実践する前に知っておきたい「ビジネス×AI」の基礎知識──「HOP AI」講演レポート(1/2 ページ)
RPA BANKが2019年4~5月に行ったアンケート調査によると、現在国内でRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用、または検討している企業の過半数(55%)は、紙ベースの文書を高精度にデジタル化する「AI-OCR」の活用や検討も進めている。
決められた作業を確実にこなすRPA、そして過去からの推測で新たな状況にも対処できるAI(人工知能)は、「既存業務の代替」から「新事業の創出」まで、さまざまな用途での活用が期待されている。とはいえ、自社が抱える課題をこれらのテクノロジーとともにどう解決していくか、確たるイメージを描ききれていない企業もなお少なくないだろう。
そこで今回は「HOP AI feat. THE GLOBAL INNOVATION FORUM 2019」(8月30日に都内で開催)で、AI活用の理論と実践をテーマに語られた3セッションの概要をレポート。「大企業が活用を成功させるポイント」「プロジェクト推進担当者に求められるスキル」そして「AIを活用した課題解決の具体例」について、第一線からの知見を共有する。
■記事内目次
- 1.戦略選択を決定づけるのは「社内文化」─Microsoft周氏が語るAI活用
- 2.「技術とビジネスを橋渡しする人材育成」が必要─ティビダボ石井氏・石川氏
- 3.サービス開発と、それよりも大事な「運用」─ビースポーク綱川氏が語るAI自社事例
- 4.RPAの実践からつかむ「AIを使いこなす文化」
戦略選択を決定づけるのは「社内文化」─Microsoft周氏が語るAI活用
「社外のアイデアや技術を積極的に採り入れる『オープンイノベーション』はいま、万能のようにもてはやされている。しかし、本当にそれほど単純なのか?」
会場を埋め尽くした聴衆にそう問いかけたのは、現在Microsoftのノルウェー拠点で企業のデータ活用戦略を支援する周寧(Ning Zhou)氏だ。同氏は、工学研究で世界的に知られる中国・清華大学でデータサイエンスの博士号を取得後、ノルウェーのメディア企業でデジタル化戦略を担当。大企業でAI活用に携わってきた自身の経験も交えて、プロジェクト成功のために「すべきこと」「してはいけないこと」を整理した。
周氏は、代表的なクラウドサービスであるAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)が2000年、自社事業拡大のインフラとして社内開発された例を引き、オープンイノベーションとは真逆の「クローズド」な取り組みでもイノベーションが起こせることを確認。一方、クイズ王に勝利したAI「Watson」の能力をヘルスケア分野で応用するIBMのプロジェクトが、関連する新興企業の買収に40億ドル(約4,300億円)を投じながら目立った成果を出せていないことにも触れ、次のように結論づけた。
「AIによるイノベーションに絶対解はない。オープンな形式も、高度な自社技術も必須ではなく、重要なのは、最大の障壁となる『社内文化』に応じた戦略を選ぶことだ」
その具体策として周氏は「適切で迅速に意思決定できる体制づくり」が必要と指摘。成功した企業として
・「チャットボットでの受注」「自動運転での配達」「調理から配達まで進捗を知らせるアプリの配布」をオセアニア地域主導で先行実施した宅配ピザチェーン「ドミノピザ」
・本業と競合する送金アプリを別会社でリリース後、半年で国内人口の2割まで普及させ、他国の決済アプリとの提携も進めるノルウェー最大手銀行「DNB」
を紹介した。
破壊的技術(disruptive technology)と称されるとおり、AIはビジネスにおける既存の基盤や秩序を揺るがす存在でもある。この点に関連して周氏は、過去のしがらみにとらわれずAI活用を成功させるため「してはいけないこと」として
・オープンイノベーションを選んだのに、意思決定メンバーの過半数を自社で占めること
・AIプロジェクト進行のリーダーに古株の幹部を充てること
・AIプロジェクトへの承認を、従来同様のプロセスで得ようとすること
・AIプロジェクト単独で成長が鈍化する前に、既存事業との連携を図ること
を挙げた。
さらに同氏は、自前主義にこだわらずオープンイノベーションに切り替えたほうがよい企業に典型的な社内文化として
・「発案の承認プロセス」「新規採用の技術者に対する自社コンセプトの浸透」「プロトタイプの作成」のいずれかに半年以上かかる
・社内で3つ以上のチームが同内容のアイデアに取り組んでいる
・テクノロジー戦略に関する社内文書で「データ」よりも「AI」という表現が多用される
などの具体的なポイントを列挙した。
AIを用いたイノベーションに、いまだ「必勝法」がない中、世界各国の事例が示す知恵をまとめた周氏は「確実な方法がないからこそ『小さく始め・早く失敗し・早く学ぶ』ことが大切だ」と呼びかけ、講演を締めくくった。
「技術とビジネスを橋渡しする人材育成」が必要─ティビダボ石井氏・石川氏
「企業経営者は、収益向上やコスト削減、人事評価などにAIを活用したい。いっぽう技術者は、AIの設計やデータの取り扱い、そのためのインフラ整備などが専門だ。両者は相手の考えを十分理解できず、間に立って橋渡しできる人も不足している」
そう述べて「ビジネスとAIが両方分かる人」の育成が急務だと説いたのは、企業のAI活用支援と、管理職を対象にしたAI研修事業を手がける株式会社ティビダボの石井正太氏だ。
米国でのAI研究機関立ち上げ経験などを持つ石井氏は、企業のAI導入に際して
・予算の見当がつかず、コンサルティング会社の“言い値”で過大な費用を支払っている
・Excelでも実現できる内容や、十分な精度が見込めない用途にAIを使おうとしている
・そもそもAIで何を実現したいのかがあいまいで、要件を明確化できていない
といった諸課題があると説明。
さらに「株価をAIで予測したい」というケースを例に「年間およそ250日ある取引日のデータを30年分用意した場合、変化をとらえるポイントは7,500程度。これはディープラーニングを用いるサンプル数としては不十分で、いい結果は見込めない。そうした感覚をつかみ、プロジェクトの成否を判断できる人がビジネスの現場に必要だ」と訴えた。
続けて石井氏は、技術面での“相場観”だけでなく実務面からの知見も不可欠な理由について「クレジットカード審査業務へのRPAとAIの併用」を題材として次のように説明した。
「RPAでは、申込内容と審査基準の照合を自動化することが考えられ、手作業での時間や人件費と比較すれば、導入効果の算定は比較的容易だ。いっぽうAIでは、過去の利用データをもとに審査基準を改善することが考えられる。ただ、その成否を見通すには『審査合格を何%増やせるか』『延滞の損失を何%減らせるか』『一連の手続のどこでデータを取得できるか』など総合的な検討を要する。これは、幅広い業務知識があって初めて可能なことだ」
同時に石井氏は「収益性」「労働時間」といった経営的な指標からは「AIをどう実装すべきか」が直接見えづらいことも指摘。ある運送業者は日々の業務の中から『不在配達率』に着目し、AIによるタイミングの予測によって配達効率の向上を目指していると紹介した。
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