟を決め、激しいビジネス環境の変化に対応するために従業員教育や育成への投資を検討する必要があるのはないだろうか。
以上、前編では企業におけるデータ活用の現状を紹介した。後編では、企業におけるBIツールの利用実態を取り上げる。
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