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1巻で約330TBを記録できる「スパッタテープ」とは?5分で分かる最新キーワード解説(2/3 ページ)

» 2017年09月20日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

「ナノグレイン磁性膜」をスパッタ法で形成

 まずは単位面積にどれだけ多くの磁性粒子を詰め込むかだ。現行LTO-7テープの場合の磁性粒子にはバリウムフェライト磁性体が用いられ、粒子サイズは約20ナノメートルである。一般的に、これはレジン(樹脂)に磁性粒子を混ぜてテープのベース素材の樹脂フィルムに塗布する方法で作られる。

 同社が用いたのは「スパッタ法」という薄膜形成技術だ。これは従来の塗布法とは全く違い、真空蒸着とも違う方法で、放電現象によりアルゴンイオンを磁性膜の材料に衝突させ、その衝撃で弾き飛ばされた成分をベース樹脂フィルムに付着させる技術である。この技術で5マイクロメートル厚以下の樹脂フィルムに一度に磁性膜を形成できる。レジンを含まないのでその分も薄くでき、磁性膜は約7ナノメートルの磁性粒子が均一に配列された状態になる。この磁性膜を同社は「ナノグレイン磁性膜」と呼んでいる。

 テープは図2のような積層膜構造になっているが、ベースの樹脂フィルムに対して1回のスパッタ法プロセスによって磁性膜以外の層の膜も同時に形成できるという。これには同社の蒸着テープ製造技術が生かされているとのことだ。

スパッタ法により、均一な多層膜を一度に形成 図2 スパッタ法により、均一な多層膜を一度に形成(出典:ソニー)

 このスパッタ法による磁気テープ製造技術は2014年に発表されたものだが、当時は未達成だった1000メートル以上に及ぶ長尺テープを製造可能にしたことが今回の大きなポイントである。

摩擦を防ぐ新たな潤滑油

 もう1つのテープ側のポイントは、潤滑剤を新しく開発したことだ。記録密度が上がると、読み取りや書き込みのヘッドとテープ表面との間のミクロな空間(スペーシング)での読み書きのロスが従来よりも大きくなる。それを防ぐためにスペーシングをできるだけ小さくする必要があるのだが、空間が狭くなればなるほど摩擦が生じやすくなり、テープの摩耗が起きやすくなる。それを防ぐのが潤滑剤の役割だ。ソニーは分子レベルから新潤滑剤を設計し、耐摩耗性のある物質を開発した。

ヘッドとテープ間のスペーシングの微小化に対応する新潤滑剤を開発 図3 ヘッドとテープ間のスペーシングの微小化に対応する新潤滑剤を開発(出典:ソニー)

 一方、IBMのテープドライブ側のポイントは、48ナノメートルサイズの読み取りヘッド(極狭幅のトンネル磁気抵抗(TMR)リーダー)の開発と、そのヘッドを7ナノメートル以上の精度で位置決めできる正確なサーボ制御技術の開発である。これにより1インチ当たりのトラック数は24万6200にまで増えた。

 加えてノイズ予測検出原理に基づいたデータチャネル用の革新的な信号処理アルゴリズムも開発したのも1つのポイント。IBMはこれにより、1インチ当たり818000bitの線密度で信頼性の高い動作を実現できたとしている。

 こうしたさまざまな新技術を開発し、テストした結果、1インチ当たりの面記録密度が約201Gbitの画期的なテープが現実のものになったわけだ。

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