メディア

サイボウズが語るDX戦略の最前線、2つの“厳しい現実”と今必要なデジタル人材とは

サイボウズ営業本部副本部長の石井氏が、内田洋行のビジネスITフェアで日本企業のDXの現状を語った。日本のDXを取り巻く2つの“厳しい現実”と、日本企業だからこそ必要なデジタル人材について述べた。

» 2025年11月13日 07時00分 公開
[南出浩史キーマンズネット]
サイボウズの石井優氏(出典:編集部撮影)

 内田洋行は10月24日、「UCHIDA ビジネスITフェア2025 in TOKYO」を開催した。会場で行われたセミナーの一つとして、サイボウズの石井優氏(営業本部副本部長 パートナー統括)が人材不足時代のDX戦略について解説した。

日本DXの“厳しい現実”、企業が直面するデジタル課題と現状

 石井氏は冒頭、日本のDXについて「デジタル敗戦国」「デジタル赤字」といったワードを挙げ、日本全体でDXが停滞している現状を語った。本来コスト低減をするはずが自治体の運用コストを数倍増となるガバメントクラウドを例としたほか、「デジタル赤字がもっと顕著で、ネット広告やライセンス、コンテンツの赤字が続くことで、外資系サービスを通じて海外に資金が流出する構造になっている。デジタル赤字は原油の輸入金額である約7兆円を超えて、2030年には12兆円の赤字になるという試算もある」と説明した。

 また、DXの説明として経済産業省「DXレポート2 中間とりまとめ(概要)」を引用し、「まずは『デジタイゼーション』としてプロセスのデジタル化から始め、最終的に目指すのがDXだ。本来のDXとは、価値創出を目的とした事業やビジネスモデルの変革にまで踏み込むものだが、紙をデジタル化するなど、現状は、せめて中間段階である『デジタライゼーション』まで推進していこうという段階にある」としたのち、DXを取り巻く2つの“厳しい現実”を提示した。

 1つ目として「社内にIT人材が少ない」ことを挙げた。情報処理推進機構(IPA)が発行する「IT人材白書 2017」のデータを引用し、「日本では、IT人材が主にIT企業に集中している。一般企業の中のIT人材というと、情報システム部門などが思い浮かぶと思うが、その多くは調達などの業務支援的な役割にとどまり、人数も限られている。一方、米国や英国などでは、一般企業の中にもIT人材が存在し、一体となってIT化を推進している。これは、年功序列の終身雇用形態の影響もある」とした。

(セミナー提供資料)

 続いて2つ目として「受託開発事業者に丸投げ」していることを挙げた。「アメリカと比較すると、日本では、パッケージシステムを導入するよりも、内製でシステムを開発する割合が高い。この要因はさまざまな説があるが、人材流動性の高さにあると考えられる。アメリカではジョブホップが一般的なため、個別事情を組み込んだシステムをそもそも入れないというのが定着しているのも背景にあるのではないか」「日本は年功序列や終身雇用といった雇用慣行が根強く残っており、会社独自の理由や事情を組み込むべきという価値観が強い。外部にも受託で丸投げするので、時間とお金はかかる一方、使いにくい場合や、現在のビジネススピードに対して合わない面がある。こういった、変化するビジネス環境に対してシステム対応が追い付いていない点が課題となっているのではないか」と説明した。

(セミナー提供資料)

 この2つの課題を説明した上で、「ではこの課題を解決するとして、IT人材を大量に採用し、育成して活躍の場を作れるかというと、人口減少の中で獲得競争が過熱している今、IT人材を獲得するハードルが高い。これが日本のDXの現状の課題ではないかと考える」とした。

 石井氏は続いて技術の進化について触れ、これを4つの時代に大きく分類してその流れを説明した。ホストとターミナル(入力端末)をつなぐ「メインフレーム時代」(〜1990年)、PCの急速な進化や複雑な分散構成が進んだ「クライアント サーバ時代」(〜2000年頃)、あらゆるフロントエンドとしてWebブラウザを使うことが一般化してきた「Webコンピューティング時代」(〜2010年頃)に続き、今現在は、スケールアウト(並列分散)やAPIエコノミー、集中構成、AI技術の発展による「クラウド・コンピューティング時代」とした上で、「大量処理分散でAPIによりさまざまなものをつなぐことや、AI技術の発展が、まさに現在の時代の中心に位置する時代に突入している。1990年以前のメインフレーム時代と比較すると、スマートフォンや音声アシスタント、生成AIなどが出現し、まさに未来的な世界だ。一方、企業や自治体のシステムでは、電子メールや表計算、外注して作った古い業務システムのように、20年以上進歩がない状態なのが現状」とし、ここも日本のDXの現状課題に直結しているところだと語った。

 中盤で石井氏は、企業のDX導入に付随する問題として「システムのサイロ化」があるとし、「HR領域やマーケティング領域などさまざまな領域ごとにSaaSサービスが台頭し、バーティカルSaaSといわれている。一方で、バーティカルごとに導入するため、システムがサイロ化されていくという課題がある。バーティカルサブスクリプションが乱立することによって、部門ごとのデータに国境が発生し、アカウントを持っていない人同士では情報共有ができないといった、パッケージとジョブディスクリプションでサイロ化しやすい欧米型の弱みが生じる。そして、全体最適化は遠のいてしまう」と語った。

 その上で、「最適化された多様なサービスを導入することで業務効率が上がるケースがあるので全否定はできないが、CTOが在籍する大企業では、戦略的にAIを推し進める中での共通事項としてサイロ化は避け、ある程度共通プラットフォーム下で情報が分かるようにコントロールしたい、ガバナンスを効かせたいというのが今の潮流になっている」とした。

これからのDXに必要な「デジタル活用人材」とは

 続いて、サイボウズの主力サービスである「kintone」(キントーン)の説明をし、ローコード開発やノーコード開発でDXを進めるために重要な3つの人材を紹介した。核となる技術を創造する「デジタルコア人材」、技術を使ってサービスを開発する「デジタル専門人材」、サービスを活用して業務を改善する「デジタル活用人材」だ。そして、「その中でもこれから一番必要となるのはデジタル活用人材。実際に業務で使用する人材を増やすことで裾野を広げた上で、デジタル専門人材を育てるとこが重要。ノーコードツールを強力な武器にしながら、どう現場からメリットを生んでいくかを考えることが一番いい進め方ではないか」とした。

(セミナー提供資料)

 また、ローコードやノーコードツールを使用したDXの上手な進め方としても3つの要素を紹介。「スモールスタート」「伴走パートナー」「デジタル活用人材の育成」を挙げ、「現場でツールを使い、やりやすい部分から改善を始めるスモールスタートにより、成功事例を積み重ね、伴走パートナーのアドバイスを使って改善を加速させ、社内にデジタル活用人材を増やしていく進め方がよい」と語った。

 最後に石井氏は、日本企業のこれからのDXについて、3つのカエルに例えて説明。「今の日本は新しいツールを導入するにも腰が重いなど、変化を求めない『ゆでガエル』や、より良い世界を知ろうとしない『井の中の蛙、大海を知らず』といった状態に近いと感じる方も多いのではないか。一方で同じカエルでも『リープフロッグ』という言葉があり、これは後進国が最新技術で先進国を一気に追い越す現象のこと。日本は確かにデジタル面で負けている面は否めないが、日本の人材は現場業務に詳しい人材が多い。日本企業はジョブホップをしないという点も、それにより、さまざまな業務を経験し、現場に業務に詳しい人材が増えるという強みにつながる。この日本特有の事情が、デジタルツールで何を業務改善すればいいのかというアイデアを生み出す資産となり、デジタル活用人材をノーコードやAIといった最新技術と組み合わせることで、欧米を一気に追い越すチャンスとなるのではないかと思っている」と語った。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。

アイティメディアからのお知らせ