社会情勢が激しく変化する中で、顧客も慎重な姿勢を見せる。自社の製品やサービスを顧客に買ってもらうために本当に大切なことは、価格や品質以外にあった。
CRM(顧客関係管理)プラットフォームを提供するHubSpot Japanは、「日本の営業に関する意識・実態調査2023」の調査結果を発表した。これは、営業活動において「変化するもの」と「変化しないもの」を明らかにし、今後の営業部門の在り方を模索するためにHubSpot Japanが実施したものだ。
本稿では、本調査結果を基に「業務効率」「営業スタイル」「顧客が求めること」「マネジメント」「職場環境」の5つの項目から、今営業部門が考えるべき課題を明らかにする。
営業担当者に「働く時間のうち無駄だと感じる時間の割合」を質問した設問では、回答をまとめると「働く時間のうち22.37%を無駄だと感じる」という結果となった。この「無駄な時間」を金額に換算すると年間9802億円に上り、2021年12月と比較すると8294億円から約1500億円増加したことになる。
時給:「令和3年分民間給与実態統計調査」(国税庁)の「1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与(年収)」の443万円を利用して算出。
営業職就労人口:「令和3年賃金構造基本統計調査」小職種「営業・販売事務従事者」を「法人営業職」と定義。
1日の労働時間:法定労働時間の8時間に、今回の調査で明らかになった営業担当者の1日当たりの平均残業時間1.88時間を加えて算出。
営業活動の無駄な時間が増加した増加した要因として、以下3つの要素が増加していることが考えられる。
また、営業業務の中で無駄だと思うものを売り手に選択式(複数回答)で尋ねたところ、1位が「社内会議」(51.7%)、2位が「社内報告業務」(39.5%)と社内コミュニケーションや情報共有に関する項目が上位に並んだ。
法人営業組織におけるテレワークの導入率は56.2%と前回調査の59.6%から微減した。コロナ禍の制約の緩和により出社ポリシーの見直しが進んだ結果だと考えられる。「電話・E メール・DM・ビデオ会議」などを用いたリモート営業の導入率は42.1%となり、前回調査の40.4%から微増した。
テレワークによる働き方や営業スタイルの変化が続く一方で、CRMを導入する営業組織の割合は36.1%と、微増しながらも依然として低調な結果が続く。自社の顧客管理の方法が「明確ではない、分からない」と答えた割合は31.0%と例年の調査結果と同水準であり、顧客データが組織で適切に管理、共有されていない状態で営業活動を続けている企業が多い。
「訪問型営業とリモート営業のどちらが好ましいか」を売り手と買い手のそれぞれに尋ねる設問では、過去3回の調査結果をたどったところ、売り手と買い手の変化には特徴があった。売り手側はコロナ禍以前の2019年から「訪問営業の方が好ましい」と考える人が最も多く、全体の傾向は直近の4年間で大きく変化していない。一方、買い手側は「どちらでもよい(状況に応じて柔軟に対応してほしい)」が前回の調査から約4割で高止まりし、今回の調査では前回の調査とほとんど変化が見られなかった。
買い手に対して「ビジネスシーンにおいて、どのような企業からサービスや商品を購入したいと思うか」と尋ねた設問では、前回の調査と同様に、1位が「信頼できる」(41.7%)となり、2位の「製品の品質が高い」(30.5%)や3位の「価格に見合う製品やサービスを提供している」(28.3%)を上回る結果となった。また、「信頼」を選択した買い手は2022年より8.1ポイント増加し、マクロ経済状況が厳しく変動する中でも価格や品質よりも信頼の重要度が増していることが分かる。
さらに、「企業に対する信頼につながる要素」を聞いた設問(複数回答形式)では、「営業担当者が要望を的確に実行してくれる」が59.4%と最も多くの回答が集まり、「営業担当者が真剣に考えてくれる」(53.6%)、「企業として言動が一致している」(52.4%)などが上位を占め、前回調査と同じ順位となった。経済状況が変わっても買い手は関わり方の質が信頼につながると考え、信頼の築き方に変化はないことが分かる。
売り手に、営業部門における従業員教育やマネジメント面の課題を尋ねた設問(複数回答形式)では、前回の調査と同様に1位は「従業員のモチベーション維持」(45%)であった。従業員のメンタルヘルスの実態を見ると、営業現場で働く人の61.3%が「直近1年間で燃え尽き症候群やメンタルヘルス不調を感じたことがある」と回答し、営業組織のメンタルヘルス向上は深刻な課題の一つであることが分かる。
一方、企業側の取り組みについて、「勤務先が燃え尽き症候群やメンタルヘルスの不調の改善に向けて積極的に取り組んでいるかどうか」を尋ねたところ、「そう思う」または「ややそう思う」と答えた人は売り手の3割未満にとどまる。さらに、「勤務先が実施するメンタルヘルス向上への取り組みは効果があると思うか」と尋ねた項目では、「そう思う」「ややそう思う」と答えた人は売り手全体の22.7%だった。回答者を営業担当者に絞ると16.7%にとどまり、営業部門のメンタルヘルスに対する取り組みについて、検討の余地のある結果となった。
営業責任者と営業担当者に、燃え尽き症候群やモチベーション低下につながるメンタルヘルスの不調の要因として、仕事量の多さや挑戦機会の少なさ、組織からの期待や支援不足がどの程度あてはまるかと尋ねたところ、「仕事量の多さ」(67.6%)と同じく、「上司や組織からの支援や期待の不足」(60.6%)や「仕事における挑戦機会の少なさ」(51.9%)も原因であることが分かった。
それぞれの要因に「あてはまる」と答えた人を対象に、その原因となる組織の課題を複数回答形式で尋ねたところ、営業担当者からの回答は主に以下の3つに分けられる。
これらの結果から、「従業員のスキルを身に付ける、スキルを伸ばす支援」の不足は営業組織の課題の一つであることが分かる。実際に、売り手の48.4%は「人材育成」を営業部門の課題と捉え、51.3%が「システムを活用できる人材の採用/育成」に時間がかかっていると回答した。
メンタルヘルス向上や人材育成の観点においても、従業員の学びやスキル習得といった「リスキリング」を企業が支援する動きは今後さらに重要になることが予想される。
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