「AWSを使わない方がトク」で500億円節約した企業の思惑:704th Lap
FacebookやNetflixなど、世界を代表する多くのネットサービスやビジネス基盤として使われている「Amazon Web Services」。ある企業はこの流れには乗らず、「AWS投資はムダ金」と考えた。
「Amazon Web Services」(AWS)は、グローバルで多くのビジネスを支える、言わずと知れたクラウドコンピューティングサービスだ。サーバリソースだけでなく、データベースやストレージ、ミドルウェアに至るまで、サービスが充実していることも企業から選ばれる理由の一つだ。
多くの企業がビジネスやサービス基盤としてAWSを選択する中で、その流れには乗らず、むしろ「AWSは利用しない方がトク」と考える企業が現れた。なぜ、そう言い切れるのだろうか?
そう考えたのは、SEO分析ツールで知られる「Ahrefs(エイチレフス)」だ。全世界で60万ものユーザーを抱える。
ユーザーが多いだけに膨大な量のトラフィックを処理する必要があり、それに耐えるインフラが必要となる。多くの企業がサービスやビジネス基盤としてAWSを選ぶ中で、AhrefsはAWSを利用していない。それは、なぜなのか。
同社のエンジニアであり、データセンター担当のEfim Mirochnik氏が、2023年3月9日にソーシャルメディア「Medium」に投稿した記事によってその理由が明らかになった。
Ahrefsは世界各地でサーバを運用しており、その一つがシンガポールの某データセンターにある。同社が運用するサーバは2020年に導入したもので、合計16台ほどが稼働している。スペックは、マルチコアCPUと2TBのメモリ、100Gbpsのネットワーク機能、15TBのSSDといったものだ。
Mirochnik氏はそのサーバを5年間使用すると仮定して、運用コストを算出した。初期導入費用を60で割った月額の機器コストは1025ドルだ。月額の電気料金や通信料金は、平均524ドル。これらを加味すると、サーバ1台当たりの月額料金は、月額1550ドル(約20万2000円、2023年3月下旬時点、以下同)だという。
Ahrefsがサービスを提供するのに必要なスペックのインフラ設備をAWSで5年間使うと仮定して、Mirochnik氏が月額コストを試算したところ、ストレージサービス「Amazon Elastic Block Store」(Amazon EBS)が1万1486ドル、コンピューティングサービス「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)が5607ドル、データ転送料に464ドルかかる。その合計金額は1万7557ドル(約230万円)。両者を比較すると、その差は歴然だ。約11倍もの価格差になる。
Ahrefsが全世界にサービスを提供するに当たって必要なサーバは850台だ。その台数を30カ月運用したとすると、Ahrefsが自社で管理する場合は3951万9025ドル、AWSを利用する場合は4億4769万4623ドルになる。つまり、AhrefsがAWSを使わないことで節約できる30カ月分のサーバコストは、差し引き4億817万5598ドル(約534億円)の計算になる。
Mirochnik氏は投稿した記事で「このコストをAhrefsの収益だけで支払うことは不可能だった」と振り返る。その間Ahrefsが得るはずだった収益の多くがAWSへと支払われることになる。一方で、Mirochnik氏はサーバ運用に関わる人々のスキルや財務管理、キャッシュフローや運用に関わるキャパシティープランニングなど、さまざまな要因がこの試算に欠けていることも指摘した。
しかし、それを加味しても、スタートアップ企業がネットサービスを開始するに当たってAWSを安易に利用する前に、まずはオンプレミスでの運用を検討することでコスト削減につながる可能性はある。Mirochnik氏が指摘するように、これだけコスト差があるとなれば、スタートアップ企業にとってはある種の福音になるかもしれない。
上司X: AWSの利用コストを大幅に削減して、30カ月で500億円も得しちゃった企業が出た、という話だよ。
ブラックピット: ちょちょちょ、ちょっと待ってください。結局、AhrefsはAWSを使っていないってことじゃないですか。
上司X: ま、そういうことだね。
ブラックピット: 色んなサービスがAWSを使っているのはもう周知のことですからね。信頼性も高し、取りあえず使っておけば安心、という話でしょう。使わないからお得、みたいなのはちょっと論点が……。
上司X: でも、今回のAhrefsのMirochnik氏みたいにオンプレミスと比較したら意外なほどコスト差があるっていう事実は事実だろう。
ブラックピット: でも、オンプレミスで運用するのって、人的リソースとかかなりの労力は必要だと思いますけどね。AWSだと事故の保証とかもあるんでしょうし。
上司X: まあな、単純計算では比較できない部分はあるだろう。でもMirochnik氏の計算だと月額レベルで10倍以上の差だぞ?
ブラックピット: だからその10倍の価格差に、サービスの信用だったり利用料金だったりが盛り込まれていると思うんですよ。そこは企業の選択でしょうね。
上司X: それは、キミの言う通りだろうな。オンプレミスで十分と考える企業もあるだろうし、「AWSサイコー」という企業もあるだろうし。Mirochnik氏みたいな優秀なエンジニアがいると、色んなメリットがあるんだろう。そんな人材を確保する、というか俺とキミがそういう人材になればいいのか……。
ブラックピット(本名非公開)
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
上司X(本名なぜか非公開)
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
金曜Black★ピット
こんなメディアも見られています
キーマンズネットに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
かんぽ生命が営業報告を50分→10分に AI時代に見直すべき「データ入力」の仕組み
-
2
C言語は「危険」と言われても、専門家が「使う価値は十分にある」と言うワケ:900th Lap
-
3
M365 Copilot全庁展開で月2000時間削減 現場がAIを「使いたくなる」習慣化の仕組み
-
4
6TBファイルのサーバ移行、M365ユーザーの八雲町がSharePointでなく「あえてBox」の理由
-
5
Claude Codeに「仕事を丸投げ」して事故らないための基本運用ルール
-
6
損保ジャパン、2万人の「Gemini活用」どう管理? 推進者が語る「リスク回避」の仕組み
-
7
「カスハラ対応」を個人に任せない 取手市がAIで変えた窓口業務
-
8
社員の「セキュリティ訓練」、他社はどの程度やっている? 気になる隣の実施状況
-
9
「Claude」3倍高速化の裏で、Anthropic開発者が「あえてしなかったこと」:899th Lap
-
10
20年物の基幹システム刷新に、マクロミルがあえて「全てを変えない」と決めた理由
キーマンズネット SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
キーマンズネットをフォロー