2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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数度の組織再編を経て、商社・メーカーの機能を併せ持つ繊維業界で唯一の企業となった帝人フロンティア株式会社(大阪市北区)。同社では、業務効率向上による収益体質の強化を図るために、既存の業務内容や業務フローの抜本的な見直しを図る「BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)」に取り組んでおり、2017年6月に、その一環として、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のソフトウェアを導入。定型的なバックオフィス業務の効率化で急速に実績を挙げている。現在ロボットが担う業務の内容や導入の経緯、ロボット化がもたらした社内へのインパクトなどを取材した。
「当社の源流は、明治時代から続く繊維商社。毎月の入金業務では、EDI(電子データ交換)の対象となっていない紙ベースの事務作業が多く残っています。従来、取引先から返送されてきた支払明細書をもとに基幹システム上の売掛金データを消し込む作業には全社で月260時間を費やしてきましたが、OCR(光学文字認識)とRPAの導入によって月35時間まで短縮。86%の削減を実現できる見通しです」。そう説明するのは、今回RPA導入プロジェクトを統括する帝人フロンティアの池田正宏財経本部長だ。
導入したロボットは、入金業務の担当者がスキャンした支払明細書の画像から、取引を行った部署と伝票の番号をそれぞれOCRで読み取って基幹システムにアクセス。読み取ったデータと一致する取引の記録を呼び出し、売掛金を消し込む処理までを自動で行う。何らかの理由でコードが読み取れなかった場合や、誤認識が生じたとみられるケースでは担当者に通知メールが送信される仕組みのため、自動実行中に立ち会う必要もない。明細書とシステム上のデータを1つ1つ人間が照合していた従来の手続きに比べ、作業効率は飛躍的に高まった。
決められたフォーマットの重要部分に絞って読み取る方式を採ったことで、OCRの認識精度は当初から85%を達成。さらに「読み取らせる部分を枠で囲むことや、余白を増やすこと、誤読の少ないフォントに変更することにより、現在は100%近い認識率に達している」(池田氏)という。
社員が本業の合間を利用するなどして、RPAの導入開始からおよそ半年のうちに開発されたロボットは13体にのぼる。現在はOCRとの連携のほか、SAPをはじめとする基幹業務システムとデータベースの間、またシステム相互間の連携についてもロボットが自動で行っている。同様の仕組みをシステム開発会社に依頼して構築する方法に比べ、運用開始までのスピードは圧倒的だ。
2012年10月に設立された帝人フロンティアは、繊維商社の帝人商事と、日商岩井(現・双日)の繊維部門を前身とし、帝人グループ内から移管されたアパレル向けのポリエステル繊維事業を統合して誕生。17年4月には帝人の産業資材向けポリエステル繊維事業も統合し、最新の市場ニーズを反映した素材・製品の提供に注力している。
成り立ちが異なる複数の企業が統合し、本社機能を一元化させる必要があることなどから、16年10月からは全社的なBPRのプロジェクトを開始。RPAの導入検討も、同社のBPRを支援しているアビームコンサルティング株式会社からの提案がきっかけだった。
なぜ、BPRの中でRPAだったのか。アビームコンサルティングのRPA専門チームを率いる執行役員の安部慶喜氏は、狙いをこう説明する。「業務の進め方を見直すBPRは長期的な視点で行うもので、社内ルールを整備するなど、目の前の仕事を楽にすることに直接つながらない取り組みも必要です。なぜBPRが必要か、現場レベルではどうしても理解されづらいだけに、省力化の効果がすぐ分かりやすいRPAを、まずは受け入れてもらう。確かな効果があるロボットをどう増やすかという視点から、現場で業務改革に対する意識が高まれば、BPRの取り組みにも拍車がかかると考えたのです」
BPRを成功させるカギとなる関係部署の理解と協力をどう取り付けていくか、池田氏も幾度となく検討を重ねていた。ただ、RPAの効果について当初は懐疑的だったという。
「私がRPAについて詳しくなく、なかなか活用法をイメージできなかったのです。RPAを提案された当時、BPRのプロジェクトでは現場からの協力が得られるよう、現状の人員配置を大きく変えないといった配慮をしていたのですが、それでも業務分担を変えるにあたっては新たな作業が増える場面もありました。こうした局所的な作業増をRPAで少しでも軽減できないかと考え、試しに総合職と一般職の社員にツールを使ってもらったところ、彼らの感想から『使える』という手応えを感じたのです。経営陣からは『チャレンジの価値がある』と強く背中を押され、導入費用は私が決裁できる範囲内だったものの、最終的には全社プロジェクトとして導入が決まりました」(池田氏)
RPAに関して初めは慎重だった池田氏だが、自らトップを務める財経本部を手始めに導入を進めていくにつれ、全社展開への確信は深まる一方だという。
「特に総務・人事部門はRPAを活用していく上で“宝の山”という印象を持っています。というのも、電話代やコピー代といった従業員個人単位の精算業務を多く抱えていながら『いったんシステム化すると組織再編時の改修が追いつかない』という理由で、いまだに多くを人手に頼っているからです。『煩雑な業務を短期間に自動化でき、事後に作業内容が変わってもカスタマイズで柔軟に対応できる』というRPAのメリットが存分に発揮できると期待しています」(池田氏)
現場主導型の業務効率化ツールであるRPAを導入し、運用を軌道に乗せられるかどうかはBPRと同様、対象業務を担う従業員のモチベーションにかかっていると言ってよい。
池田氏によると、かつての自身のような“慎重派”は社内のベテラン層に多く、説得の材料として最も効果的なのは「とにかく結果を出すこと」。最初から業務全体の自動化にこだわらず、工程の一部からでも実際にロボットを使い始めて一定の成果を出すことが職場の不安を取り除き、メリットの実感につながるという。
「昔、会社にEメールが導入されたばかりの時代には添付ファイルが無事届いたかどうか、送信後に先方へ電話で確認する人がいました。今となっては笑い話ですが、RPAについても設定さえ正しければ人間のようなミスはしないのに、重要な金額計算があっさり終わるのを見て不安がる人がいます。そこで決済の集中日には念のため要所では検算もしながら、ロボットの信頼性を実績で示してきました。抵抗感が薄れるにつれ、より効果的な用途に期待する声も出てくるようになっています」(池田氏)
現在ロボットの作成と運用を担っているのは、財経本部を中心とする20代から30代までの8人。初期メンバーに選ばれた6人は3日間の集中研修でロボットの作成を学んでおり、ロボット化後の作業手順や出力するフォーマットの体裁といった細部まで、対象業務の担当者と相談しながらブラッシュアップを重ねている。同時に、基幹システムへのアクセスなどセキュリティーに関する領域では情報システム部門とも緊密な連携が取られている。
彼らRPAの担当者はすべて本来の担当業務を持っており、ロボットの開発を専任としているわけではない。にもかかわらず意欲的なチャレンジが続いている理由を池田氏は「創意工夫で目に見える成果が出せるRPAは、決められた手順通りに処理するだけの仕事に飽き足らない若手にとってモチベーションを刺激される面がある」と分析。さらに「間接部門の業務には営業成績のような分かりやすい指標がなく、所属部署を超えて評価される機会も少なかったところ、社内報などを通じて導入が全社的に注目されているRPAは、やりがいを持って取り組める条件がそろっている。今後は間接部門から社内の各部署へ出向いてロボット化のポイントを探れる専任者を育てつつ、各現場でもロボットが分かる人材を増やし、情報システム部門とも連携して組織的に展開するのが理想」と推進体制の青写真を描く。
RPAの活用を軌道に乗せたいま、自社にとって最大のメリットは何かを尋ねると、池田氏は「個別の業務を効率化する便利なツールなのは確かだが、本質的には業務改革・意識改革の意識を広める効果がもっとも大きかった」と回答。「今やっている仕事が本当に必要か見直し、効率的なやり方を考えようという前向きな発言が社内で増えた」と話す笑顔が、この技術の真価を何よりも雄弁に物語っていた。
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