大塚商会の技術部門は約3000人のエンジニアを擁する。議事録作成が本来業務を圧迫する中、AI議事録作成ツール「LINE WORKS AiNote」による録音・文字起こしの自動化で、記録から議事録完成までのプロセスはどう変わったのか。
「ITでオフィスを元気にする」を掲げる大塚商会は、経済産業省の「DX注目企業」に2年連続で選定されるなど、自社のデジタル変革にも積極的だ。
同社の技術部門には約3000人のエンジニアが在籍し、複合機やPC、サーバ、ネットワークの設置運用から、セキュリティソフトの導入支援や基幹システムの構築、オーダー開発まで、幅広い業務を担っている。
AI活用も多方面で進めている。エンジニアが顧客先での作業後に提出する作業報告書では、作業内容を基にAIがコメントを自動生成する仕組みを導入した。ネットワーク機器の設定仕様書に対するAIドキュメントチェックや、社内問い合わせ用チャットbotも運用している。
こうした全社的なAI活用の流れの中で、技術部門が長年抱えてきた「記録」の課題に対して導入されたのが、LINE WORKSが提供するAI議事録作成ツール「LINE WORKS AiNote」(以下、AiNote)である。導入を主導した山田貴之氏(サポート統括部 効率推進課 アプリケーションスペシャリスト)に、背景と成果を聞いた。
大塚商会の技術部門が直面していた課題について、山田氏は次のように語る。
「お客様との会議の議事録やサポート記録の作成をエンジニアに義務付けていますが、非常に時間がかかっていました。時間の余裕がない中で日々の記録を残そうとすると、内容がおろそかになったり品質が落ちたりする。しかし丁寧に書けば時間がかかる。どちらに傾いても問題です」
とりわけ負荷が大きかったのが議事録の作成である。例えば技術部門アプリケーショングループでは、パッケージソフトのサポートやオーダーソフトの設計開発を担っており、要件定義や仕様決定のための打ち合わせが長時間に及ぶことが多い。
会議をまとめて議事録を作成する場合、録音を聞き直す作業も必要となり、当初の会議時間を大きく超える時間を要することもあった。そのため、現場打ち合わせでは、議事録作成を担う従業員を一名同席させるケースがよく見られていたという。
「議事録を作る必要性は理解できるものの、つらいという声はありました。午前・午後と1日打ち合わせが続く日もあり、その議事録を全て仕上げるにはどれだけ時間がかかるのかと。私自身もアプリケーショングループに所属していた当時、身をもって負担を感じていました」
山田氏は効率推進課への異動を機にこの課題解決に着手し、まず録音データから文字起こしできるツールを探し始めた。上長とともに3種類のサービスを比較検証した結果、選定の決め手となったのは2つの要素だった。
一つは文字起こし精度の高さだ。「フィラー除去や話者分離も含めて、一番精度が良いと実感できたのがAiNoteでした。他のサービスと比べても段違いと言っても過言ではないぐらい良かったです」
もう一つは料金体系だ。AiNoteは利用人数無制限で、組織全体で文字起こし時間を共有する仕組みを採用している。例えばチームプランであれば月額19800円で月間6000分(100時間)が付与され、それ以上の時間が必要な場合は100分単位で追加契約できる。
この体系が技術部門の実態に合っていた。エンジニアの業務のうち、文字起こしサービスを必要とする業務は月ごとの変動が大きい。システム開発では、上流工程となる要件定義フェーズや基本設計フェーズでは打ち合わせが集中する一方、詳細設計に入ると作業中心となり、打ち合わせの頻度は相対的に落ち着く傾向だ。しかし、ユーザー単位の固定課金では、利用が少ない月にもコストがかかる。組織全体で時間を分け合い、足りなければ追加するAiNoteの設計であれば、こうした波を吸収できる。
録音手段の柔軟さも導入を後押しした。AiNoteはモバイルアプリでの録音に加え、ボイスレコーダーやスマートフォンのボイスメモなど外部で録音したファイルをアップロードする使い方にも対応している。さらにWeb会議との連携機能が加わったことで、社内での利用が一段と広がったと山田氏は振り返る。
大規模組織での導入において、管理性とセキュリティも重要な判断基準となる。AiNoteはSSO(シングルサインオン)に対応しており、3000人規模のエンジニアに対して専用アカウントを個別に発行・管理する必要がない。既存のID管理基盤にそのまま乗せられるため、利用者も普段の認証情報でログインでき、新たなIDやパスワードを管理する手間が生じない。
「ログイン操作を気にすることなく使えるのは大きい」と山田氏は語る。セキュリティ面でも、2段階認証やアクセス権限の管理、操作ログの記録といった企業利用に必要な機能が備わっている点が、選定時の安心材料になった。
大塚商会では2025年7月からAiNoteを順次導入し、取材時点で約半年が経過した。同社の運用を理解する上で押さえておくべきは、AiNoteの役割が「録音・文字起こし」に特化している点である。顧客に提出する正式な議事録の作成は、AiNoteとは別に構築した生成AIの仕組みが担う。
具体的なワークフローはこうだ。まずAiNoteで会議を録音し、文字起こしデータを生成する。そのデータを、プロンプトの管理や生成AIへの指示出しを一元的に制御するオーケストレーションツールの「Dify」を介して生成AIに入力し、所定フォーマットの議事録を自動生成する。
議事録の粒度も詳細型から要約型まで複数段階を選べるようプロンプトが組まれている。顧客提出用の議事録は書式や精度に対する要求水準が高いため、文字起こしと議事録作成を分離し、それぞれに最適なツールを組み合わせている。
一方、AiNote内蔵のAI要約機能は、正式な議事録とは別の用途で力を発揮している。打ち合わせ直後の速報共有だ。1時間程度の会議であれば、録音終了から数十秒〜1分程度で文字起こしデータが生成され、そこからAI要約をかければさらに数十秒で要点がまとまる。会議終了から数分以内に要約を社内プロジェクトメンバーや顧客に共有できる計算だ。正式な議事録が完成する前に、会議の要点を関係者へ素早く届けられる点に実務上の価値がある。
山田氏が最大の成果として挙げるのは、打ち合わせにおける集中度の向上である。
「従来はお客様と会話しつつ、画面上でシステムを動かしたり資料共有したりしながら、メモを取るという状態でした。メモを取る作業がなくなったことで、打ち合わせの集中度を上げることができました。打ち合わせに参加する気持ちの余裕も段違いに軽くなります。議事録要員の同行も少しずつ減らせています」
時間面の効果も表れている。AiNoteの高精度な文字起こしを起点に、AI要約や生成AIによる議事録作成を組み合わせることで、議事録完成までにかかる時間は従来と比べ減少した。以前は録音を一から聞き直して作成していた工程が大幅に短縮され、簡易的な議事メモであればAI要約を微修正するだけで済むケースも増えている。
想定外の効果もあった。これまで記録を残していなかった業務にまでAiNoteの活用が広がった点だ。
「パッケージソフトの指導内容を録音したり、従来は電話で済ませていた10〜15分のやりとりをTeamsに切り替えてAiNoteで記録したり、小まめに記録を残せるようになったのは、使ってみて初めて気づいた効果です」
利用量は右肩上がりで伸びている。当初はビジネスプラン(共有文字起こし時間300時間/月)でスタートしたが、その後エンタープライズプラン(同1000時間/月)に変更した。直近では共有文字起こし時間を使い切り、オプションで追加購入している。現在は月間7万分を超えるペースで推移しており、それでもコスト面では十分に見合うと山田氏は判断する。
AiNoteには業界特有の用語の認識精度を高める業種特化型モデルが用意されており、現在は建設とIT・情報通信の2種類が提供されている。大塚商会ではITに設定して運用中だ。ただし、大塚商会は顧客の業種が建設業から流通業、サービス業まで多岐にわたるため、会議ごとにモデルを切り替えられるようになれば、さらに活用の幅が広がると山田氏は期待を寄せる。
単語登録機能も活用している。社内固有の用語や製品名などを登録することで認識精度を高める機能だが、アルファベット表記の変換など一部課題も残っており、現状はAI議事録生成のプロンプト側で補正して対応しているという。
一方で、文字起こし精度そのものは着実に向上している手応えがある。「以前は正しく変換されなかった単語が、最近はきちんと認識されるようになっています。日々進化している印象です」と山田氏は語る。
管理者向けの統計機能や監査機能も活用しており、誰がいつどれだけ使っているかを把握できる。利用が定着したエンジニアと未利用のエンジニアの可視化にも役立てている。
AiNote活用の展望について、山田氏は段階的な目標を描く。直近の目標は、録音から議事録完成までの自動化である。現在はAiNoteの文字起こしデータを手動でDifyに渡しているが、この工程をつなぎ込むことで、録音終了と同時に議事録が自動生成される状態を目指す。加えて、議事録以外の文書への展開も視野に入れている。アプリケーショングループでは顧客に提出する指導記録書などの文書が他にもあり、それらの効率化にもAiNoteを活用する計画だという。
山田氏がLINE WORKSへの期待として語るのは、リアルタイムの文字起こしとAI分析を組み合わせた会議支援だ。
「打ち合わせ中にAiNoteがリアルタイムに文字起こしをして、AIが討議すべきトピックやヒントをその場で出してくれる。会議が終わったら即座に議事録ができて、ToDoリストにアクションプランが書き込まれる。そこまでできたら嬉しいですね」。AIの進化のスピードを踏まえれば、非現実的な話ではないと山田氏は見ている。
一方で、組織全体への定着を課題として挙げる。技術部門の中には、AIを自分の業務にどう取り入れるか模索中のエンジニアもまだ少なくない。その点、AiNoteは操作がシンプルでAIの効果を実感しやすく、最初は使わなかったエンジニアが使い始めてから便利さを実感したという声も出ている。
「AiNoteはAI活用の初めの一歩に適したツールだと考えています。どんどん使ってほしいですね」。エンジニア全体のAI活用定着を見据え、山田氏は述べた。
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