アジャイル開発に対応したプロジェクト管理ツールでは、まずチームが担当する全ての要件が、保留・作業前・作業中・レビュー中・完了という5つのステイタスの今どこにあるのかを一目で示してくれる“カンバンボード”というビューを提供している(図3)。ちなみにここでいう要件とはプロジェクト自体のことではなく、開発するソフトウェアが実装すべき1つ1つの要件だ。
カンバンボードの中で各要件は、チーム内での担当者とともに横長のボックスで表されており、チームに権限委譲されている場合には、要件の優先順位付けもチーム内で意思決定できるので、メンバー間で話し合って“ある要件の優先度が上がったので、今作業中のこの要件はちょっと保留にしよう”というステイタスの変更も、該当するボックスをドラッグ&ドロップするだけで簡単にできるようになっている(図4)。
このカンバンボードを見るだけで、全メンバーは今自分たちのチームがどれぐらいの作業をしているのか、それぞれがどれぐらいの進捗状況にあるのかを把握することが可能となり、さらには「この人が担当しているこの要件は1週間以上も作業中になっているが、何か困ったことが起きているのではないか」という状況も読み取ることができる。
その場合、このプロジェクト管理ツールではバージョン管理ツールと連携することで、具体的にその人が何をしたのか、例えばソースコードを変更した内容までをトラッキングできるようになっている。
状況を見た他のメンバーは、バージョン管理ツールを介してアドバイスを送ったり(図5)、あるいは直接相談に乗ったりすることが可能となる。これはメンバー間のスキルのバラつきを解消することにもつながっていくだろう。従来のようにプロジェクトマネジャーがメンバー個々にタスクを割り当て、その進捗をExcelで管理しているような状況では、こうした相互フォローアップの環境は絶対に生まれない。
次にソフトウェア開発のプロジェクトを運用担当者の視点から見た場合、一番困るのは、開発側から追加や修正の機能が次々と押し寄せてきてデプロイしてくれといわれることだ。システムの安定稼働を最優先に考えた時、そう簡単に実装していくわけにはいかない。
そこで開発側に何が変わったのかを問い合わせてみても、きちんとテストしたのでとにかく大丈夫だといわれてしまう。これでは運用側は不安で仕方がない。プロジェクト管理ツールがデプロイツールと連携することで、プロジェクト管理ツール側の要件に付与されているIDベースで、どんな機能が追加されたのか、あるいはどんなバグが修正されたのかが分かるようになる。
これによって運用担当者は、この機能が追加されるならアップする価値がある、このバグが修正されているならアップする価値がある、という判断を行うことが容易になる。
最後になったが、ソフトウェア開発のオーナーは言うまでもなくビジネス部門だ。彼らは当然プロジェクトの進捗状況も確認したいと考えている。しかしIT部門が使うプロジェクト管理ツールは、ビジネス部門にとって見やすいものではない。そこでIT部門はビジネス部門から“進捗状況はExcelで出して欲しい”というオーダーを受けることになる。これではいつまでたっても、Excelを使ったプロジェクト管理から抜け出すことはできない。
プロジェクト管理ツールはドキュメント管理ツールとも連携して、ビジネス部門が使いやすいビューを提供する。
ビジネスオーナーは、ドキュメント管理ツール上で企画書を作成し(図7)、さらにQ&A形式の入力画面で解決して欲しい要件を作成していく(図8)。そして実際に作って欲しいタイミングが来た時、正式に開発チームに依頼して要件化するのだ。その要件は開発チームのカンバンボード上に表示され、一方のビジネスオーナーはドキュメント管理ツール上で、準備完了、レビュー中など、各要件の進捗状況を確認することができる(図9)。
ここまでアジャイル開発を支援するプロジェクト管理ツールの各種機能を紹介してきた。しかしカンバンボードのような機能は、従来型のウォーターフォール開発においても非常に有用なものだ。プロジェクト全体を一目で把握することが可能になり、仮に手戻りが発生したとしても、スケジュールの組み直しは簡単だ。少なくともExcelでガントチャートを描いて、Excel上でステイタスも変えて、という作業よりもはるかに効率的だし、全体像も見渡しやすくなる。実際にまだウォーターフォール開発が主流の企業でも、カンバンボードでプロジェクトを管理するというところは出てきているようだ。
そして最後に1点、留意すべきポイントがある。それは開発チームに権限を委譲し、今回紹介したようなプロジェクト管理ツールも導入して、アジャイル開発に臨もうとする場合には、現行の組織体制や人事制度も見直す必要があるということだ。
例えば能動的に動いてくれるチームを編成するためには、どんなメンバーが必要で、彼らを適切に評価するためには、どのような指標を設定するのかを考えなければならない。真の意味での“脱Excel”を実現するためには、今の組織体制や社内ルールにテコ入れする必要があるということも忘れてはならない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。