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チャットボットが企業に与えるインパクトすご腕アナリスト市場予測(5/5 ページ)

» 2017年11月22日 10時00分 公開
[長谷佳明野村総合研究所]
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身近に体感できる、チャットボットのビジネス活用

 ヤマト運輸のLINE公式アカウントでは、チャットとチャットボットを組み合わせており、LINEを使って手軽に配達状況の確認や再配達の依頼ができる。同社では、従来同様の機能をもったウェブサイトを運営していたが、必要な情報にたどり着くまでに要する操作が多く、直感的な操作が困難であった。そこで、LINE上に問い合わせ項目を選択するメニューボタンと、チャットで問い合わせ可能な仕組みを構築した(図5)。

ヤマト運輸LINE公式アカウントの起動画面 図5 ヤマト運輸LINE公式アカウントの起動画面

 顧客はまず、依頼対象のメニューを選択し、チャットを開始する。チャット中は、コールセンターのオペレーターとの会話のように、チャットボットが必要事項をその都度確認してくるため、はじめてのユーザーでも戸惑うことは少ないと思われる。

 例えば、再配達を依頼した場合、依頼時に入力した内容とその後の通知がチャットメッセージ上で一覧可能であるため、わざわざ過去のメールを検索して、履歴を追う必要がない。普段から友人や家族との連絡手段としてLINEを使っている人であれば、メールに比べ、不在通知の確認漏れも少なくなるだろう。

 このサービスは、機能だけをみれば、これまでウェブサイトを通じて提供してきたものと本質的に違いはない。しかし、使い慣れたLINEと統合し、チャットボットによるやりとりに変えるだけで利便性を向上させ、顧客体験の高度化が可能なことを示している。

チャットボット活用事例「Concur Bot」

 経費管理システム大手の米Concur Technologiesは、スマートフォン向けのアプリをリリースするなど使い勝手の良いシステムと、例えばEU諸国の付加価値税(Value-added tax,VAT)の還付サービスとの提携による手続きの自動化など関連する便利な機能が多いことで有名だ。

 日本では2017年10月に、Suicaの履歴データを使った経費精算の自動化を発表し、海外企業でありながらも各国の事情に応じたサービスを展開する企業としても認知されている。そのConcurが、さらなる一手としてはじめたのが、自社のサービスをSlackなどのチャットサービス内から利用可能とする「Concur Bot」だ。先にあげた業務システムのアバター化の事例に相当する。

 Concur Botは、出張日が近づくと旅程を案内したり、チャット上で会話しながら経費精算を行ったりできるなど、まさに「秘書」のように振る舞うチャットボットだ。いくら使い勝手を良くしたインタフェースを用意したとしても、全てのユーザーが一切のサポートなく使えるとは限らない。その点、チャットボットを介せば、まるでシステムに詳しいサポート担当者に手取り足取り助けてもらう様に利用でき、極めて便利であることは言うまでもない。昨今の情報を詰め込みすぎたWebサイトは、アプリやスマートフォン対応などで幾分かシンプル化の方向に進んでいるといえど、究極のインタフェースは、チャットボットなのかもしれない。

 チャットボットの歴史をひもとき、要素技術としてAIの進歩、環境変化としてLINEなどのチャットサービスの広がりに着目し、なぜチャットボットが今注目されているのか説明した。顧客接点を狙ったB2C向けやコールセンターなど一部の業務向けのものと捕らえがちなチャットボットであるが、業務システム向けにも活用の裾野が広がり始めている。

 その一例が、チャットボットにより煩わしい入力操作などを代行させる業務システムのアバター化だ。Concur Technologiesの先進事例を紹介したが、同社の親会社であるSAP、そしてライバルであるOracleも同様の動きを進めているといわれ業務システムのインタフェースとしてチャットボットが広まっていく可能性が出てきた。

 しかし、チャットボットに使われている要素技術である自然言語処理技術は進展したといえど、いまだにルールベースの技術に基づいており万能な会話とまではいかない。だからこそ、活用する側のシーン設計や配慮を必要とすることも事実である。2017年11月に入り、ついにAIスピーカーのマーケットを生み出したAmazon Echoが日本にも上陸した。Echoに住まう「AIアシスタント Alexa」は、会話型AIともいわれチャットボットと要素技術で共通点も多い。

 AIスピーカーのビジネスでの活用を狙う企業にとってもチャットボットは参考になる技術であることは言うまでもない。本稿を通じて、少しでもチャットボットへの理解とビジネスへの活用が進めば幸いである。

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