業務フローのなかに潜む紙。事務作業においてははかなり減ってきた印象があるが、製造現場などPCが広く展開されていない状況下では、記録のための紙に対するニーズはいまだにある。ただ、紙で記録するとPCに転記するなどの手間がどうしてもかかってしまう。先日訪れた現場も、そんな課題に悩んでいた。
製造現場に置かれた工作機械からは、環境情報を含めたさまざまな情報を操作盤としてのPLCから取得できる。取得した情報は作業記録として保存する必要があるため、PLCの操作パネルに表示される全ての情報を紙で事細かに記録し、後で事務所のPCに打ち込むといった業務を、今回訪れた現場では長年続けてきたという。
しかし、現場の高齢化や人材不足によって、できる限り業務を効率化することが求められた。そこで、これまで続けてきた紙での運用から脱却し、デジタル技術によって手間なく情報が記録できる環境づくりが進められた。
PCを設置するスペースがない現場であったため、当初はタブレットを置いて記録する方法が検討されたが、いかんせん現場メンバーのITリテラシーが十分でないことから、タブレットへの入力に否定的な意見が相次いだ。
そもそもPLCから直接データ抽出できればいいのだが、ネットワークに接続されていない機器も存在していたため、物理的な接続は難しい。そのため、現場での情報入力の負担を軽減する最適なUXとして、カメラによる入力方法が検討された。方法は至ってシンプルで、PLCの画面をタブレットのカメラで撮影し、AI-OCR(AI光学文字認識)の機能でテキスト化、それらを自動的にデータベースに格納するといった仕組みだ。
仕組み作りにはAI-OCRの検出精度をチューニングする作業が必要となり、そこで活用されたのが画像マーカーだ。いわゆるQRコードのようなもので、情報識別のためのID情報とともに、そのマーカーの3次元空間の位置やその向きまで計算できる。ロボットアームを正確に移動させる際やドローン撮影の精度を高める際などに使われている技術でもあり、ドローンでいえば「AprilTag」、ロボットの自動化などでは「ArUcoマーカー」と呼ばれるものがよく登場する。
今回は、画面を読み取るためのPLCの横にAprilTagを貼り付け、どの工作機械のPCLなのかを特定可能にした。正確な位置情報から画面の読み取り精度を向上させることで、一度写真を撮るだけで30項目ほどの情報が一気にデジタル情報として記録できるようになったという。
転記によるミスはなくなり、手作業で紙に記録する手間がなくなることで作業効率が大きく向上するなど、評価の声が寄せられている。「現場から総スカンを食うところでした。画像マーカーとAI-OCRのセットでここまで入力負担が減らせるとは思っていませんでした。とてもいい仕組みが実装できました」と導入担当者の声も弾む。
一昔前と比べ、AI-OCRの認識率は格段に向上しており、機械学習の効果も相まって情報入力の手間が大幅に削減できた事例も多く寄せられている。
AI活用の場面は、製造現場にも広がりつつあり、フィジカルAIの領域が今ホットな話題となっていることはご存じの通りだろう。新たな工作機械の内部にはAI機能が搭載され、人手不足に悩む現場への展開も広がることは間違いない。AI-OCRによる今回の取り組みは、本質的な物理領域でのAIというわけではないが、より本格的なフィジカルAI事例についても取材してみたいところだ。
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