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IoTが企業にもたらすインパクトすご腕アナリスト市場予測(1/4 ページ)

国内市場規模およそ9兆円に達した「IoT」だが、IT部門ではどう取り組むべきか。事例も交えつつ企業システムに及ぼす影響を解説する。

» 2015年04月16日 10時00分 公開
[鳥巣悠太IDC Japan]

アナリストプロフィール

鳥巣悠太

鳥巣悠太(Yuta Torisu):IDC Japan コミュニケーションズ マーケットアナリスト

IoT(Internet of Things)を専門分野とし、5年以上にわたり調査、アドバイザリー業務に従事。また同分野に関する多くの講演やメディア向けプレゼンテーションなど、豊富な経験を有する。現職では、IoTに関わるビジネス動向や技術トレンドの市場分析をベンダーサイドとユーザーサイドの双方の角度から実施している。


 人を介さずに機械が相互に情報をやりとりするIoT(Internet of Things)は製造業や流通業、公共インフラなどに普及しており、既に国内市場規模は9兆円に成長した。今後も同市場は年率12%の高率での成長が見込まれており、情報システム担当者としては決して見逃せないITの一大潮流だ。

 しかし、キーワードとして一般に浸透しているものの、実際に企業活動とIT部門の仕事にどう関わるのか、具体的なユースケースや将来像、ITスタッフとしての向き合い方をイメージできていない人も多いに違いない。今回は、IoTの意味するところを具体的に理解し、企業と企業システムに及ぼす影響、IT部門の取り組み方について解説する。

IoTの定義と5つのレイヤー

 IoTは「モノのインターネット」と言われ、人が介在せずにモノが相互に通信し合うことと一般に理解されている。IDCではもう少し詳細に「IP接続による通信を、人の介在なしにローカルまたはグローバルに行うことができる識別可能なエッジデバイス(モノ)からなるネットワークのネットワーク」と定義している。もう少し分かりやすくするために、IoTに関連した具体的な技術要素を見てみたい。図1は、IoT市場を5つのレイヤーに分け、それぞれに含まれる技術要素を示したものだ。

IoT市場の5つのレイヤー区分と技術要素 図1 IoT市場の5つのレイヤー区分と技術要素(出典:IDC Japan)

(1)IoTデバイス

 図に見るように、最下層にある「IoTデバイス」は、いわゆる組み込みシステムを中心とした技術要素のことで、センサーなどの情報収集デバイス、スマートメータなどの計測器、あるいは生産・加工機械、各種オフィス/家庭用電気製品、時には体重計やウェアラブルデバイスなどまで、インテリジェントな機能を備えたありとあらゆる分野の装置のことを指す。

 具体的なプレーヤーとしては、国内なら東芝、パナソニック、ソニー、シャープ、日立製作所、富士通、NEC、三菱電機など、外資系ならインテル、ARM、クアルコム、アップル、サムスン、フィリップス、ハイアールといった企業が例として挙げられる。

(2)通信関連リソース

 その上のレイヤーの「通信関連リソース」はNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、ボーダフォン、シスコシステムズなどが提供している通信モジュール、通信回線(3G/LTEなど)、ルーターやスイッチなどのことを指す。

(3)プラットフォーム(PF)ソフトウェア

 さらに上のレイヤーは、サーバ側に備えるソフトウェア(プラットフォームソフトウェア)であり、例えばSIMカードの有効化/無効化や故障管理、デバイスのファームウェアの遠隔アップデート、アプリケーションの開発支援やAPI提供などの機能を実現する。具体的なプラットフォームの事例としては、Predix(ゼネラルエレクトリック)、IoT Foundation(IBM)、ThingWorx/Axeda(PTC)、docomo M2Mプラットフォーム(NTTドコモ)、GDSP(vodafone)などが挙げられる。

(4)アナリティクスソフトウェア

 プラットフォームソフトウェアの上位層にあるのが分析系のソフトウェアで、データベースやBI、Hadoopなどのビッグデータ解析ソフトウェアといった技術要素が含まれる。具体的にはIBM、SAP、AWS、マイクロソフト、Google、Salesforce.com、オラクルなどのプレーヤーが提供している。

(5)IoTインフラストラクチャ

 (3)(4)のソフトウェアを稼働させるためのサーバ、ストレージ、アプライアンスなどのこと。国内外のサーバベンダー、ストレージベンダー、クラウドサービスプロバイダーなどが提供している。

(6)垂直市場ソリューション/専門サービス

 以上の5つのレイヤーを垂直に統合するトータルソリューションや、構築・運用などの専門サービスが提供されている。大手のICTベンダーやSIerに加え、自動車メーカー、電力事業者、建機メーカー、産業機械メーカーなどによって提供されるようになってきている。

(7)セキュリティ

 全てのレイヤーを通して、必要なデータの暗号化やマルウェア対策などのセキュリティサービスも重要な要素。大手のセキュリティベンダーなどが中心となり、提供されている。

 このように、IoT市場は幅広い技術要素を含むものであり、従来の「M2M」の概念にさまざまな要素が加わっている。M2Mは上記のレイヤー区分に従えば(1)から(2)のレイヤーに相当し、組み込み系システムが独自の方法で(プロプライエタリに)つなぎこまれたもののことをいう。

 一方で(3)より上位レイヤーのICTを中心とした技術が台頭し、従来の組み込み系システムと融合することで、IoTは今後さらに大きな進化を遂げていくと考えられる。すなわち、クラウドプラットフォーム、アナリティクス、産業特化型ソリューション、セキュリティといった技術要素を活用することにより、これまでにない大きな付加価値を企業ユーザーは享受できるようになると見込まれる。

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