ロッテ、「経費の全件チェック」をやめて処理を50%削減 プロセスを担当者に聞いた
経費精算システムの使いづらさは、使用する従業員だけでなく、管理部門にも大きな負担となってしまう。同様の課題を抱えていたロッテでは、プロジェクトチームにより、4カ月という短期間でシステムを刷新し、生産業務の50%削減を達成した。その全貌を同社チームメンバーに聞いた。
経費精算システムの使いにくさは、従業員の業務負担を増やすだけでなく、管理部門の負担増にもつながる。菓子メーカーのロッテにおいても、従来のシステムの操作性に課題を抱えており、その改善が求められていた。
こうした状況を受け、同社は生産性向上改革の一環として経費精算業務の見直しに着手し、2025年8月には経費精算システムを「楽楽精算」へリプレースした。部門横断的なメンバーで構成されたプロジェクトチームは、4カ月という短期間で抵抗勢力を説得して運用ルールを刷新し、経費精算業務を約50%削減したという。
ロッテでは、旧システムのどのような使いづらさが、現場や管理部門の業務負担につながっていたのか。さらに、リプレース慎重派をどのように説得し、経費精算業務の50%削減を達成したのか。
プロジェクトを主導したロッテホールディングスの成田徹氏(経理財務部 経理グループ HD単体チーム 課長)をはじめとするプロジェクトチームのメンバーに、リプレースの背景や社内調整、業務改革のポイントを聞いた。
ユーザーだけの問題じゃない 使いづらい経費精算が管理側に強いる負担
ロッテでは従来、グローバル対応の経費精算システムを運用していた。しかし、事後精算と事前申請の区別しにくいなど、画面レイアウトやボタン配置が直感的でないという点があった。そのため、事後精算を事前申請として入力するなどのミスが多発していたほか、使い方に関する問い合わせが日常的に発生していた。また、人の目による全件チェックと複数段階の承認フローを前提としていたため、承認に時間がかかり、差し戻しに伴うやりとりが大きな負担となっていた。
そして、課題はユーザー側だけではなかった。管理側でも、システムの使いづらさが業務負担の増加を招いていた。
管理側の課題としては、組織変更や人事異動に伴うマスターの変更作業が複雑だった点が挙げられる。
似たようなマスターが乱立し、どのマスターを変更すれば意図した動作になるのか分かりにくく、管理業務がブラックボックス化していた。さらに、ささいな変更でもベンダーへの問い合わせが必要であり、サポートサイトも英語中心だったため、確認に時間を要していた。結果として、社内だけでは原因の特定や問題の解決が難しい状況が続いていた。
こうした課題を背景に、生産性向上改革の一環として、精算業務そのものを見直すプロジェクトが発足した。
プロジェクトチームは、総務・経理やIT部門などの経費精算業務に関わる部署のメンバーと外部コンサルタントで構成され、週1回、毎回2時間の定例ミーティングを実施した。ミーティングでは、各領域のリーダーが課題と進捗(しんちょく)を共有しながら、経費の申請から支払いに至る業務フロー全体の設計と新たなシステムの検討を進めた。その結果、親会社であるロッテホールディングスでの利用実績があり、「直感的で使いやすい」との評価を得ていた「楽楽精算」の導入を決めた。
楽楽精算の活用シーンと運用の工夫
楽楽精算では、必須項目の明示やガイドメッセージの表示がされるため、ユーザーは直感的な入力が可能だ。加えて、システムの裏側に制御ルールを設定することで、基準外の入力があった場合はエラーが表示されるため、申請前にミスを防げる。
制御ルールは直感的な操作で設定できるため、IT部門だけでなく現場の管理者によるメンテナンスも可能になり、管理業務のブラックボックス化が解消された。
また、スマートフォンの専用アプリから領収書の画像を撮影すると、AI-OCRが金額と取引先、日付のデータを自動で読み取ってくれる。ユーザーは勘定科目と用途を入力するだけで申請を完了できる仕組みだ。
手戻りを防ぐ工夫としては、承認フローとチェック体制の刷新が挙げられる。従来は全ての申請を経理が事前に目視チェックしていたため、大きな負荷がかかっていた。楽楽精算では、上長の承認後、高額なものなどリスクの高い申請のみを経理が事前にチェックし、その他の一般的な申請は、データ抽出による事後チェックへと切り替えた。チェックのタイミングと対象を見直したことで、不要な差し戻しや確認作業を削減し、経費精算プロセスの大幅な効率化を実現した。
また、楽楽精算の導入時には全従業員向けの説明会を複数回開催し、「事前申請のデータを精算画面にコピーできるため、重複して入力する必要がない」といったメリットを説明しながら使い方を周知した。
運用ルールの見直しに伴う慎重論への対応
今回のプロジェクトでは、旧システムの運用をそのまま踏襲するのではなく、業務フローをゼロベースで見直した上で、楽楽精算の運用を設計した。一方で、業務フローを大きく見直すには、社内から寄せられる懸念や反発に向き合う必要があった。
特に議論の対象となったのが、経理部門によるチェック体制の変更だ。従来の「全件事前チェック」から「ハイリスクな申請のみ事前に目視チェックし、その他の申請は事後チェックへ移行する」という方針に対し、社内からは「不正やミスを見逃すのではないか」「ガバナンスが低下するのではないか」という懸念の声が上がった。
プロジェクトを統括した成田氏自身も経理担当であり、「当初は自己矛盾を抱えながらプロジェクトを推進していました」と振り返る。
この課題に対してプロジェクトチームは、業務フローの変更はチェックの緩和ではなく、むしろ「チェックの高度化」だと説明し理解を求めた。
「全ての申請を1件ずつ目視でチェックする従来の方法よりも、リスクの高い条件に絞ってチェックする方が、これまでは難しかったミスや不正の発見につながると説得を重ねました」(成田氏)
プロジェクトチームは不安を抱く部署や担当者に対し、全社的な効率化と生産性向上の必要性を丁寧に説明した。トップダウンの方針を活用しつつも、チーム全体で課題解決と利便性向上という目的意識を共有しながらアプローチを続け、結果的に4カ月という短い期間で社内の納得感を醸成することに成功した。
成田氏は、「楽楽精算の運用開始から1年が経過しましたが、これまでに大きな問題や事故は発生しておらず、新たな仕組みがきちんと機能していることにほっとしています」と振り返った。
導入による効果と今後の展望
今回のプロジェクトにより、経費申請から精算完了までの時間が約50%削減された。新たな仕組みの導入によって、営業部門をはじめとする現場従業員が精算業務に費やす時間が減少し、顧客対応といった本来の業務に注力できるようになったという。
また、これまでIT部門に頻繁に寄せられていたシステムの操作方法に関する問い合わせやトラブル対応がほぼなくなったという。従業員からは「以前よりも格段に楽になった」といった肯定的な声が多く寄せられており、満足度向上につながっている。
同社は今後、さらなる業務効率化に向けてAIの活用を進める方針だ。具体的には、過去の申請データに基づく勘定科目の自動提案や、不正や誤申請の自動チェックなどにAIを活用することを検討している。また、管理の効率化とグループ全体の生産性向上を見据え、今回の成功モデルを別のグループ会社にも展開する予定だ。
ロッテの場合、単なるツールの導入にとどまらず、業務フローや運用ルールの見直しにまで踏み込んだ結果、経費精算業務の大幅な効率化に成功した。特に、経理部門をはじめとする慎重派に対し、論理的な説明と丁寧な対話で合意形成を図ったプロセスが功を奏したと言える。現場の使いやすさとガバナンス強化を両立させた同社の取り組みは、バックオフィス改革における手掛かりになるはずだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
事例で学ぶ! 業務改善のヒント
この記事の著者
こんなメディアも見られています
キーマンズネットに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
NTTドコモ、「正しく質問させる」をやめ、“聞き返すAI”で変える顧客対応
-
2
PostgreSQLより1.81倍高速? 開発者がSQLの実行を小型AIに丸投げしてみた結果:898th Lap
-
3
「Copilot案件」が急増、1年半で13倍に フリーランスに求められるニーズの変化
-
4
資料作成が月32時間から4時間に トラコムが生成AIで「月28時間削減」した方法
-
5
小規模チームの勤怠管理をSlackで Assortがfreee連携、打刻や転記の手間を削減
-
6
自治体、企業で進む「Google回帰」 事例で分かる「Gemini Notebook」の活用アイデア
-
7
AIに仕事を任せるほど、セキュリティは困難に? Akamaiが警鐘を鳴らす「AIのふるまい」
-
8
証券口座を狙う不正アクセス、光世証券が「パスキー」に切り替えた理由
-
9
AI同士が取引する時代、「相手は誰か」をどう確認する? GMOが信頼基盤を実証
-
10
Microsoftが進めるCopilot再編 「Microsoft Copilot」への移行で、企業への影響は?
キーマンズネット SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
キーマンズネットをフォロー