AIスキルの重要性は増しているものの、一人で磨くには限界がある。その解決策となりうるのが、ユーザー同士の交流会だ。他社がどのようにAIを活用しているかを知ることで、独学では見つけられない新たなスキルを発見できるかもしれない。
他社は生成AIをどのように業務へ取り入れているのか。AIを使いこなせる人材を、どう育成していくのか。生成AIやAIエージェントの活用が業務の重要なテーマとなる一方で、その最適解を見いだせている企業はまだ少ない。自社だけで試行錯誤を重ねるだけでは答えが見えにくいからこそ、他社の取り組みや現場の声は貴重なヒントとなる。
そうした知見を共有する場の一つが、企業が開催する「ユーザー交流会」だ。この交流会は、部門や職種を問わず、「もっとAIを活用したい」「自分のAI活用レベルを他社と比較してみたい」と考える人を対象に開催されたものだ。誰でも参加できるオープンなイベントとして実施され、参加者同士の情報交換や他社事例の共有が活発に交わされた。本稿では、Sansanが開催した「AI活用スキル診断交流会」をレポートする。
交流会では、まず約5分間かけて、参加者それぞれが自身のAI活用スキルをレーダーチャートに記入した。その後、チャートを基に自己紹介や名刺交換をし、各テーブルで「今後注力したいこと」や日頃のAI活用についての意見を交換した。互いの経験や課題を共有しながら、実践的な情報交換を行う流れだ。
最初のワークでは、自身のAI活用スキルを可視化するため、業務での利用経験やAIへの指示の工夫度合いなど、6つの軸・計30項目で自己評価を実施。その結果を基に、「AI活用スキルレーダーチャート」を作成した。
1.「使う」 業務において、次の5つの内容でAIを使ったことがあるか。
2.「指示する」 AIにうまく指示出してきているかどうか。
3.「組み合わせる」AIを他のツール・業務と組み合わせて活用したことがあるか。
4.「判断する」 AIに関する機能・コストなどを判断したことがあるか。
5.「広げる」 AI活用を社内で広げようとしているか。
6.「生み出す」 AIで新しい成果を生み出せたか。
各項目について、カテゴリー別に該当する経験の数を集計し、その数に応じてスコア化する仕組みだ。
参加者は、自己評価したスコアを基にレーダーチャートを作成する。筆者の場合は、項目ごとの差が大きく、いびつな形のチャートになった。数名の参加者にもチャートを見せてもらったが、きれいな形になるケースは少なかった。
なお、レーダーチャートの記入用紙には、「業界/業種」や「今後注力したいこと/特に聞きたいこと」を記入する欄も設けられている。事前に自身のAI活用スキルや今後伸ばしたい領域を整理しておくことで、その後のグループディスカッションでも関心の近いテーマを共有しやすくなる。
レーダーチャートによるAI活用スキルの自己評価を終えた後は、テーブルごとの交流セッションへ移った。まず「自己紹介タイム」に10分、その後「今後注力したいこと」の共有や、AI活用推進に関する悩みを相談するディスカッションに30分が設けられた。
参加者の業種や職種は多岐にわたり、ほとんどの人が同じテーブルで初対面という状況だった。どのテーブルになるかは偶然に左右されるが、だからこそ普段接点のない業界・職種の人と意見を交わせる場になっていた。中には遠方から足を運んだ参加者もおり、AI活用のヒントを得ようと、各所で活発な情報交換が行われていた。
交流会終了後、一部の参加者に感想を聞くことができた。ここでは、実際の参加者の声をもとに、「他社がどのようにAIを活用していたのか」「参加者は何を学んだのか」という観点から、交流会で得られた気付きを整理する。
今回の交流会では、参加者の業種や職種が異なることもあり、さまざまなAI活用の取り組みが共有された。
例えば、ある大企業の担当者からは、利用者の利便性を高める形でAIを組み込む取り組みが紹介された。一方で、AIを社内に定着させるためには社員教育も重要であり、動画や集合研修などを通じて普及を進めていると話した。
また、別の参加者からは、生成AIツールの活用に加えて、今後はAIに適切なデータを取り込むためのデータ整備や処理の重要性が高まっているという意見も聞かれた。
この他、建設業の参加者同士では、契約書など大量の文書をデジタル化し、AIを活用して整理・管理する方法について意見が交換された。同じ業界で共通する課題を持つ企業同士だからこそ、より具体的な活用方法について議論が深まっていた。
交流会で印象的だったのは、AI活用のレベルが異なる参加者同士でも、それぞれに得るものがあった点だ。
ある参加者は、「レーダーチャートを大きく描けた人もいれば、そうでない人もいて、活用レベルにはかなり差があると感じた」と話す。一方で、「レベルや業種が異なっていても、このようなオープンな交流会は有意義な機会だ」と語った。
AI活用が進んでいる企業の参加者にとっては、自社の取り組みを説明することで、自社の強みや改善点を改めて整理する機会になる。他社から質問を受けることで、普段は気付かなかった視点を得ることもできる。
一方、これからAI活用を進めたい企業にとっては、先行企業の経験を直接聞けることが大きな学びとなる。単なる成功事例の紹介ではなく、「なぜその取り組みを進めたのか」「自社で応用するならどこか」といった具体的な話を聞ける点は、交流会ならではの価値と言える。
また、参加者からは「既に利用している生成AIツール以外にも、活用できるツールがあることを知った」「進化の速いAIツールの情報を追い続けるのは難しいが、他社の利用感や効果を聞くことで新しい選択肢を知ることができた」といった声もあった。
AI活用を進める上で、多くの企業が直面する課題はツール選定だけではない。社内への浸透、人材育成、具体的な活用方法の模索など、実際の運用段階で多くの壁がある。
こうした課題に対して、他社の担当者と直接意見交換できる場は貴重だ。特に、ベンダーから提供される情報だけでは分からない、実際の利用感や試行錯誤の過程を共有できる点は、ユーザー交流会ならではのメリットだろう。
また、中堅・中小企業などでは、AI活用を推進する担当者が社内で孤立してしまうケースもある。社外秘の情報を共有することは難しいものの、同じ課題意識を持つ担当者とつながり、相談できる関係を築けることは、継続的なAI活用を進めるうえで大きな支えになる。
今回の交流会を通じて感じたのは、AI活用の推進には「正解を知ること」だけでなく、「他社の試行錯誤から学び、自社に合った形を考える場」が重要だということだ。
本稿は、Sansanが2026年6月3日に開催したイベント「Eight EXPO 2026」内の「AI活用スキル診断交流会」における診断内容や参加者の意見を基に、編集部で再構成した。
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