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ユナイテッドアローズ「売れた理由が分からない」 爆速開発の独自AIでどう解消?

店舗では「売れた理由」が分かっていても、その気付きは本部まで届かない。週報では拾い切れない現場の知見をどう生かすのか。ユナイテッドアローズは、課題解決のためAIエージェントの独自開発に乗り出した。

» 2026年07月15日 07時00分 公開
[平 行男キーマンズネット]
(出典:ユナイテッドアローズの企業サイトより)

 アパレル店舗では、接客の手応えや売り場の変化など、日々さまざまな気付きがある。だが、こうした現場の知見を本部へ的確に共有する手段は限られており、多忙な店長が作成する週報だけでは、情報が断片的になりがちだ。同様の問題を抱えていたユナイテッドアローズは、解決手段として現場の声をAIでデータ化する独自のAIエージェントの開発に乗り出した。

 現在38期を迎え、グループ全体で273店舗を展開しているユナイテッドアローズでセキュリティやエンタープライズアーキテクチャ、データ活用を担当する加藤大輔氏が、独自AIエージェントの開発のプロセスと得られた成果を解説した。

「天気が良いからお客が増えた」 曖昧な報告に困る本部

ユナイテッドアローズ 加藤大輔氏(撮影:筆者)

 期間限定のコラボTシャツを手に取った顧客に対し、店舗スタッフが「このパンツと合わせるとおすすめです」とコーディネートを提案したとする。こうした接客によって、限定商品だけでなく関連商品も購入され、売り上げにつながることは珍しくない。売り上げを押し上げる要因は、こうした現場スタッフの判断や気付きに支えられている。

 だが、忙しい店長がその背景を本部に伝えようと週報を作成する頃には、「天気が良く来店客が多かったからではないか」といった曖昧(あいまい)な振り返りになりがちだった。本来であれば、売り上げにつながった「なぜ」を定性データとして記録し、本部の意思決定に生かしたい。しかし、日々の業務に追われる中で1週間を振り返る負担は大きく、現場で得られた貴重な気付きは十分に共有されないまま埋もれてしまう。

 では、現場の声を効率的に収集し、組織全体で活用するためには何が必要なのか。

 店舗側では、日々の「なぜ」を短時間で記録できる仕組みや、文章化の負担を軽減しながら考えを整理できるサポート、売り上げデータと組み合わせた客観的な振り返りが求められている。一方、本部側では、売り上げの背景にある要因を把握し、多くの店舗から集まる情報の中から重要な気付きを効率的に抽出するとともに、成果につながった取り組みを他店舗へ展開できる仕組みが必要とされている。

 こうした課題を解決するため、ユナイテッドアローズが求めていたのが、店舗と本部の間にAIを介在させ、現場の声をデータとして蓄積・活用する仕組みだ。

 そこでアマゾン ウェブ サービス ジャパンとユナイテッドアローズは、店舗スタッフの気付きや現場の知見をAIで整理し、売り上げデータなどの客観情報と組み合わせた独自AIエージェント「SMART」(Store Manager Agent for Retail Tech)の共同開発に乗り出した。

 共同開発の背景には、グローバルのアパレル企業で実際に成果を上げた先行事例がある。

 CoachやKate Spadeなどのブランドを展開するTapestryでは、約1万8000人の従業員の声を本部へ十分に届ける仕組みが整っていなかった。そこでAI技術を活用したフィードバック収集の仕組みを構築し、音声入力やAIによる内容の整理・抽出を取り入れた。その結果、1年間で約3万件のフィードバックを収集し、マーチャンダイジングの改善につなげたという。

 こうした事例を踏まえ、SMARTでは、現場の声を単なる報告で終わらせるのではなく、AIによる対話や分析を通じて価値ある情報へ変換し、店舗運営や本部の意思決定に活用することを目指した。

 SMARTの主な機能は次の3つだ。

(1)Daily Survey

 本部は日報・週報のフォーマットをノーコードで作成できる。店舗スタッフは5段階評価やラジオボタン、テキスト、音声入力を使って、その日の出来事や気付きを記録する。

(2)AI Chat

 スタッフの回答を基にAIが対話を重ね、内容を掘り下げる。例えば「午前中に若い男性客が多かった」という報告に対して、「どのような商品を探していたのか」と質問を返し、さらに対話を続けることで、「SNSで見かけた商品を探していた」「近隣イベントの来場者が流入していた」といった背景情報まで引き出せる。音声入力にも対応しているため、タイピングが苦手なスタッフでも自然に情報を残せる。

(3)Daily Insights

 スタッフが閉店後に入力した内容を、夜間に集計した売り上げデータと組み合わせ、翌朝には店舗責任者や本部へ客観的なインサイトとして届ける。従来は報告だけで終わりがちだった日報・週報を、その日の学びを翌日のアクションにつなげる仕組みへと変える。

 SMARTの機能を支えるのが、音声をテキスト化する「Amazon Transcribe」と、AIエージェントの実行や対話履歴の管理を担う「Amazon Bedrock AgentCore」だ。AIとの深掘り対話は、AgentCoreで構築したAIエージェントが担う。

 SMARTの設計思想は、店舗と本部の間に「AI」というチャネルを設けることにあるという。従来の一方通行だった報告を双方向のコミュニケーションへと変え、その過程をデータとして蓄積できる点が特徴だ。

 蓄積されるのはスタッフの主観的なコメントそのものではない。AIが対話を通じて内容を深掘りし、売り上げなどの客観データと組み合わせることで、実用性の高いインサイトとして蓄積される。そこから再現性のあるナレッジを抽出できれば、ある店舗で成果を上げた取り組みを他店舗へ横展開することも可能になる。

 さらに、こうしたデータは店舗運営だけでなく、商品企画や商品開発、マーケティング、経営層など、さまざまな部門や別のAIエージェントからも活用できることを想定している。

AIの問いかけで気付きを言語化する「SMART」の3画面(出典:講演資料)

「わずか4カ月」で店舗向けAIを共同開発 そのプロセスは?

 ユナイテッドアローズでは、週報の作成には2〜3時間ほどかかり、作成者によって内容や情報の粒度にばらつきがあった。結果として、現場で得られた顧客の反応やスタッフの気付きが、十分に活用されないまま埋もれてしまうことも少なくなかった。

 そこで同社は、SMARTを活用し日々の業務で生まれる情報を効率的に収集し、AIを活用して週報作成につなげる仕組みの構築を目指した。

 目的は大きく2つある。一つは、店舗の「空気感」やスタッフの気付きを鮮度の高いうちにデータ化し、商品企画や店舗戦略などの意思決定に生かすこと。もう一つは、週報作成にかかる負担を減らし、店舗スタッフが接客など本来注力すべき業務により多くの時間を使える環境を整えることだ。

 こうした課題は、店舗だけでなくIT部門にも存在していた。従来は、企画立案からモックアップ作成、PoC(概念実証)までに時間がかかり、内製開発の体制も十分ではなかった。そのため、新たな業務課題が見つかっても、まず小さく作って試すというアプローチを取りにくい状況だった。

 しかし、生成AIの進化によって、従来よりも短期間でプロトタイプを開発できる可能性が広がった。そこで同社は、「AWS Prototyping Program」を活用し、AIを取り入れたモック開発の内製化に踏み出した。

 プロジェクトは2025年12月〜2026年3月末までの約4カ月で進められた。12月上旬に企画・要件定義を開始し、2026年1月にはアーキテクチャ設計とプロトタイプ開発を実施。2月にはPoCに向けた追加開発と受け入れテストを行い、3月にはPoCの実施・評価まで完了した。

 「当社では異例のスピードでした」と加藤氏は振り返る。その背景には、AWSの支援プログラムを活用し、アイデアを素早く試作品として形にできたこと、AI駆動開発ツール「Kiro」を利用したこと、そして事業部門や店舗スタッフと密に連携したことがあった。

店舗の教育や人員配置までを変えた「週報AI」

 SMARTのPoCは、4店舗を対象に2週間にわたって実施した。期間中、店舗スタッフは定型アンケートに回答し、その内容を基にAIが対話を通じて掘り下げることで、日々の業務で生まれる気付きや背景にある考えを引き出した。一方、本部はAIが整理したレポートを確認し、店舗の状況を把握した。

 検証では、AIが店舗スタッフの振り返りや思考整理を支援する存在として機能するか、また本部が現場の状況をより正確かつ効率的に把握できるようになるかという2点を重点的に評価した。

 アンケートでは、SMARTの操作性や有用性を検証した。「曖昧(あいまい)で感覚的な表現を具体化する質問をしてくれる」「直感的に操作できる」「『事実』『考察』『改善案』として整理してフィードバックしてくれる」といった項目では、複数の設問で8割以上が「当てはまる」と回答した。

 この結果から、SMARTはただの情報入力ツールとしてだけでなく、AIとの対話によって日々の振り返りを深め、翌日の行動や戦略を考えるための支援役として受け入れらたことが分かった。店舗からは、「前日の状況を人に確認しなくても、すぐに把握できるようになった」といった声も寄せられた。

 加藤氏は、「意外だったのは教育面での効果です。AIとの対話を通じて深掘りすることで、スタッフに自ら考え、改善につなげる習慣が生まれました」と振り返る。

 さらに、来店ピークの予測を踏まえた休憩時間や人員配置の最適化も進み、接客品質の向上や日々の店舗戦略の立案にもつながった。本部側でも、店舗へのヒアリングにかかる時間が削減された他、報告内容の具体性が高まったことで、より的確な施策検討が可能になったという。

PoC後のアンケート結果(出典:講演資料)

UAが実践した「生成AI時代の超・内製開発」

 PoCの結果、当初の目的は十分に達成できたと判断したユナイテッドアローズは、現在、追加開発を進めている。当初から構想していた週報レポートの自動生成に加え、PoC期間中に多く寄せられた要望を受け、売上や来店客数を確認できる「Daily Insights」の機能拡充にも着手した。いずれも内製で開発を進めており、本格展開に向けた検討を進めている段階だ。

 加藤氏は、この取り組みを通じて得られた学びとして2点を挙げる。

 1つは、生成AIの活用によって、ITスキルの高い開発者がいなくても内製開発に取り組める時代になったことだ。これまで高かった開発のハードルは確実に下がり、業務課題を素早く形にして検証できる環境が整いつつある。

 もう1つは、現場とIT部門が一体となって取り組むことの重要性だ。「IT部門はシステムを作るだけではなく、現場と協創しながら変革を推進していくことが重要だと改めて気付きました」と加藤氏は振り返る。

 最後に加藤氏は、このプロジェクトを支えた言葉として「It's still Day One」を紹介した。これは「毎日が新たな挑戦の始まり」というAmazonの理念を表す言葉である。

 現場の声をデータへと変え、AIを介して組織全体の知見へと昇華していく取り組みは、まだ始まったばかりだ。

※本稿は、2026年6月25〜26日に開催された「AWS Summit Japan」(主催:アマゾン ウェブ サービス ジャパン)の講演「忙しい店長を助けるAIエージェント『SMART』 ユナイテッドアローズと創る、現場の声がデータになる日」における内容を基に、編集部で再構成した。

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