サーバ仮想化にはさまざまなメリットがあるが、OSのサポート終了対策という観点においても有効だ。
例えば、物理サーバの耐用年数を迎える前にOSの刷新、移行が必要になった場合でも、仮想化されたサーバ環境を入れ替えるだけで済む。リソース配分を考慮する必要があるが、新旧のサーバ環境を同一の物理サーバ上で稼働させることで費用負担を軽減するということも可能だ。
あるいは、次のサポート終了期限に間に合わなかった場合、仮想化されたサーバ環境を強固なセキュリティを持つ専門業者のクラウド環境へ移動し、当面の延命を図るといった対策も考えられる。
中堅・中小企業においては業務システムのデータ容量が比較的少ないため、全てのデータを仮想サーバのイメージファイル(OSなどのシステムと物理サーバの内蔵HDDの内容が1つのファイルにまとまったようなもの)にまとめやすい。
つまり、上記に述べた「OSのサポート終了対策におけるサーバ仮想化の活用」は、むしろ中堅・中小企業に適しているといえる。実際、グラフが示すように次回のサポート終了時は上記に述べた取り組みを進める中堅・中小企業が多くなるはずだ。逆に、現時点で「仮想化なし」の移行しか検討していないユーザー企業は「仮想化あり」の選択肢の可能性を再度見直してみると良いだろう。
Windows Server 2003からの移行に際していただくことの多い質問の1つに「今回のサポート終了を機に、クラウドに移行しようと考えている中堅・中小企業は多いのか」といったものがある。
先に挙げたグラフを見ると「新しいWindowsサーバOSが稼働するクラウドサービスへ移行する」の回答割合はいずれの年商帯においても1割前後にとどまっている。この結果を見る限り、Windows Server 2003のサポート終了対策としてサーバ環境のクラウド移行を選択する中堅・中小企業はまだ一部に限られるのが実情だ。
だが「仮想化あり」のサーバ移行を選択した時点で、実はクラウド活用に取り組む準備は完了している。既に述べたように、仮想化されたサーバ環境はあたかもファイルをコピーするかのように異なる物理サーバや社内、クラウドの間を移動させることができる。
すると、サポート終了時だけでなくシステムの構築、運用のさまざまな場面でクラウドを適材適所で活用するという可能性が見えてくる。
例えば、「販売管理システムの新規導入を検討したい」と考えている中小企業があったとしよう。複数のパッケージを試験的に導入し、どれが自社に最適かを見極めたいといった場合、従来は物理サーバを導入する必要があった。
試験用サーバの予算を捻出するためには、システム導入の投資対効果を示す必要がある。だが、試験導入ができなければ投資対効果を示すことも難しい。結果的に手詰まりの状態となり、導入を断念、延期しているといったケースも少なくない。
そこで、試験環境をクラウド上に構築するわけだ。初期投資が不要なクラウドであれば、以前よりもコストを抑えることができる。
しかし、「そのまま何年もクラウド上で運用を続けると、逆に月額の利用料金が負担となる。社内の会計システムなどとも連携させたいので、本番運用は社内設置の形態にしたい」と考えるユーザー企業も少なくないだろう。
そこで、本番運用の段階になったら仮想化されたサーバ環境をクラウドから社内に移すわけだ。そして、最後に延命措置が必要となったときには、先に述べたように再度クラウド環境に移すといった選択を行うこともできる。
中堅・中小企業がクラウド活用を検討する際は「社内設置か、クラウドか」の二者択一となってしまいがちだ。確かに、特定のアプリケーションをサービスとして提供するSaaSの場合には「後で社内設置に切り替える」ということができないケースも多いため、二者択一にならざるを得ないこともある。
しかし、仮想化されたサーバ環境であれば、上記のように「社内設置とクラウドを適材適所で使い分ける」ということが可能になる。どんなシステムにも「試験導入」「本番運用」「延命」といったライフサイクルが存在する。
本来、社内設置とクラウドの選択は「一度決めたらずっとそのまま」ではなく、ライフサイクルの場面ごとに検討していくべきだ。そして、それを実現するための基盤がサーバ仮想化なのである。
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