コンテンツマーケティングは時代とともに変化してきた。生成AIはそれをさらに変革するだろう。本記事では、マーケティング担当者の仕事を例に、AIに代替されるのではなく、AIをうまく利用するために、どのように技術と向き合えばよいのかを探る。
生成AIに注目が集まってから、AIが人間の仕事を奪うのではないかというテーマがいよいよ信ぴょう性を増したと思う人もいるだろう。生成AIがマーケティング担当者の仕事を奪うことはないだろうが、当面は業務を難しくする可能性がある。AIに代替されるのではなく、AIをうまく利用するために、どのように技術と向き合えばよいのか。
多くのAIベンダーは、このテクノロジーによってマーケティング担当者のワークフローを合理化し、効率を向上させられると宣伝している。しかし、AIの進歩はマーケティングを難しくしている。マーケティング担当者がAIを使ってコンテンツを作ったとしても、「Google」や「Bing」のような検索エンジンは、検索結果を表示するページの上部にAIによる概要を記載している。この概要の記載があることで、ユーザーは記事をクリックせずに疑問に対する回答を得られるため、マーケティング担当者が作成したコンテンツを見込み客が閲覧する機会がなくなるのだ。
ボストンで開催されたカンファレンス「HubSpotのInbound 2024」のプレゼンターや参加者にとって、このようなAIの二面性は最大の関心事だった。多くのプレゼンターはAIの能力に自信を示したが、一部の参加者は納得していなかった。
医療コンサルティング企業でグラフィックおよびマーケティングを担当するパトリシア・マクラフリン氏(シニアマネジャー)は、インタビューに対して次のように述べた。
「完全に納得しているわけではないが、AIを無視できないと考えている。何年か前にインターネットを無視できなかったのと同じだ。インターネットもAIもなくなることはないだろう」
ChatGPTは、AIが生成するコンテンツの代名詞のようなものだ。ユーザーがツールに文章の作成を依頼すると、それに基づいてテキストコンテンツが生成される。これは多くのマーケティング担当者の中に、AIに対する恐怖を引き起こした。コンテンツの生成をAIが代行するのであれば、マーケティング担当者の仕事がなくなるのではないかという懸念である。
グラフィックデザインプラットフォームであるCanvaのキャメロン・アダムス氏(共同設立者兼最高製品責任者)によると、そのような結果になる可能性は低いという。Inboundのセッション「AIで人間の創造性を進化させる」において、アダムス氏は、いかなるAIの出力に対しても人間が手を加える必要があると説明した。AIは、マーケティング担当者がアイデアを出したり、新しいキャンペーンのストーリーボードを作成したり、マルチメディアを作成したりするのを支援するが、最終的な決定は常に人間が行う。
自動車関連の人材紹介企業でマーケティングを担当するロクサンヌ・ドック氏(バイスプレジデント)にとって、AIの主な活用方法はアイデア出しだ。同氏はChatGPTのβユーザーである。同氏は、同ツールをキーワードの発見やキーワードを使ったコンテンツの最適化などの検索エンジン最適化(SEO)に関する業務に数年間にわたって使用してきた(注4)。
ドック氏は、インタビューにおいて次のように述べている。
「AIは素晴らしいアシスタントだと思っている。創造性を刺激するのに役立つ一方で、人間らしさや感情、知識を補う必要がある」
具体的には、ドック氏は既存のコンテンツを再利用するためにAIツールを活用している。同氏は記事の全文をChatGPTに入力し、それに基づいてソーシャルメディアへの投稿や要約、新しいコンテンツを生成し、記事を補完する形で利用している。
検索エンジンによる検索結果が表示されるページ(SERP)が、ユーザーのクエリに対応する上位記事に基づいてAIによる情報の概要を提供する場合であっても、そこに独自の画像が含まれたり、生成されたりすることはほとんどない。図表やグラフィック、動画、その他のマルチメディアは、マーケティング担当者がSERPにおいてユーザーの目を引くために役立つ。しかし、マクラフリン氏やドック氏が所属するような小規模なマーケティングチームには、デザイナーがいない場合もある。
そのような場合にAIが活躍する。適切かつ倫理にのっとって作成された場合、AIが生成したアートはマーケティング担当者の助けとなる。それらのアートは、ソーシャルメディアへの投稿や記事への添付に活用される。グラフィックデザインの経験がないマーケティング担当者には特に役立つだろう。
「限られた人数と時間で最大の効果を出すことができるのであれば、それは大きな成果だ」(マクラフリン氏)
OpenAIや「Dall-E」「Adobe Firefly」のようなAIを活用したアートツールは、これらの目的に役立つ。「Canva」は、ChatGPTのようなAIツールと統合して、ソーシャルメディアの投稿に合わせたグラフィックやテンプレートを提案している。しかし、これらのツールや統合機能はまだ初期段階にあり、数年後には今よりもさらに優れたものになるだろう。
最も注目されているAIの利点の1つは、ワークフローの自動化だ。しかし、マーケティング担当者は、その利点が日常業務にどのように影響するのかを理解するのに苦しむかもしれない。
ドック氏の場合、自動化はコンテンツのアイデア出しにとどまらない。さまざまな業務を日常的にこなす少人数チームの一員であるドック氏にとって、AIは承認プロセスにおける同僚とのコミュニケーションを円滑にする助けになっている。
「仮にXという出来事が起こった場合、Yに通知され、『Slack』でメッセージが届くため、リードが提供されたことを都度確認する必要がなくなる」(ドック氏)
このような自動化により、営業チームとマーケティングチームの連携が改善され(注7)、リードへの対応やプロジェクトの状況を更新するタイミングを全ての関係者に知らせることができる。
マーケティング担当者はAIツールをすでに業務に役立てることができる。一方、このテクノロジーはまだ新しいものであり、時間の経過とともに変化や改善が望まれる部分もある。現時点において、マーケティング担当者はAIに関して幾つかの課題に直面している。
コンテンツ制作者が生成AIに自分たちの仕事を奪われると恐れているのであれば、組織も同じように考える可能性がある。そのため、中小企業やスタートアップ企業などの一部の組織は、マーケティング担当者を雇用せず、AIを活用したコンテンツツールに投資するかもしれない。ドック氏は「このような選択は誤りである。正しく活用する方法を理解している人がいなければ、AIはうまく機能しない」と述べている。
AIはどんなツールと同様、使い方を理解している人にこそ最大の利益をもたらす。経験を持つ実際のマーケティング担当者のような専門家を代替するものではない。組織は、AIへの投資と人材への投資をバランスよく行い、ツールと従業員の両方から最大の成果を引き出す必要がある。
AIはコンテンツ作成に貢献する一方で、検索エンジン結果ページ(SERP)の上部に表示されるAI生成の概要の影響により、従来のコンテンツマーケティング戦略が過去ほどリードを生むことは少なくなっている。これらの概要は記事のクリック数を減少させる結果を招いている。Gartnerは、2026年までに従来の検索量が25%減少すると予測している。
SEOに主に依存してオーガニックトラフィックを獲得しているマーケティング担当者にとって、このニュースは厄介に思えるかもしれない。しかし、ドッチ氏はマルチチャネル戦略に投資しており、この戦略がこうした課題の影響を最小限に抑えると述べている。
「ただ適応するしかない。もっとクリエイティブにならなければならない。人々を引きつけるには、あらゆる場所に存在する必要がある。ただGoogleに専門家として選ばれるのを頼りにするのではなくね」(ドッチ氏)
マルチチャネル戦略は顧客エンゲージメントを向上させ、マーケティング担当者や営業担当者に対してオーディエンスに関するより多くの洞察を提供する。しかし、これらの戦略は多くの労力を要し、十分なサポートがなければ、小規模なコンテンツマーケティングチームでは対応が難しい場合がある。
生成AIはまだ成熟した市場ではなく、ベンダーが新しいツールを次々と開発しているため、この変化の激しい市場は企業にとって負担となり得る。
「私たちのような小規模な企業にとって厄介なのは、新しいAIツールが次々と登場する中で、どこに時間とリソースを投資すべきかを決めなければならない点だ」(ドッチ氏)
組織は1年間あるツールに投資した後、数カ月たってから別のツールの方が自社のニーズに合っていると気付く場合もある。予算が小さい、または柔軟性がない企業は、例えばMicrosoftの「Copilot」のようにBingで無料提供されているツールの無料版を使用する選択をすることもある。これは、有料サービスに投資しても自社のニーズを満たさない可能性を避けるためだ。
AIの使い方を理解していない場合、ユーザーは失望し、再びそのツールを使いたくなくなることがある。例えば、ユーザーがChatGPTに対して特定のトピックについてSEOのベストプラクティスに従ったブログ記事を作成するよう求めても、その結果が不十分だったり、AI生成の色が強すぎたりする可能性が高い。その後、ユーザーはツールを諦めるか、他のツールを試す意欲を失うかもしれない。
ドッチ氏はChatGPTを長年活用した経験から、AIツールに何ができて何ができないのかを把握しており、プロンプトエンジニアリングが重要な要素となっている。彼女はツールに対して幾つかの指示を与え、それがどこまで理解するかを確認することが多い。プロンプトを何度も修正し、最終的には最初の回答に戻って編集することが多い。それぞれの回答から必要な部分を抜き出し、目的に合う結果を得るまで作業を繰り返す。
全体として、他の新しい技術と同様、ユーザーは新しい戦略やベストプラクティスに適応する必要がある。AIもまた、コンテンツマーケティングにおけるその完全な効果が明らかになるまで成熟に時間を要する。
「AIはそのレベルに達する必要があると思。データが増え、より視覚的なものになれば、人々がもっと使うようになり、AIは改善していくだろう。ただ現時点では、AIの評価はまだ定まっていないと思う」(マクラフリン氏)
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