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空中に浮かぶボタンをポチリ、「空中超音波触覚インタフェース」とは?5分で分かる最新キーワード解説(4/4 ページ)

» 2015年11月04日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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バーチャルな触覚を生み出す技術のこれまでと今後

 バーチャルな触覚に関する研究は、1980年ごろの触覚センサーの開発やアクチュエータへの応用といったロボット技術開発から始まり、1984年にはテレプレゼンスやテレイグジスタンスの概念が生まれた。

 1990年代にはバーチャルな物体や機械が扱う物体の感触を、操作する人間に伝える研究が徐々に関心を集めるようになり、2000年代半ばからは小型の振動装置でリアルな触感が再現できることを多くの研究者が体験するようになった。

 このように皮膚への力や振動などの刺激によって触覚の体験を再現したり操作をたやすくしたりする技術はハプティクスと呼ばれる。やがて2000年代末頃には画面に超音波振動を加えることで摩擦係数を変えて「ザラつき感」などの表面テクスチャを変化させることができるようになった。iOSデバイスへの採用で注目される画面の振動による操作感の改善も、これらの技術がベースになっている。

 振動触覚の技術を空中にまで拡張したのが篠田教授らによる研究だ。空中超音波による触覚再現技術は2007年末に開発され、空中超音波触覚ディスプレイとして形になった技術が、基本的に上述の各種技術につながっている。

 2009年には空中映像技術を組み合わせた「さわれるホログラフィ」が発表され、これが空中映像と同期する空中触覚提示を行った世界初のデモとなった。

 そして2013年以降、上で紹介したような技術が生まれてきたわけだが、篠田教授らは現在も新しい可能性を求めて研究を進める。例えば、空中での指や腕の動きで操作するジェスチャーインタフェースや、3D CADの画面の中の物体を手でつかんで移動するような3次元インタフェースを、触感を加えることでより自由にできるようにする研究だ。

 また、例えば離れて暮らす子供に両親とのスキンシップを仮想的に与えることや、ストレス緩和などのメンタルサポートにも応用可能なのではないかと考えている。さらに、手の動きだけでなく、触覚による全身運動の誘導にも可能性を見いだす。

 触覚生成の利用領域は、ロボット技術の一部という枠を既に壊しており、スマートフォンやタブレットの操作感改善をはじめ、エンターティンメント、アミューズメント領域、さらにはメンタルヘルスケア領域にまで広がりそうだ。どんな未来を見せてくれるのか、今後も目が離せない。

関連するキーワード

テレイグジスタンス(Telexistence、遠隔臨場感、遠隔存在感)

 遠くにあるモノや人がすぐ近くにあるように感じさせる技術はテレプレゼンスと呼ばれ、映像においては大画面、高精細のテレビ会議システムのうたい文句の1つになっている。テレイグジスタンスはさらにリアルタイムの触感伝達を含めるなどして、より臨場感や存在感を高める技術を指す。遠隔地のロボットを、まるで自分の分身のように操作するといった応用用途に注目される。

「空中超音波触覚インタフェース」との関連は?

 触覚の再現には従来は専用のグローブなどの器具が必要とされていたが、空中超音波触覚インタフェースは器具を人間が装着する必要なく、触覚を伝達できる強みがあり、テレイグジスタンスに応用可能と考えられる。ただし、触覚刺激の強さに上限があり、硬いものの操作感を再現するには無理がある。やわらかい素材の質感などのデリケートな触覚を必要とする用途に向きそうだ。

ハプティクス(Haptics)

 皮膚に与える力、振動や温度刺激、電気刺激などによって触感(触力覚フィードバック)を生む技術のこと。初期の研究では比較的大掛かりな装置を用いるものが多かったが、振動によって、そこにはないモノをあたかもそこにあるかのように、触感で表現できることの発見が、触感にかかわるVR研究の重要なエポックとなった。

「空中超音波触覚インタフェース」との関連は?

 空中超音波触覚インタフェースもハプティクスの1つ。他の研究が振動を伝える媒体として物体を使うのに対し、空間で伝えるところが大きな違い。空中ハプティクスとも呼ばれる。

超音波振動子

 電圧により伸び縮みをする素材を金属で挟み、電圧をかけて振動を起こして超音波を発生するデバイス。製造業の超音波加工装置や、医療分野のエコー診断装置などに広く利用される。

「空中超音波触覚インタフェース」との関連は?

 超音波振動子を多数格子状に並べて、個々が発生する超音波の位相を制御することで任意の位置に超音波を集中させ、音響放射圧を生じさせるのが「空中超音波触覚インタフェース」の仕組み。生成する力は大きくはないが、触感を生むことができる。

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