コロナ禍のトイレットペーパー品切れはなぜ起きた？ ブルウィップ効果の基本と見分け方、原因を解説

ブルウィップ効果とは、小さな需要変動がサプライチェーン全体に伝わり、結果として大きな需要変動に至ることを指す。本記事では、ブルウィップ効果の見分け方や簡単な例、原因を解説する。

[Kinza Yasar,Diann Daniel，TechTarget]

　ブルウィップ効果とは、サプライチェーンにおける現象の一つであり、小売の領域での小さな需要の変動が、卸売や流通、メーカー、原材料のサプライヤーに伝わり、大きな需要の変動を引き起こすことを指す。この効果は、ムチを振る際の物理現象にちなんで名付けられた。ムチを持つ人が手首を小さく動かすと、その比較的小さな動きによってムチの波形が連鎖的に増幅していくためだ。

　サプライチェーンマネジメントでは、顧客やサプライヤー、メーカー、営業担当者はいずれも実際の需要を部分的にしか理解しておらず、直接コントロールできるのはサプライチェーンの一部のみだ。それぞれの関係者が誤った予測によって過剰または過少の注文をすることで、サプライチェーン全体に影響を与える。サプライチェーンのどこに変化が起きても、サプライチェーンの残りの部分に多大な波及効果をもたらす可能性がある。このような理由から、サプライチェーンマネジメントにおけるブルウィップ効果の原因や要因は数多く存在することになる。

　サプライチェーンに関わるさまざまな関係者の間におけるコミュニケーション不足により、ブルウィップ効果は過剰な在庫投資や収益の損失、顧客サービスの低下、スケジュールの遅延、レイオフや倒産といった深刻な問題を引き起こす可能性がある。

ブルウィップ効果の見分け方

　ブルウィップ効果は、サプライチェーンに携わるさまざまな企業で見られる。特に家電やファッション、医療のように需要が変動しやすい分野において顕著だ。

　サプライチェーンに関わるさまざまな関係者の間におけるコミュニケーション不足がブルウィップ効果の原因であるため、リアルタイムで特定することは容易ではない。この現象は、その悪影響がすでにサプライチェーン全体に波及し、非効率な状態を引き起こした後に観察されることが多い。

　組織やメーカーは、サプライチェーンのさまざまな段階における注文パターンや在庫データ、リードタイムの変動を分析し、サプライチェーンの各段階における需要の変動がどこでどのように増幅されているかを特定することで、ブルウィップ効果を発見できる可能性がある。

ブルウィップ効果の簡単な例

　ブルウィップ効果は、しばしば小売業者が需要に対して過剰に反応することで発生する。その結果、期待が増幅され、サプライチェーン全体にドミノ効果を引き起こす。例えば、ある小売業者は特定のソーダブランドの6本入り製品を通常100個在庫として保有しているとする。1日当たり20個を販売する場合、減った分を卸売業者に注文する。しかし、ある日、小売業者が70個の製品を販売し、顧客がさらに多くの製品を購入し始めると仮定すると、予測される高い需要に対応するために小売業者は6本入りの製品を100個注文する。

　その結果、卸売業者は在庫切れを避けるために、メーカーに2倍の200個を注文する。メーカーは念のため250個を製造する。この場合、結果として、小売業者における100個の需要が、メーカーに至る過程で250個の製造にまで増幅されたことになる。

　この例は非常に単純化されているが、サプライチェーンにおける行動と反応が連鎖することで、ミスマッチが指数関数的に増大するイメージを理解しやすいだろう。ブルウィップ効果は、顧客レベルでの需要低下によっても発生し、不正確な場合には欠品を引き起こし、サプライチェーンの他の場所でも発生する可能性がある。

　ブルウィップ効果の典型的な実例は、COVID-19のパンデミック時におけるトイレットペーパー不足だ。パニックに陥った消費者の需要に応えようと、店舗は急速に注文量を増やし、上流のメーカーは生産量を増やした。この需要の急増は、パンデミックに対応するための消費者の短期的な備蓄行動によって引き起こされた。

ブルウィップ効果の原因

　企業は不十分な需要情報に基づいて顧客の需要を予測し、複雑な要因を考慮して、顧客が実際にどれだけの製品を必要とするかを予測し、その量が正確かつ適時に提供されるよう努めなければならない。サプライチェーンのあらゆる段階で変動や混乱が発生する可能性があり、それが多数のサプライヤーに影響を与える。

　顧客の需要の変化は、在庫を含むサプライチェーン全体の他の要因にも影響を与える。ブルウィップ効果は、需要が本質的に安定している市場でも発生する可能性がある。

　需要予測は常に難しい作業であり、今日のグローバルなサプライチェーンの複雑さがその難易度をさらに高めている。さらに、オムニチャネルやEコマースに対する消費者の関心の高まりも影響している。ブルウィップ効果を引き起こす最も一般的な要因には、次のものがある。

• 製造の遅れなどのリードタイムの問題
• 顧客サービスや出荷をはじめとして、サプライチェーンのあらゆる段階で行われる関係者による不適切な意思決定
• サプライチェーンの各工程における関係者同士の情報共有や調整の不足
• 過剰注文や注文の不足のような需要予測に対する過剰反応および過少反応
• 小売業者などの顧客企業が注文をまとめ、サプライヤーに発注する前にそれらを蓄積する「注文バッチング」と呼ばれる慣行
• 供給者の領域で始まる予期せぬ顧客需要の急増や在庫管理の不備、その他の問題がサプライチェーン全体に広がること
• 割引やコストの変動、その他の価格変動によって起こる購買パターンの混乱
• 過去の需要に過度に依存して行われる将来の需要に関する不正確な予測

ブルウィップ効果がサプライチェーン管理に与える影響

　ブルウィップ効果は混乱を引き起こし、サプライチェーン内の全ての組織にコストをもたらす可能性がある。在庫が過剰であれば廃棄につながり、不足すればリードタイムの短縮、顧客体験の低下、ビジネスの損失を招くことがある。

　多くの企業は、需要変動に対する緩衝材として安全在庫や予備在庫を使用する。しかし、安全在庫はブルウィップ効果を解決するものではない。ただし、サプライヤーから追加の在庫が届くまで、注文を満たすために十分な製品を提供する。

　ブルウィップ効果がサプライチェーンにもたらす主な課題は以下だ。

過剰在庫

　過剰在庫はブルウィップ効果の一般的な副産物だ。特定の製品によっては、過剰在庫を生じさせたり、コストの変動を引き起こしたりすることがある。例えば、生鮮食品や医薬品は、販売前に期限が切れる可能性があり、技術製品は新しいバージョンやモデルに置き換えられることがある。結果として、在庫一掃や廃棄が必要になることがある。

保管コストの増加

　ブルウィップ効果によって生産レベルが急上昇し、それに伴って保管が必要な在庫量も増加する。過剰な在庫や売れ残りは、保管コストの増大を招く。需要が減少する前に在庫が販売されなければ、その価値は低下する。

顧客の不満

　ブルウィップ効果によって企業は不正確な需要予測に苦労し、顧客の需要を安定して満たすことが難しくなる。その結果、販売機会の損失や顧客満足度の低下が発生し、在庫切れやバックオーダーに伴うコストが増加する。

人件費の増加

　過剰在庫は、保管や仕分けに伴う人件費を増加させる。一方、在庫切れは従業員が代替品を探すため、追加の作業を必要とし、労働コストの増加につながる。

ブルウィップ効果を軽減する方法

　ブルウィップ効果を軽減するためには、サプライチェーンパートナー間のコミュニケーションの向上と、予測方法の改善が必要だ。以下の対策が一般的に推奨される。

サプライチェーンのコミュニケーションとコラボレーションを促進する

　サプライチェーンの問題に関して連携を強化することは、企業内だけでなく、顧客やサプライヤー、販売店、製造、その他のパートナー間でも必要だ。サプライヤーが顧客のニーズを理解すれば、過剰在庫を削減できる。サプライヤーおよびプロジェクトポータル、電子データ交換トランザクション、その他のサプライチェーン管理ソフトウェアの機能がその助けとなる。

予測および可視化ツールの使用

　さまざまなソフトウェアにより、正確な需要予測とサプライチェーン全体での状況可視化が可能になる。これには、需要感知ソフトウェアや予測ソフトウェア、在庫最適化ソフトウェア、分析ツール、人工知能、モノのインターネットが含まれる。

需要主導型のサプライチェーン管理アプローチを検討する

　需要主導型のアプローチは、調整されたテクノロジーとプロセスに依存し、サプライチェーンで発生する事象に迅速に対応する。このアプローチを実現するために、コラボレーションやコミュニケーションの強化、新しいテクノロジーの活用が重要だ。企業は、プッシュ／プルアプローチを戦略に応じて使い分ける必要がある。

透明性の向上

　サプライチェーンにおける透明性は、情報フローの精度を高め、ブルウィップ効果を軽減するために重要だ。透明性を持つことで、需要や在庫レベルが明確に見えるようになり、過剰生産や過剰在庫、在庫切れを防ぐことができる。

高度な予測方法の採用

　企業は、業務を効率化し、ブルウィップ効果を軽減するために、高度な予測方法を導入すべきだ。例えば、ベンダー管理の在庫戦略は、包括的で偏りのない視点に基づいて在庫の決定を行うことが可能だ。

価格変動の制限

　企業はプロモーション戦略を見直し、価格変動を最小限に抑える必要がある。頻繁なプロモーションは顧客の購買行動を混乱させ、需要予測の難易度を上げるため、プロモーションの頻度を減らすことが望ましい。

ビールゲームを使ったブルウィップ効果のレッスン

　ビール流通ゲームは、1960年代にマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院で対面型のロールプレイシミュレーションゲームとして開発されたものだ（ビールは使用しない）。プレイヤーは、サプライチェーン管理の複雑さを体験するため、小売業者や卸売業者、販売業者、醸造業者の役割を使用して、ビールのサプライチェーンをシミュレートする。目標は、運用コストをできるだけ低く抑えることであり、在庫が多すぎるとチームにペナルティーが課せられる。

　プレイヤーは、完全リモートや対面、またはハイブリッドの形式で参加し、現実のサプライチェーンを模倣しながら、通常のチャネルを通じてのみ注文を中継できる。また、在庫とバックログ、そしてそれらが最終利益に与える影響に対応する必要がある。このゲームが教えることの一つに、システム全体の複雑さや、限られた情報で適切な選択をすることの難しさ、さらにはブルウィップ効果がいかにして現実のものとなるかが含まれている。

　企業が直面している現在のサプライチェーンリスクや、それを軽減するための効果的な戦略についても検討することが求められる。複雑なサプライヤー関係の管理や、混乱への対応に関する洞察を得ることで、企業は回復力と継続性を強化できる。