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チャットボットが企業に与えるインパクトすご腕アナリスト市場予測(2/5 ページ)

» 2017年11月22日 10時00分 公開
[長谷佳明野村総合研究所]

チャットサービスのビジネス活用

 ここで整理も兼ねて、チャットサービスのビジネス活用の変遷を図1に示した。LINEが登場した2010年代前半は、製品情報の提供やクーポンの発行など主に広告メディアとして使用され、企業側が一方的に情報を配信する「片方向」の活用にとどまっていた。

 変化が訪れたのは、2015年ごろである。爆発的に広がったチャットを顧客接点でさらに利用したいという機運が高まり、チャットボットの活用が検討され始めた。チャットボットにより、企業と顧客が1対1で会話しながら、商品提案から販売まで完結する「双方向」の活用へと変化したのである。その事例の1つが、冒頭のSMBC日興証券の「AIチャットボットサービス」である。

チャットサービスのコンシューマー向けビジネスでの活用の変遷 図1 チャットサービスのコンシューマー向けビジネスでの活用の変遷(出典:野村総合研究所)

 最近では、企業内のコミュニケーションツールとしても、チャットが注目を集め始めている。米サンフランシスコに本社を置くSlack Technologiesが提供しているエンタープライズチャットサービス「Slack」がその代表である。Slackは2014年2月に一般向けのサービスを開始し、わずか3年で900万ユーザーを抱えるまで成長した(2017年9月時点、週間アクティブユーザー数)。

 他にも、メール市場で大きなシェアを握るマイクロソフトは2017年3月に対抗サービスとして「Teams」をスタートし市場に参入、ソフトウェア開発管理システムで有名なアトラシアンは2017年9月に同社のチャットサービス「HipChat」の後継として「Stride」をリリースするなど、企業向けチャットサービスは、ブームになりつつある。

業務システムとの統合を前提にしたビジネスプラットフォームへと進化

 2010年ごろにも、Salesforceの「Chatter」が登場、ソーシャルメディアの使い勝手を企業向けにカスタマイズした使い勝手の良い「情報共有ツール」として一躍脚光を集めた時期があった。

 しかし、現在のブームは、チャットサービスをハブとし、業務システムなどの外部サービスとの統合を前提とした「ビジネスプラットフォーム」となっている点が異なる。このため、自らのAPIを公開、サードパーティーによる自社のプラットフォーム上でのアプリの開発を可能としている。

 例えば、「Googleカレンダーと連携させて、スケジュールが近づくとチャットサービス内に通知が届く」「経費精算システムと連動させて、チャットサービス内で清算に必要な全てのやりとりが終わる」といったことが可能になる。

 しかも、連携させた外部アプリケーションの操作はチャット上で直接行えるため、その都度画面を切り替えることなくシームレスに作業できる。この外部システムとのやりとりの中で、昨今、業務システムを対象に活用が目立つのが実はチャットボットだ。

 このB2B向けともいえるチャットボットの特徴の1つが、まるで自分の専任の秘書を持つかのように、業務システムの煩わしい入力作業を代行する「アバター化」だ(図2)。

チャットボットによる業務システムのアバター化 図2 チャットボットによる業務システムのアバター化(出典:野村総合研究所)

 従来の業務システムでは、ユーザーが画面の仕様を理解し、必要事項を考えデータを整理して入力する必要があり、必ずしも使いやすいシステムばかりではなかった。しかし、チャットボットが業務システムとのやりとりを日常会話によって仲介すれば、ユーザーの意図や入力に合わせて操作をエスコートできる。

 ユーザーは、画面の仕様に惑わされたり、入力データを整理したりといった煩雑な作業から開放されるのである。チャットボットが業務システムの新たな「ユーザーインタフェース」として振る舞い、利便性を高める点に気付き始めた企業が先手を打ち始めたのである。

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