実践する前に知っておきたい「ビジネス×AI」の基礎知識──「HOP AI」講演レポート(2/2 ページ)
AI活用に要する知識の全体像については、ITエンジニアとコンサルタントの経験を持つ同社の石川恵理香氏が解説を担当。このうち「導入・実装・運用」フェーズに関しては
・データを処理するAIには、学習方法が異なる3タイプ(教師あり・教師なし・強化学習)があり、技術者ごとに得手不得手もあるため、用途に合わせた選定が重要となること
・予測に用いるデータの種類を増やすほど計算が複雑・膨大になるため、AIの設計にあたってはデータを処理するインフラへの投資額も考慮する必要があること
を指摘した。
石川氏はまた、導入・実装・運用に先立つ「構想策定・検証」フェーズを特に重視すべきだと強調。自身が関わるプロジェクトでは、まだAIに直接触れないこの段階で「全体の4割くらいの労力と、最大数年の時間をかける」と明かし、そこで社内人材が果たすべき役割を次のように説明した。
「AI導入に関心を持つ部署からメンバーを集めてアイデア出しを行い、挙がった候補の優先順位を決めてもらう。その各候補について、AI以外も含めて最適な解決法を示した上で、AIに向いていると判断したものについてPoC(概念実証)で評価し、本格導入に進める」
石井氏は「要は『経営コンサルタントとAI技術者のスキルを掛け合わせた人材を育てよう』ということだ。本職と対等とまではいかなくても、それに近いレベルで対話できれば、価値のあるプロジェクトが実現できる」と補足。勤務先でのAI人材育成の検討を参加者らに呼びかけ、セッションを終えた。
サービス開発と、それよりも大事な「運用」─ビースポーク綱川氏が語るAI自社事例
「チャットボットの運営企業を4年前に創業。サービスで用いるAIの自社開発に力を入れ、国際会議にも参加多数。現在はシリコンバレーと渋谷を拠点に35人が活動中」。セッション冒頭、華やかな自己紹介で注目を集めたのは株式会社ビースポークの綱川明美社長だ。
同社の「BEBOT」は、訪日観光客に特化したチャットボットを提供するWebサービス。英語と中国語の音声およびテキスト入力に対応し、フライトや観光、買い物などの問い合わせに回答する。スマートフォンの標準機能に比べ、提携先である空港・駅・宿泊施設の情報を充実させたのが強みで、各所の無料Wi-Fiと連携して普及を図っている。
現在の利用者は、1日約4万人。AIを活用した自動回答のほか、高度な質問や緊急対応はオペレーターが提携先への取り次ぎを行っているという。
「チャットボット活用が現在最も進んでいるのは観光業界」と語る綱川氏は、背景にインバウンド需要急増に伴う多言語対応での人材難があると指摘。チャットボットの具体的なメリットとして「FAQ(よくある質問への回答)の自動化」「アップセル(客単価向上)」「データ収集」を挙げた。
このうち「FAQの自動化」について綱川氏は「窓口の混雑を緩和し、同内容を繰り返し答える担当者の負担も軽減できる」と説明。外国人向けの発信が少ない災害情報も、他サイトと連携して提供していると語った。
また「アップセル」については、提携先の送客施策の一環として、近隣の店舗や飲食店のリコメンド機能を実装。さらに「データ収集」では、ユーザーの問い合わせやチャットボットとの対話からニーズや満足度を探り、マーケティングへの活用が進められているという。「対話にアンケートを組み込むと紙以上の回収率が得られ、人が直接耳にできないような情報も入る」(綱川氏)のは、気軽な会話の延長上にあるチャットボットならではの強みだ。
BEBOTは、音声やテキストの理解にAIを応用する一方、意図する成果を得るためのコンテンツは、もっぱら人間が設計しているという。そうした工夫の一端を、綱川氏は次のように解説した。
「『疲れた』という人にスパを紹介する、あるいは帰国前の空港で『お土産は全部買えたか?』とショップを案内するといった条件設定は、全て人間が考えている。寄せられる問い合わせからニーズに気づくことが重要で、例えば『近くで朝食が食べられる場所』という質問への回答を通じて『ホテルの朝食への満足度』『求められる食事内容や予算』などを聞き出すこともできる。そうした取り組みを問い合わせ上位のワードから10件、20件と進めるうちに、確かな成果が出てくる」
操作画面からは完全自動化されたように見えるサービスを裏方として支えるのも、やはり人の力だという。典型例は「クレーム対応」だ。
綱川氏は「自動応答できない内容を提携先企業に引き継いだ後、言葉の壁でやりとりがかみ合わずクレームに発展し、結局対面でお詫びする場合もある。チャットボットが役割を全うできない1割程度のケースを埋めるのに苦労している」と告白。さらに「顧客の要望を正しく反映したデータが大量に得られても、それを改善に生かせるかどうかは提携先企業の組織しだい」とも述べ、テクノロジーによる課題解決を阻む「組織の壁」を指摘した。
自身の専門外だったAI分野で起業できた理由を、綱川氏は「AIをつくろうというのではなく、課題解決としてのサービスに共感を得たのが大きい」と説明。「今はAIの導入が至上命令で、そのための用途を探すことも多いはず」と“主客転倒”に傾いた現状に理解を示すいっぽう「実際にサービスを始めると(AI技術に直接関係する)開発に割くリソースは全体の2割程度だ」と述べ、自社の実情についても明かした。
同氏によると、いったんサービスをリリースした後は開発以上に普及のウエートが高まるほか「コンテンツを最新の内容に保つため、全体の力の半分を運用に充てることになる」。こうした構造は、AIを使わないECサイト運営などと基本的には変わらないという。
「絵文字1つをコメントに入れるかどうかでも全く反響が変わる。チャットボットの運用は本当に奥が深い」と語る綱川氏は32歳。AI活用で“年上の後輩”となる参加者も多い会場に向けて「利用者を増やすにも、そこから売上につなげるにも時間がかかるだけに、早めに始めて学びを得てほしい」とエールを送り、壇上を後にした。
RPAの実践からつかむ「AIを使いこなす文化」
各セッションの具体例が示すとおり、ビジネスへのAIの活用は「手探りで進める新規業務の一環」に位置づけられることが多い。既存業務への応用で手堅く効率化が見込めるRPAとは異なり、前例のない状態から「施策じたいの勝算」や「AIを手段とする有効性」を見極めていくだけに、AI活用はRPA活用以上のチャレンジとなる可能性が高い。
とはいえ、両者には見逃せない共通項もある。三者三様の立場からAI活用のポイントが説かれた今回のセッションではそろって、正しい課題設定と素早い意思決定、着実なフィードバックを可能にする「組織体制」が強調された。社内へのRPA導入を通じ、テクノロジーを受け入れて使いこなす文化の定着に取り組んでいる担当者は、既に少なくないだろう。
デジタルテクノロジーの活用は、最終的には「組織」と「人」の変革なしには達成できない。そのノウハウをRPAの実践から体得した幾多の企業が今後、AI活用でさらなる進化を加速させていくのは間違いなさそうだ。
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