情シスはITインフラを支える重要な役割を担いますが、経営層からは必要以上にコスト削減を求められがちです。適切なIT投資を怠ると、セキュリティリスクや業務効率の低下を招く恐れがあります。本記事では予算確保の課題と対策を解説します。
「IT百物語蒐集家」としてITかいわいについてnoteを更新する久松氏が、情シス部長を2社で担当した経験を基に、情シスに関する由無し事を言語化します。
情シスは企業のITインフラやセキュリティを支える重要な役割を担っています。しかし毎年の予算策定時には、経営層から「そんなに必要なのか?」「ITコストをもっと削減できないのか?」といった疑問を投げかけられることが多いでしょう。
システムが安定稼働していることが当然とされ、成果が目に見えにくいため、情シスの活動は過小評価されがちです。また、経営層の中にはITへの理解が乏しく、IT予算をコストとしてしか認識しないケースも見られます。
しかし、適切なIT投資をしなければ、セキュリティリスクの増大や業務効率の低下、競争力の低下など、企業にとって致命的な問題を引き起こしかねません。本記事では、情シスが直面する予算確保の課題と、それに対抗するための戦略について詳しくお話していきます。
IT予算の構成要素は3つに分類されます。まず、自社のIT投資がどのような役割を持っているのか確認してみましょう。
ITシステムは導入して終わりではなく、継続的な運用と保守が必要です。具体的には以下のような費用が発生します。
これらの費用は企業の規模が大きくなるほど増加し、削減が難しい分野でもあります。
近年、サイバー攻撃の高度化が進み、情報漏えいやランサムウェア被害が深刻化しています。情シスが適切なセキュリティ対策を実施しなければ、企業の信用が損なわれるだけでなく、法的責任を問われることもあります。
「セキュリティ対策は経営に直接貢献しない」と考える人はいますが、万が一の被害を防ぐためには不可欠な投資です。
ITの導入はコスト削減だけでなく、業務の生産性向上にも貢献します。特に近年はDXへの取り組みが促進されており、多くの企業がRPAやAIなどの活用を進めています。
これらの投資は短期的にはコスト増となりますが、中長期的には企業の競争力を高める効果があります。
予算獲得のためには戦略的に行動する必要があります。具体的な処世術を5つ紹介します。
SMB(中堅・中小企業)において、ある日突然、数百万円や数千万円の見積もりを経営層に持っていっても稟議は通らないでしょう。正式な稟議の前に上長、経営層に対して根回しをする必要があります。
過去の私の在籍企業で、経営層が皆喫煙者という状況がありました。根回しのうまい上長は喫煙部屋で経営層に対して「どのくらいの予算がほしいか」「いつであれば申請してもよいか」といったタイミングを図っていました。令和だとイメージしにくいシチュエーションではありますが、こうした根回しは喫煙部屋でなくても必要だと感じています。
私も自社で営業を仕掛ける際、いきなり見積もりを出すようなシチュエーションはありません。見積もりを出した方が合理的に見えるかも知れませんが、商品の必要性を段階的に感じてもらわないと受注には至りません。オンラインで数回接触し、契約開始前に営業の位置付けでオフライン訪問をし、時には会食やランチの機会を持つようにしています。
IT予算についても畑違いの経営層であれば理解しにくいものです。少しずつ重要性を理解してもらい、金額の妥当性を分かってもらうような働きかけをしましょう。
期末などは予算消化のタイミングが訪れ、そこで自社に余裕があればチャンスです。前述した根回しと合わせて、スムーズに承認してもらえるように経理スケジュールを見ながら対応しましょう。
経営層は感覚ではなく「数値」でものごとを判断する傾向が強いです。IT投資が企業の収益やリスク低減にどう貢献するのか、定量的なデータを使って説明することが重要です。
IT予算を確保するためには、ただ純増させるだけでなく、不要なコストを削減する努力を見せることも重要です。例えば、使用されていないSaaSの解約や、クラウドリソースの最適化、外注費用の削減などが挙げられます。
大規模なIT投資は経営層の承認を得にくいですが、PoCを実施し、小規模な成功事例を示すことで納得を得やすくなります。MVP(最小限の機能での導入)を活用することで、リスクを抑えながら段階的に投資を拡大する方法も有効です。
IT投資への理解が乏しい経営層から「そんなに必要なのか?」と言われることもあるでしょう。その際、効果的に反論するための方法をお伝えします。
「ITコストを削減したい」という経営層の意向は理解できますが、その結果として将来的に発生し得るリスクを考慮する必要があります。
記憶に新しいところではKADOKAWAのサイバー攻撃の事例があります。ランサムウェア攻撃により、20億円の特別損失が計上されました。サイバー攻撃からグループポータルサイトが復活するまでは約4カ月半かかりました。
他社事例を見ることによって投資の意思決定をするタイプの経営層であれば、想定される攻撃や被害のシナリオを想定して列挙することが有効でしょう。
IT投資は単なるコストではなく、業務効率化や競争力強化につながる投資であることを示す必要があります。例えば、RPAを導入することで年間数千時間の工数削減が可能になれば、その分の人件費を別の業務に振り向けることができます。
特に派遣社員やBPOがこなしている業務を自動化するようなもののインパクトを試算することは有用です。削減される時間に彼ら彼女らの時給を掛け合わせ、開発工数や運用コストを比較すればプレゼンテーションは効果的です。
「他社と比べてうちはどうなのか?」という視点は、経営層の説得材料として有効です。競争力のある企業はどのようなIT投資をしているのか、同業他社の事例を示すことで説得力が増します。
IT予算は単なるコストではなく、企業の持続的な成長と競争力を支える重要な投資です。経営層を説得するためには、定量的なデータを活用し、リスクとリターンを明確に伝えたりすることが不可欠です。適切な戦略を立て、企業全体の利益につながるIT投資を実現しましょう。
エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経て、ネットマーケティングで情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。
2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナーなども開催する。
Twitter : @makaibito
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