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10Pbps到達目前、「マルチコア・マルチモード光ファイバー」とは?5分で分かる最新キーワード解説(4/4 ページ)

» 2015年08月05日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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シングルモード光ファイバーとマルチコア・マルチモード光ファイバーとの接続

 長距離伝送に欠かせないシングルモード光ファイバーとマルチコア・マルチモード光ファイバーを接続する技術も極めて重要だ。シングルモード光ファイバー36本分の信号を3モード分(合計108本分)、1本の36コア・マルチモード光ファイバーに接続するのは超微細で精緻な技術になる。

 NICTは既に19コア光ファイバーなどでシングルモード光ファイバーをマルチコア光ファイバーに結合できる装置(空間結合装置)を開発済みだが、その手法の応用だけでは図4上部左側に見るように、コア数と同数のモード変換器が必要になって装置が大型化、複雑化してしまう。

 そこで構造を見直し、全てのコアのためのモード変換および合波を、図5上部右側のように1つの光学システムにまとめた。図5下部はその仕組みをさらに詳しく図解したものだ。従来方式に比べると大幅な部品点数の削減が可能になる。

空間結合装置の改善 図5 空間結合装置の改善(出典:NICT)

 KDDI研究所方式の場合は、独自の光学的技術で6モード多重(分離)器と各多重器から出力される6モード多重信号をマルチコアファイバーの19個のコアそれぞれに入力できる入出力デバイスを開発した。こちらはさらに部品点数が減らせそうだ。なお、19コア光ファイバーそのものも新規開発する。NICTが既存技術をベースにしているのに対し、こちらは最新の海外知財も盛り込んでいるのが特徴だ。

マルチコア・マルチモード光ファイバーの今後

 さて、マルチコア・マルチモード光ファイバーが今後どのように利用されるかだが、実際のネットワークに組み込むためには、この大容量、多空間チャネルに対応できるスイッチング技術の開発をはじめとする種々のネットワーク側での技術開発が必要になるだろう。

 通信事業者のデータセンター内部やスーパーコンピュータでの利用などが最初の適用例になるのではないかと考えられるが、KDDI研究所ではさらなる性能向上と信号処理負荷の軽減を図って伝送距離の延伸化(現在は9.8キロ)を進めるとしており、長距離、大容量伝送の夢も広がる。

 NICTでも実用化を目指して通信事業者、メーカーとの取組みを積極的に推進し、さらなる大容量化に取り組むという。こちらは技術の世界標準化も視野に入れる。世界を大きくリードしているマルチコア化技術に加え、マルチモード化技術も磨かれることで、世界のネットワークが直面している「容量危機」を、日本の技術が解消することを期待したい。

関連するキーワード

イーサネット規格のマルチモード光ファイバー

 イーサネット規格には、マルチモード光ファイバーを利用する方式が幾つか規定されている。10BASE-F、100BASE-F、1000BASE-X、10GBASE-R、10GBASE-SR、10GBASE-SW、40GBASE-SR4、100GBASE-SR10などがそれだ。一般にシングルモード光ファイバーより安価とされており、LANおよびWANで利用されている。

「マルチコア・マルチモード光ファイバー」との関連は?

 マルチコア光ファイバーに関する標準規格はまだ存在せず、各企業や研究機関がさまざまなアイデアを出しながら研究を重ねている段階だ。NICTでもマルチコア技術の実用化と標準化に向けた基盤技術の整備に取り組んでいるが、まだその行方は見えていない。

空間チャネル

 空間的に独立して光信号を伝送できるチャネルのこと。マルチコア光ファイバーの場合はシングルモードではコア数分の空間チャネルがある。マルチモードの光を伝送すれば、コア数×モード数分の空間チャネルが生まれる。ちなみに波長多重技術では各波長が1つのチャネルになる。これは空間チャネルではなく、波長チャネルと呼ぶ。

「マルチコア・マルチモード光ファイバー」との関連は?

 1本の光ファイバーで空間チャネルを一気に100以上に拡大したのがマルチコア・マルチモード光ファイバーだ。NICTの最新研究では36コア×3モードで108空間チャネル、KDDI研究所では19コア×6モードで114空間チャネルを実現した。

容量距離積

 1キロ当たりに1秒で伝送可能なビット数を表す数値。伝送容量と伝送距離を掛けたもので、光ファイバーの伝送能力を評価する指標の1つだ。2013年、KDDI研究所は7コア光ファイバーを用いて大洋横断光ファイバー伝送において約7300キロの距離を140Tbpsでのデータ伝送に成功した。同年NTTも688Tbpsで1500キロの伝送実証に成功した。どちらも容量距離積は毎秒1エクサビットに達している。

「マルチコア・マルチモード光ファイバー」との関連は?

 マルチモードの弱点である伝搬中の損失がネックになり、長距離伝送は難しい。ただしKDDI研究所の19コア・6モード光ファイバーによる伝送では9.8キロ、NICTの36コア・3モード光ファイバーでは5.5キロの伝送が実証されている。予想される空間距離積はシングルモード・マルチコア光ファイバーに及ばないようだが、ローカル環境での利用には現状でも十分過ぎるほどの能力があるといえよう。

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