2020年には13兆円を超える市場規模になると予測されているIoT。産業別ユースケースとテクノジーの広がりについて詳しく解説する。
鳥巣悠太(Yuta Torisu):IDC Japan Market Analyst, Worldwide IoT (Internet of Things) Team
IoT(Internet of Things)を専門分野とし、5年以上にわたり調査、アドバイザリー業務に従事。また同分野に関する多くの講演やメディア向けプレゼンテーションなど、豊富な経験を有する。現職では、IoTに関わるビジネス動向や技術トレンドの市場分析をベンダーサイドとユーザーサイドの双方の角度から実施している。
2015年にユーザー支出額が6兆円を超えたIoT市場は、2020年に向けて年間17%に迫る成長が見込まれるITのけん引役だ。その伸び代は大きく、これからの産業と社会に多様で多大な付加価値を提供していくことが期待されている。今回は、現時点のIoTユースケースを整理した上、今後の各分野での発展の方向性、IoT活用のポイント、そしてユーザー企業のIT部門としての対応の仕方を考えてみる。
IDCはIoTを「IP接続による通信を、人の介在なしにローカルまたはグローバルに行うことができる識別可能なエッジデバイスからなるネットワークのネットワーク」と定義しており、法人や政府、個人といったさまざまなユーザーが利用するユビキタスなネットワーク環境に対して、管理、監視、分析といった多様な付加価値を提供するものと解釈している。
もっと砕いて言えば、クラウド、アナリティクス、セキュリティというITと「モノのネットワーク」であるM2Mが一体になったものという言い方もできよう。逆に言えば、IoTからIT部分を抜いたものがM2Mで、組み込み系ハードウェアや組み込み系開発、導入、運用サービス、コネクティビティの一部を含む領域のことを指す。
IDC Japanは2016年2月にIoT市場調査の結果を「国内IoT市場産業分野別/ユースケース別予測、2016年〜2020年」というレポートにまとめている。この調査では国内IoT市場におけるユーザー支出額は6兆2232億円(2015年見込み値、前年比15.2%増)と算出しており、年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は16.9%、2020年には13兆7595億円に達すると予想している(図1)。
現在の支出額だけをみてもかなり巨大な規模といえるが、IoTベンダーの側も、大手メーカーを含むユーザーの側も、まだIoTを手掛け始めた段階で本格的な展開はこれからだ。なお、ここにはスマートフォンやタブレットなど、いわゆる人間が主体となって操作するデバイスの市場は含まれない。
産業分野別に見た場合、特に大きい支出割合を占めるのは製造、運輸、公共、公益だ。多くの種類の生産機器や土木、建築機器、組み込み系機器、インフラへの支出を行ってきたこれら分野では、運用効率向上やエンドユーザーの満足度向上にIoTの活用が欠かせなくなりつつあり、関連の支出額は17%前後の成長率で推移すると予測される。
また個人消費者、クロスインダストリー分野では、スマート家電やコネクテッドビルディング(IoT技術を活用した、つながる建物)といった伸び代が大きいユースケースがけん引し、年間20%を超える高成長率が期待される。またそれ以外の産業分野においても、業種によってIoTが不可欠となるケースが多くなっていくはずだ。その現状と予測をユースケースとともに以下で述べていく。
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