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買収による業界再編は? 2017年複合機市場の着地点すご腕アナリスト市場予測(2/3 ページ)

» 2017年05月31日 10時00分 公開
[石田英次IDC Japan]

グローバル市場における業界動向

 複合機をはじめとしたプリンティングデバイスを提供しているベンダー各社の動向を見てみると、2016年はグローバル市場においてさまざまな動きがあった年だといえる。ただし、日本市場に対する影響は限定的とみており、すぐに既存の環境に変化が生まれるようなことはなさそうだ。それでも、グローバルに見れば大きな変化も起こっている状況にある。その変化の幾つかを紹介しよう。

中国Apexによる米Lexmarkの買収

 大きな出来事の1つとして挙げられるのが、2016年4月に発表された中国の印刷関連消耗品大手、珠海艾派克科技(以下、Apex)による米国レックスマークインターナショナル(以下、Lexmark)の買収だろう。

 Lexmarkは米IBMのプリンタ部門が分社化する形で設立された企業で、170カ国以上の国と地域で自社開発した複合機やプリンタを展開している企業だ。大きな世界シェアを持つLexmarkだが、近年は過剰な買収による急激な事業拡大が影響して業績を悪化させており、2013年には船井電機にインクジェットプリンタ関連技術の資産を売却するなど合理化を進めていた矢先のことだ。

 対してApexはインクカートリッジなどの消耗品の製造、販売を中心に事業を拡大しており、Lexmarkの消耗品も手掛けていた。実はApexはLexmarkから消耗品販売に関連して訴訟を起こされていたこともあり、今回の買収劇は原告企業が被告企業に買収されるという皮肉なものとなっている。なお、劇的なストーリーではあるものの、日本国内についてはLexmarkのシェアはほとんどなく、影響は限定的だろう。

台湾・鴻海によるシャープの買収

 日本企業が買収された大きな話題の1つに、台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープの買収がある。液晶メーカーのイメージが強いシャープだが、実は複合機に関しては安定した事業基盤と国内シェアを持っており、シャープの中でビジネス的には堅調な事業領域だ。

 今回は鴻海がシャープを買収したことで、複合機事業にも少なからず影響が考えられるが、鴻海としては複合機事業を中心に買収したというよりも液晶パネル事業が関心の中心だ。複合機についてはシャープ内でも手堅い黒字事業であることから、鴻海側もしっかりサポートを継続しながら安定した事業基盤として伸ばしていく方向だと考えられる。そのため、日本国内でシャープの複合機がすぐに大きな変革に迫られることは現状考えづらい。

米HPによる韓国サムスン電子のプリンタ事業の買収

 ユーザー企業に直接影響はないものの、業界としてはそれなりにインパクトがあると考えられているのが、米ヒューレット・パッカードによる韓国・サムスン電子のプリンタ事業買収だ。大前提として、日本市場においてサムスン電子のプリンタなどの複写機はほとんど流通しておらず、マーケットへのインパクトは限りなく小さい。もちろん、日本HPがサムスン製の複合機を自社ブランドとして今後展開していくことも十分考えられるが、今すぐ提供されるわけではない。

 それよりも大きいのは、サムスン電子が持っていたレーザープリンタの技術を米HPが取得したという事実だ。実は、HP製のレーザープリンタは世界シェアナンバーワンを誇っているが、現状のレーザープリンタはほぼ全てキヤノンからOEM供給されたものだ。

 今回の買収によって、HPは自社の技術でレーザープリンタが製造できるようになるため、キヤノンからのOEM供給がどうなるのかは不透明だ。それでも、買収の効果を最大限生かすのであれば、自社開発の製品を提供するのが筋であり、キヤノンとしては心中穏やかではないだろう。

東芝グループの動き

 東芝のグループ会社で、原発事業を手掛ける米ウェスチングハウスが買収したサービス会社の1つ、米CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)の業績悪化に伴い、厳しい経営のかじ取りが求められている東芝グループ。

 同グループの中で複合機を手掛けているのが東芝テックで、国内のシェアを見ても多くの企業が同社の複合機を活用しているのは間違いない。2017年5月現在、東芝本体の経営が不透明な状況にあることはご存じの通りだが、東芝テックが手掛ける複合機事業は堅調な状況だ。業界内では何か動きあるという話は現時点で聞こえてこないが、半導体をはじめとした東芝本体での動きが落ち着いてから、何かグループとしての動きが起こる可能性はある。

 他にも、米デルのプリンタ販売の縮小など幾つかの話題はあるものの、日本国内に大きなプレゼンスを持っている企業の動きではないものは多い。実際には、ここ10年間の日本市場を見ても、各複合機ベンダーのシェアは大きく変化しておらず、安定した状況が続いている。ただし、上記のような業界動向に見られるように、複合機事業以外の周辺がざわついている状況にあり、日本市場でも安定したまま推移していくとは考えづらい。業界の動きに今後も注目いただきたいところだ。

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