しかしこれまでのオフショア開発事例で明らかになっているように、グローバルソーシングしたからといって直ちに期待した効果が現れるとは限らないことに注意が必要だ。
まず、従来主な目的になってきた「コスト削減」について、開発実績をベースに考えてみると、必ずしも国内開発に比べてコスト効果が高いとはいえないのが実情だ。ただし、コストを押し上げているのは工数単価ではない。一部の国で人件費の上昇が見られるにしろ、現在でも単価は国内に比較して低い水準にある。問題なのは管理コストだ。
言語が異なる外国への業務委託について管理オーバーヘッドがかかるのは当然であり、恐らく発注時にはそれを見越した予算確保が行われているだろうが、実際の業務において「思っていたものと違う」結果が出ることがしばしばある。国内開発においても決して珍しくないとはいえ、その頻度や程度が違う。開発では手戻りが発生して開発期間が延び、それに伴ってコストが上昇することもある。
その原因は技術力ではなく、契約の考え方の違いによる仕様理解のそごが大きく影響しているようだ。国内の開発では仕様書などに明文化されていない事項でも、口頭で打ち合わせた内容が契約事項として理解される「暗黙の了解」が委託者、受託者の双方にあり、受託者は委託者の「意をくむ」努力をすることが求められる。しかし海外では、明文化した上で契約書に添付していない事柄は契約範囲外となり、受託者に対応する義務は発生しないのが通例だ。
逆に仕様書に表現されていないものを自分の解釈で付け加えたり改変したりすることは、むしろ契約に違反するという考え方が海外では主流だ。日本流に契約書に「誠実協議条項」が盛り込まれることはなく、もしバグがあったとしても契約書に瑕疵(かし)担保期間の明記がないと、いったん検収したあとの修正には応じてもらえないケースもある。
全ての仕様や業務の条件は口頭ではなく契約書で合意されるのが原則なので、契約慣行の違いを理解していないと思わぬ納期遅れや品質上の問題が生じる可能性がある。
また、アジア現地のプロジェクト管理スキルにも課題はある。開発技術者の中心は20歳代の若者が圧倒的に多く、技術的には優れていてもプロジェクトの先を読む能力は身に付いていないことが多い。特に進捗管理が適正に行われず、品質や納期に影響するケースがままあるようだ。これに対しては、国内企業側でも常時プロジェクトの進捗管理や決められた段階での品質チェックを適切に行うことで防げるが、現地への国内スタッフの派遣をはじめとする管理コストが避けられない。
なお、政治的な要因によるカントリーリスクは経営者が懸念するところだが、現場ではそれほど意識されることがない。日本企業のグローバルソーシングにおいては、多くの場合国内のシステムベンダーやSIerが1次請負業者となり、その業者の責任で海外の最適業者に発注する形態が大部分を占める。
何らかの要因でトラブルや生産能力低下が生じたとしても、間に入る国内業者が緩衝材となり影響の程度は相当に軽減できる。中国での政治的な反日運動が盛り上がったときでも現実的な影響は少なく、むしろ伝染病のSARSが流行した際に人の行き来ができなくなった時の方が大きな影響があったほどだ。また、為替変動によるコストの変動も不安要素だが、円建て契約ケースがほとんどなのでこれもあまり影響がない。
むしろ気を付けたいのは発注先の国内事情や為替変動により、現地企業が疲弊して倒産したり、従業員が削減されたりする場合だ。発注する業務が停滞してしまうと結局被害を受けるのは発注者自身だ。
以上をまとめると、グローバルソーシングのメリットは、主に次の3点となる。
一方、課題は主に次の3点だ。
できるだけ課題を解消し、メリットを生かす方向に進められた国内企業は成功者となり、積極的なグローバルソーシングを推進している一方で、課題に直面して解決策が見いだせない企業は投資を中止しているというわけだ。
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