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データもBIも散乱 WOWOWがデータ基盤を刷新して得られた4つの成果

WOWOWはデータのサイロ化とBIツールの乱立、データマネジメントの不備に悩まされていた。課題解決のためのデータ基盤刷新において同社が重視したポイントと刷新の成果とはどんなものだったのか。

» 2025年09月16日 09時00分 公開
[HubWorksキーマンズネット]

 放送や配信の分野で長年の実績があるWOWOWは、会員理解と新施策につなげるために視聴履歴やコンテンツの評価などのデータを活用してきた。一方、データ活用のスピードや柔軟性、信頼性に課題があるという。同社の稲垣幸俊氏(データマネジメント・ユニット ユニット長)は2025年8月開催のイベント「Google Cloud Next Tokyo」で、「事業を継続して成長させるためにはデータ活用に基づく取り組みが必要ですが、期待に十分に応えることのできない状況でした」と語った。

 WOWOWの課題は3つの要因に分解できる。第1に、複数のデータ基盤が存在し、格納されるデータの分散や重複が起こる、いわゆるサイロ化だ。第2にツールの乱立だ。BIツールが複数存在し、データ集計や分析作業が煩雑になっていた。第3にデータマネジメントの不備だ。ガバナンスを十分に効かせることができず時を経るごとに運用が煩雑になった。

 課題解決と事業の成長のため、WOWOWはデータ基盤の刷新をすることになった。

煩雑なデータ基盤の刷新 WOWOWが重視したのは?

 WOWOWは、データ基盤構築の実績が豊富なDataCurrentの支援を受けてデータ基盤の刷新に臨んだ。支援を受けた領域は、プロジェクト管理やデータ基盤構築、ユースケースの移行、データマネジメントの整備、トレーニングなど幅広い。

 プロジェクトは2024年8月に開始し、2025年6月に新しいデータ基盤の運用がスタートした。

 稲垣氏は、データ基盤の刷新において重視したポイントとして次の4つを挙げた。

 1つ目は、データ基盤の構築はゴールではなくスタートであるという点を徹底して意識することだ。全員で共通認識を持ち、ルールの整備と人の成長を欠かさずに優れたデータ基盤を活用する体制を整えた。

 「やることを詰め込み過ぎると全てが中途半端になる恐れもありました。そのためプロジェクトでは、ユースケースをもとに優先順位を定めて取り組むべき内容を精査した」(稲垣氏)

 2つ目は、データ活用そのものに集中できる仕組みの構築だ。刷新前のデータ基盤では、複雑さが要因となって運用保守に必要以上の工数とコストがかかっていた。そのため仕組みをシンプルにし、運用保守を効率化し、拡張性を向上させ、コストとリソースの最適化を図った。また、既存のユースケースの目的と内容を整理し、各ユースケースが効率的に使えるようにパイプラインやデータモデルを再設計した。

photo 統合でデータ活用に集中(「Google Cloud Next Tokyo」での投影資料、筆者撮影)

 「私たちが『Google Cloud』を採用したのは、システム側の自動調整機能が優れており、人手が必要な調整を最小化していたためです。ユーザーフレンドリーであり、データ活用において生成AIを導入しやすいプラットフォームだと感じました。またコストメリットも期待できました」(稲垣氏)

 3つ目は、生成AIの活用を想定した仕組み作りだ。データの品質管理やメタデータの整備、非構造データの段階的な取り込みなどが求められた。

 4つ目はガバナンスの観点だ。仕組みが変わっても人が変わらないと成果が変わらない。データ基盤を活用する従業員の意識や仕事の方法を変えることが求められる。WOWOWの場合、各部署の現場の従業員をプロジェクトに巻き込み、経営層への報告会を意図的に増やしたという。

 「ルールやプロセスを整理する際は、前例を機械的に踏襲するのではなく『あるべき論』を大切にした。その上で期待できる効果を丁寧に説明し、関係者の理解を得ていった」(稲垣氏)

photo アーキテクチャ(「Google Cloud Next Tokyo」での投影資料、筆者撮影)

統合がもたらした4つの効果

 稲垣氏によると、データ基盤を刷新したことにより4つの成果があったという。

 1つ目はデータ基盤のパフォーマンスの向上だ。データモデルやパイプラインを見直したことで、クエリ処理が遅延して朝の集計処理ができないという事態が発生しなくなったという。オートスケーリング機能で、重い処理が発生している環境でも業務を円滑に進められるようになった。

 セキュリティも向上した。WOWOWのデータ基盤刷新プロジェクトでは、Google Cloudのエコシステムの中から全てのソリューションを選定したためだ。機密データを扱う環境としては大きな成果だ。

 2つ目はコスト削減だ。今後、生成AIなどの使用頻度が高まることでコストも増大する可能性はあるものの、現時点では40%から50%のコスト削減ができているという。また、BIツールをLookerに集約したことで、関連するコストを半減させることもできた。

 3つ目は生成AIの活用だ。WOWOWではリリース文章の作成やアイデア出し、文章の要約などに生成AIを活用しているという。ただし、利用頻度は人により異なり、生成AIをほとんど使っていない従業員もいる。これらの従業員が生成AIを利用しないのは、具体的な効果をイメージできないためと考えられる。

 稲垣氏によると、データ基盤の刷新で、生成AIをより活用しやすくする環境が整ったという。データ活用にAIを導入する効果は分かりやすい。ダッシュボードを要約したり、特徴を抽出したりする際に生成AIが大きな効果を発揮するためだ。データ基盤の刷新に合わせてユースケースを整理し、生成AIの活用を具体的にイメージしやすくなったのも大きな成果だ。

 4つ目はデータマネジメントの健全化だ。これまでは使用するBIツールやデータ基盤が目的により異なり、一貫したトレーニング体系の整備が難しく、学習コストがかさんでいた。データとBIツールの集約により、データマネジメントに一貫性が生まれたのだ。その結果、ガバナンスの再構築もできた。こうした環境は、さらに高度化するビジネス環境に対応するために価値のある一歩だったという。

 「まだ人の手による調整が必要な施策も多いですが、これまでは得られなかったインサイトを得ることに成功しています。データ活用そのものに集中できる環境が整ったため、成果の増大を念頭に育成トレーニングや生成AIの導入を進めていきたいです」(稲垣氏)

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