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10Pbps到達目前、「マルチコア・マルチモード光ファイバー」とは?5分で分かる最新キーワード解説(3/4 ページ)

» 2015年08月05日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

信号の多重化技術の洗練

 構造的な改善に加え、光ファイバーの能力を極力有効に使うために、信号を多重化して一度に多くのビットが伝送できるようにする信号処理技術も洗練されてきた。主な技術は次のようなものだ。

波長多重技術

 1本のケーブルに複数の波長の光を通して別々の信号を同時に送る技術だ。100波長以上の同時伝送が可能だが、多くの波長の光を送るには強いパワーの光を入力することになるため、あまり多重化するとファイバーが耐えられずに焼き切れてしまう。これがこの技術の限界だ。

モード多重技術

 波長多重の限界の中で伝送データ量を増やすには、1つの光波長に複数の信号を乗せればよい。そこで光の「モード」を変える技術が使われる。モードとは何かといえば、光をコアに送り込むときの角度(入射角)を制御して作り出す、コア内の光の伝搬経路のことだ。

 入射角を変えると、位相が同じ反射光は増幅され、位相が異なる反射光は消滅する。最後まで残る反射光の組は「定在波」と呼ばれる。うまく入射角を制御すると定在波を複数作り出せる。それを受信側で正しく区別して処理できれば、複数の信号を同時に受け取れることになる。

 ややこしいので例え話にすると、木管楽器の音色にはさまざまな周波数成分が含まれるのに、それを聞く人には特定の楽器の音であることが分かるのと似ている。同じ音程でも、クラリネットとオーボエの音色が聞き分けられるようなことだと考えればよいかもしれない。

 受信側では幾つかの定在波の種類(モード)を分別して、同時に複数の信号を受け取れるようにする。図4に、モードの種類の例を示す。

モードの種類の例 図4 モードの種類の例(出典:NICT)

 KDDIではこの6つのモードでの伝送を19コア光ファイバーで実現した。NICTは左端から3つ目までの3モードを36コア光ファイバーで実現したわけだ。

 ただし、マルチモード伝送では光の損失が大きく、大距離伝送には向かないのが弱点だ。シングルモード光ファイバーが海底ケーブルをはじめ長距離伝送に利用されるのに対し、マルチモード光ファイバーはLANなどのローカル環境での利用がほとんどだ。とはいえマルチモードでも最長4200キロ伝送の成功例がある。シングルモードの最長1万キロ程度に比べるとだいぶ見劣りがするが、将来的には長距離伝送用途にも期待できそうだ。

空間多重技術

 モード多重技術はコア内に複数の伝搬経路を作り出す。そのコアを1本の光ファイバー内に束ねることは、空間当たりの情報伝送量を増やすことになる。両方の技術の併用で、モード数×コア数分の空間チャネルを作ることができる。これが「空間多重化」だ。

偏波多重技術

 さらに光の波に多くのビットを乗せるためには光の波の振動方向(水平方向れか垂直方向か=偏波)を利用する技術が使える。これで伝送可能な信号を2倍にできる。

多値化変調技術

 多値化変調技術は、波の始まりの位置が違う(位相が違う)光を一定のパターン(位相角)で識別する技術がベースになる。4つの位相変化を利用する4値位相偏移変調(QPSK:Quadrature Phase Shift Keying)なら一度に2ビット、さらに細かい位相変化を使う8値位相偏移変調(8PSK)なら3ビットが送れる。 現在では4ビット以上が同時伝送できるよう、振幅の変化も加えた直角位相振幅変調 (QAM:Quadrature Amplitude Modulation)がよく使われるようになった。16値で4ビットが送れる16QAMから64値で6ビットが送れる64QAMくらいまでは技術的に難しくなくなり、最新研究では2048QAM(11ビット)も実現する。

 この技術なら簡単に大容量化ができそうなものだが、実はこの技術は雑音に弱い。雑音には周波数雑音、強度雑音、非線形ノイズがあり、原理的にゼロにはできず、多値化には限界がある。しかしそれぞれの雑音を抑制する技術は洗練されてきており、信号のエラー訂正技術も進化している。エラー訂正により元の信号が再現できるレベル以上に信号対雑音比(S/N)が劣化しなければよい

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