メディア

LPWA方式、選択のポイントは結局セルラー系が本命か?すご腕アナリスト市場予測(2/3 ページ)

» 2017年12月27日 10時00分 公開
[ガートナー ジャパン]

LPWAの主要4規格

 表1に示すように広域向けのIoT無線通信技術は複数存在する。ただ、セルラー通信の2G/3Gは高スループットかつ高価なデバイスとなってしまうし、5Gは2020年以降の話である。従って、LPWAとして現在考え得る選択肢は非3GPP系のSigfox、LoRAWANおよび3GPP系のLTE-MTCとNB-IoTの4規格である。

 これ以外にも類似した特徴をもつ民間企業の独自規格が多数あるが、ひとまずこれら4規格が導入検討対象として最有力なものといえるだろう。

LPWA含む主要なIoT向け無線通信技術の比較 表1 LPWA含む主要なIoT向け無線通信技術の比較(出典:ガートナー)

 大きく分ければ「アンライセンス」バンドを利用するか、「ライセンス」バンドを利用するかの違いがある。周波数割り当てが不必要なのはSigfoxとLoRaWANである。LTE導入が遅れた欧州ではLTEのカバレッジがそう広くないという事情もあり、GSMがM2M/IoT向けに主に使われていた。

 GSMの弱点を突くかのようにフランスのベンチャー企業が立ち上げた、オープン標準であるLoRaWANと、Sigfox社のグローバルなクラウドサービスを基盤とするSigfoxが世界レベルで普及しつつある。

 LoRaWANの場合は、通信事業者がLoRaWANをパブリックなネットワークとして提供しない限り、ゲートウェイを設置してネットワークをユーザーが自前で整備する必要がある。Sigfoxの場合は、1国1事業者が提供するSigfox基地局のカバーエリア内でなければ使えない短所がある。

 半面、LoRaWANのように仕様がオープンであればユーザーの創意工夫の余地が大きくなり、またSigfox基地局が十分に設置されればカバーエリアの問題は解消される(日本では京セラコミュニケーションシステムがサービスを提供しており、2018年には国内主要36都市、2020年には全国カバーを目指している)。

 一方のライセンスバンドを利用する方式は3GPP準拠の「LTE-MTC」と「NB-IoT」である。これらは現行のLTE技術をベースに拡張した規格であり、国内では広い人口カバー率を持つLTE基地局が、わずかな変更だけでそのまま利用できる長所がある。しかも、表1の比較項目に見るように、「双方向性」「通信速度」「通信信頼性」について、非3GPP系のSigfox/LoRaWANよりも優れている。

 実はガートナーは、2年前から、前述した利点および「ソフトウェアアップグレードに対応可能」である3GPP系の技術を優先することを既存セルラー通信事業者に対して推奨してきた。

 ソフトウェアアップグレードとは、LTE基地局や関連ネットワーク装置のソフトウェアやファームウェアをセンター側からの通信で更新するということだ。通信事業者が管理する基地局を一斉に更新する際、極論すると全国の基地局を1日で更新できる可能性があると考えている(ただし古い基地局の場合はソフトウェアアップグレードが可能かどうか疑問は残るので100%ではない)。

 SigfoxやLoRaWANでは使われている周波数帯が違うため、一から基地局を配備する必要があり、全国規模なら下手をすると数年かかる可能性もあると見なければならない。

 LTE-MTCはこの意味では有力な選択肢といえるのだが、通信コスト面とデバイスコスト面では他方式よりも高めになると予想されている。むしろ注目度が高いのが、NB-IoT(ナローバンドIoT)だ。中国ではこの方式を用いたレンタル自転車などに見るように、国を挙げてのエコシステム形成に力を入れている。

 代表的な企業のファーウェイはLTE導入を同国内で成功させ、その実績をもとにグローバルでもLTE普及にまい進しているところだ。NB-IoTの商用ネットワークは既に始まっておりend to endのサービス・ビジネスモデル構築はまだこれからというところではあるが、産官連携に伴い今後は爆発的な普及が予想される。それによって形成されるエコシステムは無視できないものになりそうだ。

 また、新しい動向として、NB-IoT仕様をアンライセンスバンドで利用しようという動きも海外では議論されているようだ。ただ、ネットワーク機器、デバイスの準備および法規制などをクリアする必要があり、現時点で簡単に商用できるわけではないが、将来的にはSigfoxやLoRaWANと競合する可能性もあり得る。

 なお、ベンダーロックインの可能性も考えておく必要があるだろう。ベンダーの独自規格はもちろん、オープン規格であっても、対応製品は限られる。一方、3GPP標準仕様に基づく製品ならば、現在の携帯電話やスマホに見るように、通信サービスを他社に変えても何の問題もない。

 またICT企業の常として、買収などによる事業統廃合が行われてサービスが変わる(最悪は停止する)可能性もないとはいえない。3GPP系の技術なら多数のベンダーによる標準化されたエコシステムが簡単に崩壊することはないと期待できる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。