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スクラッチ開発事業者が推薦するノーコード開発ツール選定時の要件とは?

ITの専門知識がない事業部門のユーザーでも業務アプリケーションを開発できるとして近年注目を集めるノーコード開発ツールだが、主なユーザーである現場が使いやすいツールとはどのようなものか。スクラッチ事業者として長年企業のシステム開発を支援してきた企業が、ノーコード開発ツール選定時の要件を紹介した。

» 2025年04月07日 09時56分 公開
[平 行男合同会社スクライブ]

 ノーコード開発ツールは、ITの専門知識を持たない従業員でも業務アプリケーションを構築できる手段として、近年注目を集めている。

 現在、多くのベンダーがさまざまなノーコード開発ツールを提供しており、プログラミングを必要とせず、GUI操作で簡単に「作りたいものを実現できる」とうたう製品も多い。一方で、実際に導入してみると「習得に時間がかかる」「Excelなどで柔軟に実現していた複雑な要件を実現できない」といった声が聞かれる場合もある。では、現場にとって「本当に使いやすいツール」とは、どのようなものなのか。

 A-ZiP 技術開拓部 販促課の藤井春菜氏と、日本マイクロソフト パートナー事業本部の大橋巧貴氏が、ノーコード開発ツールがもたらす組織変革の可能性、そしてA-ZiPが展開する「SAAP」について語った。

ノーコード開発ツールが求められる本当の理由

 企業が直面する人手不足問題は、複雑な階層構造を持つ。その根底には少子高齢化による労働人口の減少があり、それに起因するさまざまな課題が存在する。採用難や人材の流出、ベテラン社員の退職に若手人材の不足、IT人材の確保困難など、企業共通の課題が山積している。

 これらの人手不足は、現場の業務負担をさらに重くする。従業員は本来のコア業務に加え、データ入力、転記作業、情報共有といったノンコア業務にも多くの時間を割かれている。DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性は日々高まっているが、情報システム部門は基幹系システムやインフラの保守、各種法対応に追われ、業務効率化のためのDX推進に十分なリソースを割けない状況だ。

 さらに、DXを目的に導入した業務システムが、現場の実務にうまく適合せず、かえって非効率を招いてしまうケースも少なくない。その結果、解決すべき業務課題は減るどころか、むしろ増えてしまっているのが実情だ。

 このような背景から、多くの企業では、老朽化したExcelやAccessベースの業務システムからの脱却、既存パッケージに依存しない柔軟な業務システムの構築、そして現有メンバーによるDXの推進といった、より実態に即したアプローチが求められている。

 こうした課題に対する有効な手段として注目されているのが、ノーコードツールを活用したシステムの内製化だ。

 その効果は多岐にわたる。第一に、自社の業務を最も理解している現場社員自身がシステムを構築できるようになる。これにより、システムと業務のミスマッチを防ぎ、情報システム部門への依存度も低減できる。また、従業員のITスキル向上というリスキリング効果も期待できる。

 第二に、パッケージシステムに頼らないことで、会社独自の業務プロセスやこだわりをそのままシステムに反映できる。これにより、システムに関連する間接業務の効率化を現場主導で進められる。

 さらに自社開発が一般化することで、DXは特定部門だけでなく全従業員の課題となり、人手不足に組織全体で取り組める環境が整う。結果として業務効率の向上は従業員の定着率改善にも寄与する。

クラウド環境で短期間にシステムを構築できる「SAAP」

 スクラッチ開発の技術を標準化したノーコードツール「SAAP(サープ)」は、データ入力や情報共有といったノンコア業務の自動化を可能にし、貴重な人的リソースをコア業務に集中させられる。IT部門に依存せず、現場主導でデジタル化を推進できる点が、大きな特徴だ。

 SAAPは業務システムを簡単に作成できるノーコード開発ツールだとA-ZiPの藤井氏は説明する。

 「現在、市場には多くのノーコード開発ツールが存在しますが、業務システムに特化したものは多くありません。なかでもSAAPは、『Microsoft Access』を利用してクラウド業務システムを作成できる点が、他のツールと異なる点です」

 SAAPの強みは3つある。一つ目は、直感的で単純な画面設計だ。アプリケーションの作成や利用のための操作が簡単だと藤井氏は話す。

 SAAPの画面は、Accessのテーブル定義のようにシンプルで分かりやすく、明細設定やデータ連携も簡単にできる。パラメータを設定し、アプリケーションを作成するだけで、PC用のフォーム、モバイル用のWeb画面、そしてMicrosoft Azureのデータベースが完成する。ユーザーの入力フォームはキーボード操作のみで完結するため、大量伝票の高速入力にも適している。

SAAPの強み(出典:A-ZiPの投影資料)

 2つ目は、業種や部門を問わず幅広く使えることだ。SAAPは、営業や経理、倉庫管理、社内管理、スケジュール管理など、非常に多岐にわたる業務に対応しているという。営業部門では、営業支援システムとして顧客訪問記録を管理できる。これにより、営業担当者は顧客との接触履歴を一元管理し、効果的な営業活動を展開することが可能となる。見積もりや受発注管理のプロセスを効率化でき、これらの業務を迅速かつ正確に実施できるようになる。

 また、配車やシフト、生産スケジュールなど、“スケジューラー型”の業務画面をノーコードで構築できる点も特徴の一つだ。SAAPでは、配送指示の入力や、売上・在庫・出荷予定などのデータをそのままスケジューラー上に表示・編集できるため、Excelなど従来のツールで実施されていた属人的な管理から脱却できる。時間軸に沿って「誰が・いつ・どこで・何をするか」といった情報を一元管理できるため、作業指示や進捗の可視化にも効果を発揮する。

 「配車スケジュールの管理や、シフト表、生産計画の可視化といった業務では、日付や時間軸とリソース(人・車・設備など)を交差させるカレンダー的UIが必要です。こうした現場特有のニーズに応えるため、スクラッチ開発を手掛けてきた当社が『自分たちが欲しかったツール』としてSAAPを開発しました」(藤井氏)

 さらに、SAAPは写真の撮影や手書きサインの入力など、モバイル端末を利用した機能も豊富に備えている。現場での作業報告や確認をリアルタイムで実施できるため、現場の意思決定が迅速になる。また、倉庫管理では、在庫のピッキング業務や入出庫管理など、多様な業務プロセスに対応しており、各会社の独自の業務フローに合わせたシステムを簡単に作成できる。

SAAPの強み(2)(出典:A-ZiPの投影資料)

 3つ目の強みは、伝票処理、データの集計、帳票の発行など、業務システムに必要な機能を多数搭載していることだ。これにより、企業の業務プロセスを一貫して管理し、効率化できる。

 伝票処理機能を利用すれば、迅速に受注や出荷、請求書を作成できるようになる、経理業務の負担が軽減される。データの集計機能を用いることで、売上や在庫の状況をリアルタイムで把握し、適切な経営判断を下すための基礎データを提供できる。

 セキュリティ機能としては、権限管理や排他制御を備えている。ユーザーごとにアクセス権限を設定することで、情報の流出や不正アクセスを防ぐことが可能だ。また、複数のユーザーが同時にアクセスした場合も、排他制御機能が働くため、データの整合性を保てる。

 データベースはMicrosoft Azureに構築されており、Microsoftのセキュリティ機能を利用できる。独自の暗号化通信技術を使用することで、大量データの送受信にも対応した。A-ZiPは、Microsoftが2012年に「Microsoft Azure」(以下、Azure)を発表した直後から、Azureを基盤とした業務システムの開発を支援、実施してきた。独自の暗号化通信技術は、長年のノウハウが生かされたポイントだ。

SAAPの強み(3)(出典:A-ZiPの投影資料)

SAAPを活用した「配車管理システム」の事例

 日本ケアサプライは、介護福祉用具レンタル卸業のリーディングカンパニーであり、従業員数約1300人を擁し、90の拠点を持つ。

 多拠点を抱える同社では、配車管理の課題に直面していた。頻繁に変更される配送スケジュールには、既存のパッケージシステムでは対応しきれず、ホワイトボードや手書きによる属人的な管理が行われていた。このアナログな管理方法は、作業効率の低下や情報の正確性の欠如を招くだけでなく、スケジュール共有に伴うセキュリティリスクも抱えていた。こうした課題に対応するには、柔軟かつ正確なスケジュール管理が可能なシステムが必要だった。

 そこで同社はSAAPをベースとした配車管理システムを構築することで、これらの課題を解決することに決めた。配送スケジュールは、ほぼリアルタイムでドライバーと共有可能となり、変更や追加情報もシステムを通じて即座に伝達できるようになった。従来の手作業による情報伝達の限界を、デジタル技術によって一気に解消した。

 スケジューラー機能に加え、スマートフォンでの配送完了報告アプリを作成できたことで、拠点ごとの進捗管理も大幅に効率化できた。ノーコード開発ツールを使うことで、業務プロセス全体の生産性向上を実現した事例と言える。

SAAP活用事例(出典:A-ZiPの投影資料)

ノーコード開発ツールの足回りを支える「Microsoft Azure」

 SAAPを支えるプラットフォームがMicrosoft Azureだ。

 多くの企業が抱える人手不足や物価高騰といった課題の解決策として、ITを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)やイノベーションが求められている。その手段として、従来のオンプレミス型システムとクラウド型システムの2つの選択肢がある。

 従来のオンプレミス型システムの利用では、ERPや業務システムを自社で運用するために、データセンターやサーバが必要だった。サーバにはアプリケーションやデータベース、ユーザー管理のためのアクティブディレクトリ、帳票、画像データを管理するためのファイルサーバが含まれることが多い。これらのシステムを運用するためには、初期費用や運用コストがかかる。

 一方で、クラウド型システムでは、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)を利用することで、物理的なサーバ、ストレージ、ネットワーク、仮想化、サーバOSの部分がプロバイダー管理となり、ユーザーの初期費用負担や運用負担が軽減される。

 クラウドはスケーラビリティや柔軟性が高く、繁忙期には高いスペックを利用し、閑散期には通常スペックに戻せる。また、従量課金制により、必要な時に必要なリソースを利用することでコストを最適化できる。

 大橋氏は、SAAPのようなノーコードツールにとってAzureが不可欠な理由を次のように説明する。「Microsoft Azureは、信頼性の高いクラウドサービスとして多くの企業に利用されています。グローバルな規模のインフラと多層防御のセキュリティ対策により、ノーコードツールの安定稼働と情報保護を実現します」

SAAPにおけるAzure利用の仕組み(出典:日本マイクロソフトの投影資料)

本稿は株式会社A-ZiP主催のWebセミナー「人手不足問題の解決をノーコードツールによる業務改善で実現 〜DXの主体は現場にあり! 現場が求める要件とクラウド活用のメリットとは?〜」の講演内容を基に編集部で再構成した。

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